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亡き皇帝のためのパヴァーヌ  作者: 五十鈴 りく
第2部✤花嫁によるメヌエット✤

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28/49

5◇恋敵

 ブランシュは眠ろうとベッドに入り、うつらうつらするたびに夢を見て飛び起きる。

 セヴランが追ってきて、逃げ道の先にはダルコスがいる。そんな夢だ。


 起きて、涙が止まらない。

 大好きな人ができて、その人がブランシュを好きでいてくれるのに、飛び込んでいけない。

 こんなことならノアのところに逃げ込まなければよかったのだろうか。


 ぼうっとしながら寝るのを諦めた。

 そして、朝になってやってきたノアが神妙な面持ちで言ったのだ。


「……今朝、陛下から俺の結婚相手を用意すると告げられた。あまり君を困らせるなということだろう」


 皇帝は、大事なノアを傷つけているブランシュはノアに相応しくないと見切りをつけたのだ。

 忠誠心に溢れるノアが皇帝に逆らうことはあり得ない。この話を受けるのだろう。

 ショックで何も答えられなかった。ノアも返答を聞きたくなかったのか、言うことだけ言って去った。


 ブランシュはノアが部屋から出ていくなり、ベッドの上で体を丸くして泣いた。

 セヴランを呪いながら。




 頭が痛くなった頃、部屋の扉が叩かれた。メイドが食事を持ってきてくれたのかと思ったが、聞き覚えのない女性の声がした。


「御免ください。少しお話をさせて頂きたいのですが」


 誰だろうかと思い、ブランシュは涙を拭いて扉を開けた。そうしたら、そこには絶世の美女がいた。

 豪奢な青いドレスに身を包み、結い上げた金髪に白薔薇を挿している。折れそうに細い腰をしているのに胸元は豊かだ。


 年齢は二十歳くらいだろうか。こんなにも優雅で美しい人には出会ったことがなかった。同性なのに見惚れてしまう。

 その女性は艶やかな唇でにこりと微笑んだ。


「わたくしはプレオベール公爵家のミュリエルと申します」

「は、はぁ」


 とっさに間の抜けた声を出してしまった。


 どうやらこの女性は公爵令嬢らしい。それならばこの気品もうなずける。

 礼儀作法をろくに知らないブランシュを、ミュリエルは上から下まで眺め、そしてまた笑った。


「わたくし、この度、オルグ将軍の婚約者に推挙されましたの」

「えぇっ!」


 根回しがよすぎる。あの皇帝がずっと前から計画していたとしか思えない。

 しかし、身分も美貌も最高峰だ。なんの文句もつけられない。あまりにも眩しい。

 呆然としているブランシュに、ミュリエルはうっとりするような声で言った。


「わたくしはずっとオルグ将軍に恋をしておりましたの。それを陛下もご存じで、わたくしにお声がけしてくださったのですわ」


 こんなにも綺麗な令嬢がノアに片思いをしていたと。

 ノアはまったく気づいていなかったのだろうか。


「あんなに素敵な御方は他にいらっしゃいませんもの。でも、あなたはそうはお思いにならないのかしら?」


 妙に勝ち誇ったように言われた。


「そ、そんなことはございません。ノア様は素晴らしい御方です」


 やっとのことで言葉らしきものを返すと、ミュリエルは綺麗なのにどこか意地悪く笑った。


「あらそう? でも、あなたには不釣り合いな男性よ。身を引くのが正解だわ。あなたもそれをわかっているからお返事ができないのでしょう?」

「それは……」

「いいのよ、それで。とにかく、オルグ将軍と結婚するのはこのわたくしだということをあなたに告げに来ただけなの」


 グッと唸ることしかできなかった。

 ミュリエルは今にも高笑いしそうな調子でドレスを翻して去っていった。


 ――ノアとミュリエルが寄り添っているところは絵になるだろう。背も高かったので、長身のノアといても見劣りしない。華やかな美人だから、ノアもきっとすぐに彼女を好きになる。

 ブランシュを忘れて。


「――――っ!」


 嫌だな、ととても勝手なことを思った。

 そして、また次なる来訪者がブランシュのもとへやってきた。


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