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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短めのおはなし

婚約破棄された王子の婚約者は、全てを掌握する〜「目には歯を陰口には洗脳を」〜

「まぁ。鼠色のご令嬢よ」

「あんなご令嬢が、王家に相応しいのかしら?」



 鼠色と言われたグレーの髪を持つわたくしは、ルチアナ・マルティーダと申します。第一王子ハムルさまの婚約者です。

 わたくしは公爵令嬢ということもあって、物理的には攻撃はされません。しかし、わたくしの姿を見るたびに悪口……いえ、ご指摘をいただきます。お口がお疲れにならないのかしら?






「お母様……わたくし、今日もご指摘をいただいてしまったの」


「あなたも貴族の令嬢なのだから、ご指摘を受けないようになりなさい。もっとお強くなるのよ」


「はい……」


 もうすでに、思いつく限りの大人には相談いたしました。しかし、ご指摘を受けるわたくしが悪いそうなのです。




「マーキュリー伯爵夫人。こちらの政策について、質問がございます」


「まぁ、ルナアンヌ様。公爵令嬢ともあろうお方が、そんなこともご存じないなんて」




 わたくし、少しでも早く王家の一員としてお力になりたいのです。しかし、ご指摘になってしまいましたわ。貴族間のご指摘はいじめなどとは違うと言われてしまいます。平民同士、もしくは貴族から平民への行動はいじめとして、厳しく律されますのに。



「……ハムル殿下。わたくし、みなさまからのご指摘に心が折れてしまいそうですわ」


「おまえも我輩と結婚すれば、王族になる。王族たるもの強くあれ。それに、貴族なのだから、それくらい自分でなんとかしろ」




 婚約者にも守ってはいただけません。ですから、わたくし……決意したのです。強くなろう、と。












◆ ◆ ◆


「ルチアナ・マルティーダ。我輩との婚約を破棄しろ。お前のようにいじめを行う者は、国母にふさわしくない」


 神の生誕祭のお祝いの日。皆が昼食をとっている講堂のど真ん中で、わたくしは、ハムルさまにそのように宣言されました。

 名を呼ばれたわたくしは、心配するお友達のみなさまに断りを入れて、前に進み出ます。

 “いじめ”は大罪です。“ご指摘”と違って。




「ハムル殿下。お呼びでしょうか? わたくしがいじめを行った、と聞こえましたが?」


「あぁ。そのように言ったつもりだ」


 ハマる殿下の右腕にしがみついて嘘泣きをする白髪(はくはつ)の少女。彼女は聖女でダズトニー男爵が引き取ったというご令嬢リリアンヌ様ですわ。


「わたくし、いじめなんてした記憶はございませんわ。それよりも、わたくしという婚約者がいながら、ダズトニー男爵令嬢と腕を組まれていらっしゃるハムル殿下の行動の方が問題ではなくて? 他にも色々と聞き及んでおりますわ」


 扇を口の前に広げ、蔑んだ視線を殿下に向けます。ギリギリ不敬と取られないラインを綱渡りのように向けていきます。殿下は生まれ持っての王族。そのような視線を向けられたのは、生まれて初めてでいらっしゃるようで、羞恥に顔が染まっていきます。ふふふ、ハムル殿下のそんなご様子を見て、わたくしは内心、ほくそ笑みます。


「こ、これは、リリアンヌが不安がって泣いているから、紳士として必要な行動であろう! そもそも、そんな人伝の情報、真偽はわからぬだろう! そんなことよりも、聖女でか弱いリリアンヌを“いじめた”! そんなお主の行動が問題だと言っておる!」


「まぁ……」


 わたくしの驚ききった表情。そして、周囲の方々も驚きの視線を殿下に思わず向けていらっしゃいます。殿下は一瞬怯まれました。今です。


「ダズトニー男爵令嬢は元平民といえども、今は貴族ですわ。“いじめ”だなんて……。殿下。ダズトニー男爵令嬢に失礼ですわよ? それに、未婚の子女をそのように呼び捨てで呼ぶなんて……婚約者きどりですか? それに、優秀な民の仕事を疑うのが、王族、いえ、国王のお仕事なのですか? わたくし、初めて知りましたわ。ふふふ、そんなことをおっしゃるお方が、次期国王にふさわしいのかしら?」


 私のそんなセリフに、聴衆の皆様も同意されます。わたくしとご一緒に殿下への“ご指摘”をしてくださいますわ。そんな中、わたくしは学園の審判官が監督した証印の押された、証人たちの証言をまとめた資料を殿下に差し出しました。


「な!?」


 また、殿下のはじめてを経験させてしまいましたわね。では、もう少し続けましょう。


「そもそも、わたくしたちの婚約は、王命。まさか殿下、王命を破棄するなんて越権行為をできるとお思いで? そうそう、そちらのダズトニー男爵令嬢への“ご指摘”は、貴族社会に慣れる上で必要な知識を与えるために、優しくさせていただきましたわ。わたくし、“ご指摘”はさせていただきましたけど、貴族なのだから、それくらい自分でなんとかするべきなのでは?」


 わたくしがこてりと首を傾けながら、微笑みを浮かべて問いかけると、ご自身のセリフを思い出したご様子の殿下は、顔を真っ青になさいました。


「わ、我輩は、そういう意味では……」


「殿下?」


 言葉を紡げない殿下に優しく微笑みかけます。


「大丈夫ですわ。わたくし、わかっております」




 そう言って、殿下の手をそっとさすります。

 四面楚歌になった状況に、すでにダズトニー男爵令嬢は、逃げ出しておいでです。

 初めて敵意というものを向けられた殿下に、私だけが優しく手を差し伸べました。

 感涙を流しながら、殿下はわたくしの手を取ったのです。


 ()()()()()()()()()()()()()()、婚約破棄の騒動はなかったことになりましたわ。

 殿下はわたくしの懐の深さに感動し、今ではすっかり溺愛してくださっております。














 貴族同士はいじめとされない“ご指摘”。父母や周りのは頼りにならず、婚約者に相談したら、「貴族なのだから、それくらい自分でなんとかしろ」と言われましたわ。

 仕方ないので、わたくし、強くなりましたの。みなさまの各種弱みを握って、共感の上、優しく包み込んで差し上げることで、信者に仕立てあげました。


 財務大臣の横領には、“わかりますわ。あなたは寂しかっただけで悪くありません。わたくしが、補填して差し上げます。わたくしと2人きりの秘密ですわよ?”と微笑み、調教して2度と不正を働かないようにいたしました。


 教師役のマーキュリー伯爵夫人の夫に言えない秘密。わたくし、マーキュリー伯爵夫人に同情したフリをして、わたくしの信者兼情報屋に仕立て上げましたわ。

 マーキュリー伯爵夫人に集めてもらった情報を元に、学園生徒も1()()()()()、信者にしてあります。







「ルチアナ様」


「まぁ。わたくしのかわいいリリアンヌ。あなたには、大役を任せてしまったわ。お疲れ様」


「いえ、リリアンヌにはありがたいお言葉です」


 わたくしがリリアンヌの頭を撫でると、リリアンヌの髪色は白からピンクへと変わります。聖女の印である白髪は、わたくしの魔法によって偽装されたものだったのです。そもそも、聖女と言い出したのは誰だったのか、それが本当に教会で認定されているのか、そこまで調べ上げる根性が殿下にあったら……いえ、安直に信じすぎる殿下が愛らしいのですわ。


 リリアンヌは、平民時代にいじめを行っていました。それを隠して男爵令嬢になった彼女。そんな秘密を共有したら、彼女は従順な信者になりました。わたくし、いじめも行なっておりませんし、脅迫も行なっておりませんのよ? ただ、優しく寄り添って差し上げただけですわ。もちろん、いじめられた方々のフォローも済ませております。



「リリアンヌ、ルチアナ様に褒められるために頑張りました! あの、ご褒美を……」


「仕方ありません。本日のわたくしのお世話は、リリアンヌに任せましょう」


「「「きゃあ! 羨ましいですわ!」」」


 メイドたちがリリアンヌを羨む中、リリアンヌは恍惚した表情を浮かべます。


 リリアンヌは、わたくしの元を離れて生きていけない状況に追いやられていることに気づいておりません。わたくしの元でしっかりと忠誠を誓って生きていってもらいます。











 そもそも、殿下の火遊びは、陛下ももちろんご存じでした。王家有責で婚約解消をと願う陛下に、わたくしはこう伝えたのです。




「殿下はわたくしの好みですの。中身はこちらで修正を掛ければ、いい子になりますわ?」


 なんとも言えない表情を浮かべる陛下に、わたくしは陛下の秘密を耳元で囁きかけ、陛下も全てを理解してわたくしを支持してくださるようになりました。












「あなたはわたくしの言うことをきちんと聞ける素敵な国王陛下ですわね?」


「もちろんだ……ルチアナ」


 十数年後、微笑みを浮かべる王妃とその横に虚ろな瞳でうっとりとした笑みを浮かべる国王がいたとか。



「では、まずわたくしが昔あなたに願った、“ご指摘”の文化をなくしてまいりましょうか?」

最後までお読みいただきありがとうございます。

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