斜陽術
ここは、静かな村。
人の気配はなく、濃い霧に包まれた不気味な村。
だがそれは表面上の話だ。
実際、住んでいる人はたくさんいる。
子どもはみな魔気を消す特訓をしている。
村の大人は全て冷酷な殺し屋だが、家族を大切にしている一面もある。
この村の人間は皆、1日に1度しかご飯を食べないようだ。
なんでも、潜入捜査をする時に2日間飲まず食わずで息を殺して潜んでいた人もいるくらいだ。
なので俺やハーネは自分達の食糧が尽きたらどうしよう、と嘆いている。
「意外と耐えれるものですよ〜」
と住民は言っているが、、、やっぱりこの村は不気味だ。
———
さて俺は今、リズの頼みで先生をしているところだ。
「えーっと、まず呼吸を止めて……心を無にするんだ」
当然、こんな伝え方では子供たちは実践できない。
みんな真面目なのでやろうとはしてくれるものの、逆に魔気が溢れ出てしまう。
リズがボソッと人選ミスったな、、なんて言うもんだから俺のメンタルはボロボロ。
「先生、教えるのが上手くありません」
などと生徒に言われてしまいその場にうずくまっていると。
「魔気を全身に纏うように練り出す、そして一気に力を抜くと魔気を消すコツが分かるかもしれません」
ハーネだ。
何を抜かしているんだ、君の魔気はリズ達に見破られて……
その瞬間に子供たちの歓声が聞こえた。
「ちょっと出来た!」 「今の感じか!」
あ゛あ゛。師匠の威厳がぁ。
「あの人より分かりやす…」
そう聞こえてきたので恥ずかしくて俺はハーネの監視役を連れて部屋に戻った。
部屋に戻って冷静に考えると、この村に半年も住むのに何も会得しないままなんて勿体ないな。
そう思ってハーネの監視役に話を聞くことにした。
最近知ったが、俺を後ろから倒した人がハーネの監視役らしい。
「名前を伺ってもよろしいですか?」
「アビスと申します、敬語は外しても大丈夫です」
「アビスさん、ウルシガワ一派では子供にどのような技を教えるの?」
「大きくわけて2つですね。1つは今リリさんが教えていた魔気を消す特訓。相手に存在がバレないように動くことが出来ます。これは暗殺する者にとって必須なのでこれだけは確実に会得できるように教育するのです。」
「もう1つは?」
「もう1つは斜陽術。簡単に言うと相手の視界から外れるように動く技です。これを子どもの頃からできる人は数少ないのです。斜陽術は極めるとかなり役立ちます。リズさんがあなたを切りかかろうとした時に使っていました。」
あの時のあれが、、、、確かに真っ直ぐじゃなくて右に動いてから刀を構えていたような気もする
「ちなみにアビスさんは斜陽術使えます?」
「基礎的な斜陽術の動きは出来ますが、リズさんのように臨機応変に使い分けることは出来ません」
少し残念そうにそう話してくれた。
でも基礎的な動きを知っているなら。斜陽術を会得しない手は無いな。
「宜しければ斜陽術を基礎から教えていただけませんか?」
アビスさんは少し驚きながらニッコリ頷いてくれた。
地面に線を引く。扇形の円を描く。
円の中心にアビスさん。弧の真ん中に俺。
アビスさんが合図をすると同時に円の外に刺してある3本の竹を切り落とす。
時間は2秒。
パチッ!
アビスさんの合図だ。
まずは右側の1本。
ギィン!
よし次は、、、、
「そこまで!」
俺は自分が思っているよりも遅い動きをしているらしい。
これからアビスさんによる地獄の特訓が始まるようになる。