協力
……ん?
暗い。
体が重い。動けない、、、?
目を覚ますとそこは牢屋だった。
気合いを入れて体を起こすと疲労感がのしかかってくる。
小窓から身を乗り出す。
景色は全て消し去られ、霧に包まれている。
良かった。生きてる。
何があった思い出した。ハーネは無事なのか?
ギィィィ……
ドアが開いた。
光と同時にあの仮面をかけた男も入ってきた。
「目が覚めたか」
「付いてこい、領主様がお呼びだ」
何が何だか分からないがとりあえず黙って付いていこう。
迷路のような屋敷を迷うことなく進む仮面の男の後を追う。
すると沈黙を破るように仮面の男が話しかけてきた。
「どうやったんだ」
「どう、、、とは?」
「なぜあんなに完璧に魔気を消せるのだ。どのような技を使っておる」
魔気?シニさんが言っていた魔法陣に込める力の事かな?
「あんなに完璧に消せるのはうちの領主様くらいだ」
無意識のうちにやってるのかな?まあ情報屋もやってるんだから気配を消すことに関してはプロなのかもね。
進んだ先には8畳くらいの個室であった。
ふすまを開ける。
ぶあっ
全身が震え上がった。部屋になにか呪いでも掛けられてるのじゃないかって疑うほどに。
「領主様が戻るまで少し待て、少しでも魔気を出したら殺す」
ええぇーー!?知らず知らずのうちに魔気を出しちゃったら俺死ぬの?やだやだ。
そんなふざけた思考はすぐに停止した。
足音とともに死が近づいているような感覚だ。
ガララ…
ふすまが開く。
人が来た。それだけは分かる。
だが姿は見れない。顔が上に向かない。
「顔を上げろ」
そう言われ震えながらも顔を上げると。
両目を閉じている。いや、開けないのか?
右腕は無い。
全身が包帯で巻かれている。
そしてその体を包むオーラ。
一目で分かる。この人は領主様と呼ばれる人だと。
「お前がスイゲツリリという者か」
「はい…」
声を絞り出す。
「お前に依頼がある。この依頼を断るならお前には死んでもらう」
「その依頼、受けます」
細々とした声で即答した。
俺は死にたくないという気持ちでは誰にも負けない。
しかも彼は今、依頼主である。大事な客だ。
「ボルテッド帝国の皇帝に関する情報を。またその中に潜んでいるウルシガワ一派の裏切り者の特定を。」
そう書かれた依頼書を渡された。
こういう形式はしっかりと守るタイプなんだ、と少し驚いた。思ったよりもお茶目な人なのか?と思いもう一度目を合わせるとやっぱりそんなことは無い。殺戮者の目をしている。
仮面の男曰く、ハーネから詳しく話を聞いたらしい。
領主様の読みでは、ボルテッド帝国は何かを企んでいる。そのボルテッド帝国にはウルシガワ一派の裏切り者がいる、と仮説を立てていたようだ。
その仮説が俺への依頼で確信に変わった、という事であるらしい。
「部屋へ案内する。あの龍人とボルテッド帝国での立ち回り方を計画してこい」
「お前達には少し感謝している。だからといって命令に即したりウルシガワ一派を裏切ったりしたら容赦なく殺す」
足をガクガクさせながら、「了解です」とだけ答える。
———
部屋名「影」。
かっこいい。
仮面の男は部屋名に目を輝かかせてる俺を白い目で見ている。
「申し遅れた。私の名前はリズ。お前の監視兼世話役を頼まれてる」
「了解ですリズさん、これからよろしくお願いします」
そう言いながらふすまを開くと布団でスヤスヤ眠るハーネが見えた。
良かった。生きていたのか、とホッとしながらハーネの頭を撫でる。
「ん、、、、、師匠!無事でよかった、、、」
彼女は目を覚ましたと同時に涙を流してくれた。
いやぁ、良い弟子を持ったものだ。
「ちなみに俺がやられた後どうなったんだ?」
「えーっとですね……」
俺がやられた後。
背後から来たもう1人の仮面男とリズを相手にしながら俺を持ち去ろうとした時、俺を倒した方の仮面男がボルテッド帝国の兵士じゃない事に気づき話を聞いたということ。念の為俺を牢屋に入れておいて、ハーネさんはこの部屋で色々と話をしたらしい。
ハーネさん曰く、監視役の同行があればこの村を散歩してもいいらしい。俺もこの村には興味があるからリズさんに頼んでみることになった。
———
さて本題のボルテッド帝国での立ち回り方を決めよう。
「自分では依頼主のところに出向かず影武者に向かわせる。そして依頼について詳しく話を聞きに来た、という体で話を進める」
「ボルテッド帝国に行くまでに奴隷を売っている場所があるはずです。そこで影武者となり得る人を買い取りましょう!」
………
大体の計画は決まった。
道中、奴隷を2人買う。そして1人には依頼を受けた人として出向いてもらう。もう1人にはウルシガワ一派の裏切り者がこの国に潜伏している、という記事をばらまいてもらう。記者は俺達で拉致して指示通りに記事を書かせる。それが終わったら記者を口止めさせる。
「まだ改善の余地はあるけど大体はこれでOKかな」
「ですね」
ガラガラガラ…
「報告がある」
ふすまが開くのと同時にリズがそう言った。
「ボルテッド帝国に赴くのはあとあと半年後になった」
俺とハーネは顔を見合せて はてなマークを浮かべた。
「何があったんですか?」
「ボルテッド帝国に巨大な魔法陣が見つかったようで、皇帝が国からの出入りを禁じるという命を出したようだ」
「おそらく皇帝を倒して国を一転させようとする革命軍が動き出したのだろう、皇帝としては革命軍が新手の戦力を取り込まないようにするのと革命軍を一人残らず逃がさないためだろう」
なるほど、やっぱり昔の平和な国が良かった人もいたんだな。
「それに伴ってボルテッド帝国周辺の警備は厳しくなる、そこでお前達の存在を知られると厄介だ、と領主様は判断したのだ」
あの時、半年分の食糧を持ってきたハーネを叱らなくて良かった。
この依頼が終わるのは一体いつになるのやら……