襲撃
「ウルシガワ一派の計画を。最低でも次の標的の有益情報を。ボルテッド帝国より」
こんな依頼を受けた。
俺とハーネは今、ボルテッド帝国に向けて足を進めている。
ボルテッド帝国は西側にある、との事なのでとりあえずジャングルにある村に出向いて道順を聞いてみようと思う。
「ちゃんと食糧は積んだか?」
「はい!半年分しっかり積んできました!」
え、この依頼を終えるのに何日かかるか分からないとは言えども、、、半年分はいらんだろ。
ていうかだからリュックがパンパンなのか。
「あのなぁ、、、」
ため息をつき、説教しようとしたが本当に半年かかってしまった場合を加味して気持ちを飲み込む。
拠点からジャングルの村まで徒歩40分程度。
それまでに入念に持ち物確認を行う。
現地調達をして良かった経験なんて1度もないのだ。
忘れ物が無いようにしっかりと…..
「あっ、、回復包帯を置いてきてしまいました!」
「何してるのーーーー!」
今度はしっかりと説教させてもらった。
———
30分後。
ジャングルが見えてきた。
「あそこに村があるのですか?拠点となる家がひとつも無いように思えますが、、、」
「木の上や中に家があるんだよ、よく見てみろ」
久しぶりだ。東側のテンタ街には頻繁に出向いているのだが、西側の依頼が最近来なかったからジャングルに行く機会がなかったのだ。
「早く向かいましょ!」
俺よりも長く生きているのにハーネは子供のようである。ツリーハウスに興味津々だ。
俺もつられて小走りでジャングルへと向かう。
ジャングルに到着した。
「リリさーーん、お久しぶりーーー」
「なんで最近顔出してくれなかったのーーー???」
ジャングルに入って早々、薪を切っていたか家族に話しかけられた。
「依頼があまり来ないもので、本当は顔を出したかったのですが」
「あーーーっ、リリさんが女の人連れてるーーー」
「かわいいーー!」 「おんぶしてーーーー!」
騒ぎに乗じて遊んでいた子供たちも俺の存在に気付いたようだ。
子供たちはハーネを包囲してはしゃいでいる。
珍しくハーネが困惑している。面白いから放っとこう。
さて、ボルテッド帝国に行くためにはジャングルを抜けた先にあるキチカカ湖を抜けなければならない。
俺はいつも世話になっているある船乗りの家に訪問する。
この村の家にはどの家にも、 呼び鈴ならぬ呼びロープ
が設置されている。家の下にロープが下ろされていてそのロープを引っ張ると住人を呼び出すことが出来る。
俺は子供に捕らえられているハーネを救い出して、その船乗りの家に向かった。
ロープを引っ張る、、、前に声をかけられた。
「リリじゃな、舟に乗りに来たのか?」
「お久しぶりです、ドクラさん!」
「急ぎなんだろう、早速舟を出してやるから、待っておれ」
「ありがとうございます!」
「お主も女好きじゃのう、幸せにせいよ」
俺の隣にいるハーネを見ながらそうからかってくる。
「この人は助手ですよ、助手!」
顔を赤らめながら反論する。
ドクラさんは愉快そうに笑いながら舟を出しに向かった。
「あのドクラ、、という人は何者なのですか?」
「ああ、あの人はね……」
俺がこの仕事を始めたのは4年前。
当時11歳だった俺は右も左も分からないこの世界で彷徨いながら仕事を探していた。
仕事を求めて、この世界の四大都市のひとつ「シダ中央街」に行った。しかし俺のような無力な子供はなにも出来なかった。餓死しそうになったこともあれば奴隷として連れ去られそうにもなった。そんな中、俺はドクラさんと出会った。ドクラさんは俺にこの仕事を勧めてくれて、その上最初の依頼主になってくれた。
それから俺はこの仕事にハマり今もなお生き続けれている、というわけだ。
ハーネとそんな話をしているとドクラさんがやってきた。
「昔話はやめてくれ、恥ずかしいからのぉ」
「すみません、舟は出せましたか?」
「あぁ、早速向かおう。ボルテット帝国までの道順も教えてやる」
舟に乗りながらドクラさんは淡々と説明してくれた。
キチカカ湖→キチカカ山→トロッコ線→ボルテッド帝国
大雑把に言うとこのようなルートである。
キチカカ山のふもとまで舟で向かい、山頂まで歩いてトロッコで降りる。
このルートで良くない所がひとつある。
トロッコである。
正直に言うとこのトロッコは速い。だから移動手段としては最高だ。移動手段としては。
このトロッコの悪い点とは、そう怖いところである。
整備の不完全さ、スピード、角度。
色々な面から見て怖い。
怖さなら富士急ハイラ○ドのジェットコースターに負けないレベルだろう。
他の道も一応聞いたがこのルートが最も適しているらしい。
俺は渋々受け入れた。
———
キチカカ山のふともに着いた。
「ありがとうございました!」
「礼などいらぬわ、しかしリリよ。ボルテッド帝国には気を付けた方が良いぞ」
「何故です?」
首を傾げながらそう返す。
「ボルテッド帝国から良いウワサを聞かんのじゃ。いくらお主と龍人がいたとて、油断は禁物じゃぞ」
「了解です、気を付けて行ってきます」
キチカカ山は霧で覆われていて暗い道が続いている。
———
「ドクラさんの話、気になりますね」
突然、ハーネが口を開いた。
「やっぱり昔からボルテッド帝国は評判が悪い、ということですか?」
「いえ、逆です。ボルテッド帝国は平和な国として有名だったのです」
そうなのか。ならあんまり警戒しなくても、、、
「しかし皇帝が変わって以来、少しずつ悪い評判が増えたのです。恐らく皇帝とその部下たちが何かを企んでいる可能性もあります。」
「そういえばあの依頼書も不可解でした」
「え?どの辺が?」
「ウルシガワ一派は基本的に情報を漏らすことはありません。しかも暗殺、虐殺は不定期で行われます。なのでウルシガワ一派を警戒するなんて前代未聞なのです。」
「ウルシガワ一派に狙われたら仕方ない、くらいの考えを皆持っているのか」
「そうです。その上ウルシガワ一派の情報を外部の者に伝わった、ということが発覚すれば情報を知った者全員を皆殺しにする。なので依頼する側にもリスクがあります」
「そう考えると確かに不可解だね」
そんな話をしていると。
ゴソッ。
後ろだ。誰かの気配がする。慌てて振り向くと、そこには1人の男が立っていた。鳥の羽が彫られている仮面を被っている。そして抜けないように鞘が縛り付けられている刀を持っている。
「ボルテッド帝国の兵士か?もしくは衛兵か??」
背筋が凍る。
「いえ、私どもはボルテッド帝国から依頼が来たので話を伺おうかと……」
次の瞬間。男は右に動いた。刀を振りかぶっている。
それと同時に声を上げた。
「ハーネ!右だ!」
ハーネは踏み込みがワンテンポ遅れたもののものすごい速さで刀を抜き斬撃を防いだ。
「見えたのか、、、!」
男は驚いたようにそう呟き、足を踏み込んだ。
そう、俺は目が良いのだ。
正確に言えば動体視力が良い、という事になる。
相手の残像が追えるほどに。
赤く染った目は男の動きを捉えている。
しかし。
後ろだ。震えるくらいの殺気が襲ってきた。
さっきの男を確認するとその場から動いていない。
後ろを振り向こうとする。
プツッ。
そこで俺は意識を失った。