次の依頼へ
空は暗いが街は明るい。これが東京の夜である。
高層マンションが立ち並ぶ通りを超えて都心から離れるように歩いてゆく。
昼間繁盛している店は今、静かに眠っている。
仕事終わりのサラリーマンは美味しそうに缶ビールを流し込んでいる。
そんな景色を眺めながら足を進める。
少し古びたビルによって生まれた路地裏に入って歩いてゆく。
その狭い道には人の気配は一切無く、視線の先にはリリの部屋がある。
ビルの側面にくっついてるようにドアがある。
バタン。
ドアを開けると狭くてものが溢れかえっている物置のような部屋がある。決してゴミ部屋では無い。しっかり収納家具を置いて整理はしてあるものの……ものが多すぎで入りきっていないだけだ。
部屋に入るとまずはお線香をあげる。手を合わせてお祈りする。それが終わるとおもむろに何かを探し始める。
「どこだっけ、、」
10段もあるタンスから一段ずつ引き出しを開ける。
「おっ。これこれ〜」
豚さん貯金箱である。中には3人もの諭吉が住んでいる。その中から1人を抜き取って買い物に出かける。
「合計9点で4千5百円となります。」
生野菜から飲み物類、乾麺など色々な食糧を買い漁りコンビニを出る。24時間営業バンザイ!
ここからどうしよう。食糧を買ったはいいものの折角東京に戻ってきたのだから他に何か買っておくのが得策か。
そう考えてリリは部屋に戻り壊れかけのパソコンを起動させた。ビルの回線を使っているため、とても回線が悪い。もちろん無断なので文句は言えまい。
英語で埋め尽くされた通販サイトを開く。
そこからマッチ棒、サバイバルナイフ、盗聴器、軍手、乾パン、、、、様々なものをカートに入れる。
それら全てを即日発送で注文する。
郵送料は高くなるがタイムイズマネーだ。
東京についてから約5時間後。
辺りは明るくなってきた。
始発に乗りこみ、すぐさまあの小屋へと向かう。
兵庫に着いたらまず駅のコインロッカーへと向かう。
049番。
縦長のコインロッカーを開けると注文した品が全て入っている。
それを確認するとすぐさまリュックに入れこむ。
そしてまた小屋に向かって進む。
これがリリのルーティーンである。
———
ガチャ。
異世界。戻ってきた。夕日も落ちて暗くなっている。
夕方までに戻るって書いちゃったのになぁ……
小走りで拠点に戻る。
バタン!
ドアを開ける。
「何処行ってたんですか!お腹ペコペコです!」
俺の心配ではなく食糧の心配か。
「ちょっと食糧調達に遠くまでね」
「連れていってくださいよぉ〜」
しょぼくれた顔をしながらハーネは椅子に座った。
「そういえば、師匠がいない間に依頼が来ましたよ!」
そう言われると俺の顔に依頼紙を押し付けてきた。
「ウルシガワ一派の計画を。最低でも次の標的の有益情報を。ボルテッド帝国より」
俺は漆川一派とは何か知らなかった。
依頼を見ながら首を傾げてながらハーネに尋ねると。
「ウルシガワ一派とは冷酷な殺し屋一族で何十人もの優秀な兵士を育てています。中でも優秀なのがウルシガワ家の血を引く者なのでウルシガワ一派と呼ばれています。」
なるほど。怖い依頼だ。死にたくない、という気持ちはあれど俺も心は少年だ。殺し屋なんて聞いたら少しテンションは上がってしまう。
「ちなみにウルシガワ一派の拠点は知ってる?」
「それは誰にも知られてないのですが、ボルテッド帝国の場所なら分かりますよ!」
自信満々にそう言うと掛けてある地図を取り出して教えてくれた。
ここから西側にずっと進めばボルテッド帝国まで行ける、ということか。
「なら早速話を聞きに行こう。明日には出るから準備しといてね〜」
「分かりました!」
彼女は嬉しそうにそう返した。まあ折角弟子入りしたのに依頼のひとつも来ずオセロでボコボコにされていただけだしな。喜ぶ気持ちも分かる。
調達してきたものを必要なもの以外をリュックから取り出して、追加の食糧を詰めてパッキングは終わり。
明日に向けて早く寝よう。
「早めに寝るねーおやすみ」
「はい!おやすみなさい!」
寝る前とは思えないほど元気な声でそう返してくれた。
翌日。雲ひとつない快晴。
俺達はボルテッド帝国に向けて歩き始めた。