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鍵の持ち主  作者: となり
日常編
2/52

出張依頼

 

 「売りに出す果物の選別にうってつけのものを。果物を傷つけないものを。ソロモン王国三番商店」


これが今回の依頼である。

拠点からソロモン王国に行くのには東側の街にあるタクシーを使うのがちょうどいいな、とコタツの台に広げた紙にメモをする。


東側のレンガ街「テンタ街」

      ↓

  巨鳥タクシー乗り場

      ↓

  ソロモン王国 正門


このように大雑把な予定を立てると軽快な足取りで俺はテンタ街に足を運んだ。

 テンタ街は人間のみの街ではあるものの、ペットとしてヘビを飼っていたりタクシーとして乗るために巨鳥を飼育していたりと動物との関わりが深い街である。この街は村が発展して街のように姿を変えたらしい。


 拠点からテンタ街まで徒歩20分。


近すぎず遠すぎず、いい場所に拠点を建てれて良かったと改めて感服する。


そんな事を考えてると、あっという間にテンタ街に着いた。


テンタ街の人達はとてもフレンドリーである。


 「スイゲツくんじゃん、今日はどこまで?」

 

 「ソロモン王国まで依頼品を~」

 

 「働き者だねぇ、子供とは思えないよ!」

 ここの住民は俺のことを認めてくれているらしい。

 なんとも誇らしい気分だ。

 

 タクシー乗り場では8区画に分けて柵が建てられていて、1区画に1匹、巨鳥がいる。ヘリコプターくらいの大きさの鳩で、滅多に暴れない忠実な鳥である。初めて乗った時は怖すぎて気を失ってしまったが、慣れてくると楽しいものだ。

 

 余っていた巨鳥に座り込み、首に巻かれているロープを引いて進む方向を教えてあげる。そうすれば行きたい方向に向かって飛んでくれる、という仕組みだ。

料金は無く、代わりにエサを食べさせてあげればOKとのこと。


 巨鳥を使えばソロモン王国まで1時間で到着することができる。電車顔負けの交通手段。

 途中、鮮やかな色の小鳥たちが肩に乗ってエサを求めてくる。

 「今回だけだぞー」

などと言いつつ毎回あげてしまうのが俺の習慣である。


 楽しいドライブにも怖い瞬間はある。それは……

 

 急降下をする時である。


 ソロモン王国は正門の前で手荷物検査がある。なので門の上を飛び越えて進んでしまってはならない。

 入り口前で着地する必要があるのだ。ソロモン王国は山の上に街があり、正門は山の麓に建てられている。門から街まで急な坂を歩かなければならない。


 毎回思うけど、ここに門建てたの嫌がらせだろ……

と愚痴を言いながら巨鳥に急降下させると、そのスピードと体が地面と垂直に傾くのが怖くていつも悲鳴を上げてしまう。この声を門の警備員に聞かれるのが恥ずかしい。

 でも今回は悲鳴は上げないように降りよう、そうしよ…

 

「ぎやぁぁぁぁぁぁあああ——」


考えてる間に恐怖感に負けてしまい、情けない声を漏らしてしまった。

 

そして今回もしっかり門の警備員に気づかれてしまった。

 

「リリさん、久しいですね~」

門の前で立っていた憲兵の1人が、こちらに向かって歩いてきた。「リリさん」という言葉が昔どこかで聞いた事があるような気がした。


「…もしかして見習いだったシニさんですか?」

「そうです!見習いから憲兵にまで成長しました!」

「それは良かった、おめでとうございます」

 

 


 2年前、ある依頼が来たのだ。


「家族を殺されて行き場のない子供に居場所を。彼女が普通に生きていけるような場所を。名前はリントム•シニ」



東京から戻ってくるとこのような依頼の貼り紙とともに布に包まれた同い年くらいの少女がその場に置かれていた。

 シニさんは精神的に追い詰められていて、絶望の目をしていたので、まともに話ができるのには数週間かかったが、拠点に住まわせて話しかけ続けていると、なんとか口を開いてくれた。

 

 そして移住先の要望を聞くと。

 

 仇をとるため剣術を学びたい

 街の警備をして、自分と同じような状況の人を減らしたい


 とのこと。

俺はその要望を汲み取り、前に依頼してきたソロモン王国の警備員に彼女を任せた。彼女は一度手紙で「見習いとして頑張っている、本当にありがとう」と伝えてくれた。そんな時に依頼を受けて良かったぁと思えるのだ。

しかもそんな彼女も今では憲兵になっているなんて、感動モノである。


そのリリさんは何度もお礼を言いながら俺の手荷物をひょいひょいっと検査してすぐに門を通してくれた。

『恩を売ることは、商品を売ることよりも大切だ』

やり手商人の間では専ら有名な言葉である。



———



さて、今回の依頼主の場所に行こうか。


今回は農家さんの領主である人から依頼が来ていたのでとりあえず畑があるところまでテキトーに歩いていくことにした。


噂通り、この国は農業に力を注いでいるらしい。

農場を見て、「いくらなんでも広すぎるだろ」と思わず狼狽えてしまった。


と考えている隙に後ろから声をかけられた。


「スイゲツリリさんですか?」


 後ろを振り向くと、空中を浮く天人の姿が見えた。

 「うおっっ」

俺は驚いて声を出してしまった。

サロモン王国は人間と天人が共存している特殊な国である。

かつて居場所を奪われた天人の集団を、この国が引き取ったことによって親睦が深まったのだとか。

  

「そ、そうです、、」


「今回の依頼、受けてくださったんですね!」


にしても天人の女性は可愛いなぁ…と顔が崩れかけるが、仕事中なのでビジネススマイルを上手に作ってみせた。



 「ちょうどいいのが見つかりましたよ~~~」

 

カバンに手を突っ込んで、俺は大量のやっっすいシールを取り出した。天人はシールの存在すら知らないため興味深そうにシールを眺めている。


「申し遅れました、わたくしフクナと申します。この辺りの農業施設を管轄しているものです」


「よろしくお願いします、では早速依頼にあった選別について詳しく聞かせてください」

 

「了解しました!」

そう言ってフクナさんは俺を栽培施設の中まで案内してくれた。

そして一つのマンゴーを手に取って説明を始めた。

 

「ここで取ったマンゴーを店に出品する際、一つ一つ値段を変えるのです。たとえばこのマンゴーは少し変色してるので比較的安価で売る、他にも変色しておらず形も綺麗なマンゴーは高値で売るのです。」

  

「その時に高値のマンゴーにトレードマークのようなものが付くと商人が売りやすくなり、こちらも収穫したマンゴーの整理が楽になるかも……と思ったのです。」


「これを使えばちょうどいいと思います!高級な物ですから、扱いには注意してください!」


『上手に嘘をつく』

これもやり手商人の間では有名な言葉である。


100円のシールを拝むように持ち上げるフクナさんを見ていると何だか笑えてくる。

気を取り直して俺は、1からシールの使い方について説明した。「こんな便利な物があったなんて…」と目を輝かせながらシールを眺めている。


「シールが無くなったらまた連絡ください!では、私はこれで~~」

そんな彼女を放ってその場をさっさと去ろうとすると、フクナさんが慌ててこう返してきた。


「依頼のお礼をしたいのですが、、、、」

と言いマンゴーを何個か渡してくれた。


あまり報酬は受け取らないのだが相手が渡そうとしてくれるならありがたく受け取っておこう。


俺はフクナさんに一礼してその場を立ち去った。



今回の依頼は成功だ。




———




夕方。

ソロモン王国の門は閉められる。


俺はソロモン王国に泊まるべく、様々な宿泊施設を巡った。



「いや〜うちは完全予約性でして。当日予約も受け付けておりません」


「ただいま空いている部屋がございませんので、またの機会に」


「お前みたいな子供が払える額じゃねえんだよ、さっさと帰りな」



……ダメだ。



このまま泊まるところを見つけられなかったら、、、

野宿するしかないのか?と唾を飲む。


リリは絶望のあまりその場に倒れ込んでしまった。


「大丈夫ですかーーーーー!!!」


声が聞こえる。聞き覚えのある声だ。


「リリさん、こんなところで何をしてるのですか?」


憲兵へと昇格したリントム•シニさんだ。


「いえ、、大したことでは、、シニさんこそ門番の仕事はどうしたんですか?」


「門番は交代制なので私の仕事は終わりました」


「もしかして泊まる場所に困っているのですか?」


「はい……」

どこでもいいから野宿だけは勘弁だ。


「じゃあウチ来ますか?」


…ん?


「だ、誰か他にも人がいるのですか??」

俺は慌てて慌ててそう聞く。

「いえ、私1人の家です」


女の子の家で1晩。色んな妄想が頭によぎるが頭を振ってかき消す。


「本当に良いんですか?」


念を押してそう聞く。


「構いませんよ、リリさんには返し切れない恩がありますから」


そう言って彼女は俺の手を掴んで家へと向かってくれた。

思い違いかもしれないが、手を掴んだ時、一瞬シニさんの顔が赤くなっているように見えた。


「お邪魔します」

彼女の家は想像よりも大きかった。

失礼だが、もっと質素な部屋で暮らしていると思っていた。

なんでも、憲兵を続けていくうちにお金に余裕を持てるようになったとのこと。


「晩御飯食べてないですよね?私が作るのでそこで待っていてください」


彼女の命令通り、食卓の椅子に座って部屋を見回す。


棚にはぎっしりと魔導書が並べられている。


ゴミ箱には魔法陣が描かれた厚紙が捨てられている。


それにしても広いなぁ、、、1人で住むのは寂しいだろう。


……お、いい匂いがしてきた。カボチャかな?

早く食べたい、待ちきれない。


そんな気持ちが顔に出たのか、シニさんはくすくす笑いながらもうすぐ出来ますよ〜、と言って食器を用意し始めた。



そして数分後。



彼女は木皿にたっぷり入ったかぼちゃスープとこんがり焼けたパンを持ってきた。


「うまそ〜〜」


「リリさんのそんな言葉遣い、初めて聞きました」

そう言って彼女はニコニコ笑っていた。

仕方ないだろ、お腹減ってたんだし。

俺は顔を赤らめながら手を合わせた。


「いただきます」


———


食事中。1つ気になっていたことを聞いてみた。


「なんであんな量の魔導書が置いてあるのですか?」


「あ〜〜、実は最近、魔法に興味がありまして色々と勉強しているんですよ」

この人は優秀だ。俺なんて魔法の”ま”の字も知らないのに。


「実はこれは手紙で伝えようと思っていたのですが……」

彼女は言い出しにくそうにそう切り出した。


「なんです?」


「実は学校に通おうかと考えているのです」


「いいじゃないですか、魔法を学ぶなら学校が1番ですしね、俺は応援しますよ」


「いえ、そういうことではなく、、、、」


俺は首を傾げて彼女の目を見る。


「リリさんも一緒に……通いませんか?」

彼女は目を逸らして顔を赤くしている。


彼女の変わった様子には触れずに、俺は考える。


学校か。教育が義務化されている世界でも学校に行っていなかった俺だ。そんな俺が今さら興味のない分野の勉強のために学校に?

でもせっかく勇気を出して誘ってくれてるんだし、この気持ちに応えないというのは、、、、



色々な思考が巡り、結論を出した。


「もし何か興味のある分野が出来たら通いたいと思います」


つまり行けたら行く、ということだ。


こんな舐め腐った返答をした俺に対しても彼女はさわやかな笑顔を作って「ありがとうございます」と返してくれた。



さて、ご飯も食べ終わった。


就寝時。


何も起こるはずが、、、、、、あった。


何事も無く俺はリビングに敷かれた布団で寝ることになった。


つまんな……と鼻をほじりながら布団に入る。

残念ながら、人生とはそういうものだ。




翌朝。俺は早朝に起きた。


シニさんの寝室のドアに耳を当てる。


……スーー、スーー


よしまだ寝てる。


「お泊まりさせていただきありがとうございます。学校の件は前向きに検討しておきます、何か困ったことがあったらまた手紙を送ってください」


机の上に置き手紙を置いて俺は拠点に帰る。


次はどんな依頼が来るかな。

そんな期待を胸に、もう次の依頼のことを考えてしまっている。水月リリは残念な男である。

















 


 






 



 

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