6:身支度をして美猫に
「さて、ミア、どうしたものかな」
森の散歩から戻った後、私はアーガイルと、魔王城の散歩を行いました。魔王城はとても広く、お昼休憩を挟み、夕方近くまで散策し、ようやく見終えた感じです。
とても広い図書館があったり、魔獣を飼育する小屋があったり、中庭は巨大な池があったり。地下には食物の保管庫の他、武器庫、避難部屋、牢屋などもあり、そこを見た時はドキドキしていまいました。
魔王城の探索が終わり、部屋で休憩をしたら、夕食なのかと思ったのですが……。
「昨日の婚儀にあわせ、魔族の貴族の多くが、この魔王城に集まっているのだよ。昨日、彼らにはお詫びをしたのだけど……。このまま何もなく帰すのは、さすがに申し訳ないだろうとなってね。用意していたお土産も渡すけれど、グレイのアドバイスで、今晩は舞踏会を開催することになったんだよ」
なるほど。確かにせっかく来てくれた貴族の皆さまを手ぶらで帰すわけには……いかないと思えます。
「そこでミアをどうしようかと思ってね。……ミアは舞踏会に参加したいかい?」
……! それは……どうなのでしょか。何せこの姿なのです。この姿で参加しても……みんな困惑してしまうのではないでしょうか。
そう思う一方で、こんな姿であろうと、きちんと姿を見せることが礼儀のようにも思えます。
うーん、どうしたらいいのでしょうか。
「! ミア、また御不浄だね。誰か!」
「みやぁ、みゃぁ(ち、違うのです!)」
クロエに連れられ、トイレに向かうことになったのですが。そこで思いがけず、クロエからアドバイスをもらえたのです。
「ミアさま。今晩は魔王アーガイルさま主催で舞踏会があるそうですよ。お城の中の様子を伺うと、みんな舞踏会を楽しみにしているようです。もしかしたら猫に変化してしまった妃殿下がお姿を現すのではと、皆様、期待しているようですよ」
これを聞いた私は。
マンチカンの子猫という姿でありますが、使命感に燃えました。
アーガイルの妃として。
皆の前に姿を見せた方がいいと思ったのです。
なんとか舞踏会に出たいという気持ちをアーガイルに伝えた私は。アーガイルと共に舞踏会へ出席することにしました。
◇
舞踏会へ出席するにあたり、クロエは念入りに私の身支度を整えてくれました。
まずは入浴。
バスタブに10センチ程、お湯をいれそれを泡風呂にして、私の体を綺麗に洗ってくれたのです。タオルで水気をとると、魔族のメイドが呪文を唱え、あっという間に濡れた毛を乾かしてくれます。
するとクロエはとても丁寧にブラッシングを行い、もう毛は極上な艶が出て、自分でもビックリです。
続いては唯一身に着けることができる首輪を選ぶことになりました。部屋には様々な種類の首輪が届けられ、どれにするかクロエと二人、悩むことに。
「このパールのネックレスのような首輪もいいですよね。でもこちらは……本物のダイヤモンドのネックレスを首輪にしていますよ」
高級な宝石がついた首輪は、もはや首輪と思えないゴージャスさがあるのですが……。試しにつけると、重いのです。さらに、宝石が大ぶり過ぎて、邪魔……。
散々、迷った結果。
クロエと私が一致して選んだのがアイスブルーのリボン。このリボンには銀糸で美しいしい刺繍も施されていました。これであればアーガイルの瞳と髪の色をイメージできますし、リボンなので軽い。長時間つけても問題なさそうです。
「ミアさま、どうですか?」
鏡を見ると……。
クロエがとても綺麗にリボン結びを作ってくれたおかげで、とてもオシャレに見えました。
「みやー(素晴らしいわ!)」
「ふふ。ミアさま、気に入っていただけたようですね」
後は自力で髭や眉毛を整え、完成です。
鏡に映る私は……かなりの美猫に思えます。
これなら魔族の貴族の皆さまの前に出ても、恥ずかしくないハズです。
クロエにアーガイルの部屋に連れて行ってもらいます。
「アーガイルさま、ミアさまのお支度が整いました」
アーガイルの部屋にはいり、クロエも私も「ほうっ」とため息が出てしまいます。
アーガイルが舞踏会のために着ている衣装は、とても素晴らしいのです。ゆったりとしたその衣装は、光沢のある瑠璃色。袖や裾に銀糸による素敵な刺繍、銀細工でできたベルトには、ムーストーンが埋め込まれています。
髪色にも瞳の色にもあった完璧なコーディネートです。
私がアーガイルに見惚れていたのですが、アーガイルは私を見て、アイスブルーの瞳を輝かせました。
「ミア、そのリボン、とても似合っているよ。それに毛が艶々だね」
クロエから私を受け取ったアーガイルは私を抱き寄せ、静かに背中を撫でると……。
「なんて素敵な触り心地だろう。……一晩中、ミアのことを撫でたくなってしまうね」
猫冥利に尽きる褒め言葉。
嬉しくて思わずスリスリするのを止められません!
「ミアさま、落ち着いてください」
思わずクロエが止める事態になりましたが、準備は完了です。アーガイルの胸にしっかり抱きつき、舞踏会の会場となるホールへ向かいました。