33:一緒でいいのかい?
「あ、あの、アーガイルさま。一緒にいてくださった方が温かく、安心できます」
「わたしと一緒でいいのかい?」
こくりと頷くと、「おいで、ミア」と私を抱き寄せ、アーガイルは腕枕をしてくれました。こんな風に腕枕をされることで、自分がもう猫の姿ではないと実感できるのですが……。とてもドキドキしてしまいます。掛布団からはみ出している尻尾も落ち着きなく揺れていました。
「ミア、怖い思いをさせてしまったね。君のことを冷水の中に沈めようとした人間の女性。彼女はマヤと名乗った。ギルが尋問したら、あっさり全てを話したよ」
まるでまだ私が猫であるかのように、アーガイルは私の頭を優しく撫でてくれました。獣人族の姿に戻ったのですが。頭を撫でられると、とてもリラックスできます。
アーガイルはそうやって私の頭を撫でながら、マヤが白状したことを聞かせてくれました。それはあのバスルームで本人から聞いたことと同じです。
「マヤは、この城にやってきた商人、ペーターというラビット族の妻だったのだね。この夫婦に……ミアが断罪されたと、クロエが教えてくれたよ。……ミアがわたしの所へ嫁いできてくれたのは、罰だったのだね」
「! そ、それは……、それは確かにそうなのですが、でも今は罰だとは思っていません。最初は、アーガイルさまのことをよく知らず、どんな方なのかと恐れていましたが……。猫に変化してしまった私に優しくしてくださり、とても良い方だと分かりました。ですから私は、アーガイルさまに迎えていただけて、心から嬉しく思っています」
そこでふと気が付きました。
私は魔王をひたすら怖い者……と思い、その存在を恐れていたのです。ところが会った瞬間からアーガイルは私に優しく、子猫の私を無条件で受け入れてくれました。それどころかとても愛でてくれていたのです。
それは……なぜなのでしょう? もしやアーガイルは……。
「アーガイルさま」
「なんだい、ミア?」
「アーガイルさまは、初めて会った私を、子猫の私を温かく迎えてくれました。愛でてくださいましたよね。もしや無類の猫好きでしたか?」
私がこんなことを尋ねるのは、予想外だったのでしょうか。アーガイルはクスクスと美しく笑いました。
「そうだうね。そんな風に見えてしまったかもしれない。でもね、違うのだよ」
アーガイルはそこで、思いがけない話を聞かせてくれました。
私とアーガイルの結婚は、表向きは魔族と獣人族との友好のためです。長い間、戦争が続いていたのですから、この婚姻で友好が深まるならと、アーガイルは私の嫁入りを受け入れました。
その一方で、獣人族が、というか魔族以外の種族が、魔族を恐れていることを、アーガイルは知っています。ですからその魔族に嫁ぐ決意をした私に興味を持ったそうです。
獣人族が暮らすモカ国と魔王城はとても遠いと皆、思っています。でもアーガイルは違います。魔王であるアーガイルは強い魔力を持ち、その魔術を使えば、モカ国にも瞬時に移動ができるのです……!
そこで、アーガイルはこっそり、私との婚姻が決まった後、モカ国を訪れました。そこで偶然、目撃するのです。私を。
私は婚儀に備え、街で嫁入り道具の買い物をしていました。そして宝飾品店から出た時、フォックス族の子供が、魔獣をいじめている現場に、遭遇していたのです。
魔獣は通常、モカ国にはいません。でも珍獣として、王族や上流貴族がペットとして飼うことが稀にあるのです。恐らく、ペットとして飼われていた魔獣が逃げ出したのでしょう。それを見つけた子供達が、石を投げたり、蹴ったりで、いじめをしていたのです。
私としては魔獣と言えど、生き物ですから。「おやめなさい」と止めました。その姿をアーガイルは目撃していたのです……!
あの時、私はその傷ついた魔獣を屋敷に連れ帰ろうと思ったのですが、その魔獣は私が子供達を止めると、一目散でどこかへ逃げてしまいました。しばらく探しても見つからなかったのですが、実はアーガイルがその魔獣を連れ帰っていたのです。
こうして私が魔獣を庇う姿を見て、私が魔族に対して理解があることが分かり、安心して妃として迎え入れる気持ちになれたと明かしてくれました。
「そうだったのですね。まさかアーガイルさまがモカ国に来ているとは思わず、驚きました」
「これはね、ギルもグレイも知らないことだから。ミアとわたしの秘密だよ」
そう言って微笑むアーガイルのアイスブルーの瞳が、キラキラと煌めいています。そしてアーガイルは確認するように尋ねました。


















































