21:その正体
「バカンスシーズン。魔王城へ顔を出す貴族は多い。私も胸を躍らせ、やってきた。そこで美しい魔王さまを見かけ、淡い恋心を抱いたのだ。それに気づいたお前たちは……。私はナッツ類にアレルギーがある。口にしないよう、注意している。それなのにナッツ入りのカップケーキを私に食べるようすすめた。ナッツと分からないよう、粉砕し、生地に盛り込んで。あの時、魔王さまに助けていただけなれば、私は……死んでいたかもしれない。呪い殺したい。お前たち二人を」
オーマン公爵令嬢はそう言い終えると、またも首だけガクッと後ろに倒しました。すると開いた口から、あの白い煙のようなものが出て行きました。出て行ったばかりですが、また白い煙のようなものが、その口へと入って行きます。
ソラス伯爵令嬢は目を大きく見開き、エル伯爵令嬢の目から涙がこぼれ落ちていました。
「ああ、ようやく文句を言える。魔王様とちょっと親しく話していただけで、こんな仕打ちを受け取るとは。あの日、あなた方に嫌がらせで、落馬した私は……。あちこちに怪我を作り、骨折し、どれだけ痛い思いをしたか。魔王様が助けてくれなければ、私は今も車椅子生活だった。本当に、恐ろしいことをしてくれた」
そこで突然、オーマン公爵令嬢が、ソラス伯爵令嬢の腕を掴みました! あまりにも驚いたソラス伯爵令嬢は、口をぱくぱくさせるも、声が出ていません。この様子を見たエル伯爵令嬢は悲鳴をあげ、アル男爵令嬢に抱きつきました。
「……消えな、この魔王城から。みんな、おまえに恨みがある。このまま魔王城にいたら、あんた……死ぬかもしれないよ」
凄みのあるオーマン公爵令嬢の声に、ついにソラス伯爵令嬢の両目から涙がボロボロこぼれ落ちました。これを見たオーマン公爵令嬢は口角を上にあげ、ニヤッと笑っています。
でも次の瞬間、オーマン公爵令嬢が突然、ゴンと額をテーブルに打ちつけ、突っ伏しました。これには全員が悲鳴をあげています。でもオーマン公爵令嬢は「痛い……」と言いながらも、顔を上げました。
この状況に、なぜ誰も逃げ出さなかったのか。
逃げたい気持ちもあったのでしょうが、多分、腰が抜け、動けなかったのだと思います。
「……。今、何か、怪奇現象が起きていましたか?」
オーマン公爵令嬢がいつもの声と表情で尋ねると、アル男爵令嬢が首を何度も縦にふっています。それを見たオーマン公爵令嬢は「そうでしたか」と言い、首を回し、額に触れ、ため息をつきました。
「なぜ、この魔王城にいるのか。モイラという霊に尋ねたところまでは覚えているのですが……。なんというか、彼女の思念が私の脳に流れ込んできたのです。そして……見えました。ナッツ入りのカップケーキを食べ苦しむ姿が。そして……ソラス伯爵令嬢、エル伯爵令嬢、お二人の姿も見えたのですが……。お二人は、モイラという令嬢に心当たりは?」
「あります! ごめんなさい! そういうアレルギーのことを知らなくて。まだ8歳の時です。本当に、本当にごめんなさい!」
エル伯爵令嬢が号泣しながらそう言い、一方のソラス伯爵令嬢は……。
「エル伯爵令嬢の言う通りです。わ、わたくし達は、こ、子供でしたから……」
二人の様子を見る限り。
嘘をついているように……思えます。
恐らくこの場を取り繕うための嘘ではないかと思えました。
つまりナッツのアレルギーを知らなかった……いえ、知っていたのではないでしょうか。子供だったからと誤魔化していますが、そんなことはないと思います。子供だからこそ、無知であるからこそ、とんでもなく残酷な行動をすることが、あるのではないでしょうか。
ナッツによるアレルギーは知っていたが、実際の症状は見たことがない。だから大丈夫だろう。あの魔王さまに好意を寄せるなんて、生意気。ちょっと嫌がらせをしよう。メイドに頼み、ナッツ入りのカップケーキを作ってもらおう……そんな思考をソラス伯爵令嬢とエル伯爵令嬢がしたのではないか。そう思えてしまいます。
私がそんな風に推理していると、オーマン公爵令嬢は、二人にこんな指摘をしていました。
「つまり、お二人はモイラがアレルギーを持っていると知らずに、ナッツ入りのカップケーキを食べさせたと。それならば謝罪をするべきでしょうね。きちんと謝罪をされていないから、こうやって霊となって現れているのでは?」
オーマン公爵令嬢の言葉を聞いたエル伯爵令嬢が、震えながら尋ねます。
「霊として現れたということは、モイラ伯爵令嬢は、し、死んでいるのですよね? しゃ、謝罪というのはどうやってすればいいのでしょうか……」
「伯爵令嬢なのですね……、あ、スルタン伯爵家のご令嬢のモイラさま……! 亡くなってなどいませんわよ。ご健在です。私が見た思念と、お二人の言うことを踏まえると……。ナッツ入りのカップケーキで、死を感じるような苦しみを味わったようですね。でもその時に命を落としたわけでもない。つまり、今回ここに現れたのは……生霊です。恨みの念が強く、生きているのに霊のように魂がさまよい、この魔王城に姿を現したのかと」
そこでオーマン公爵令嬢は、ため息をつきました。


















































