19:オカルトムード満点
オーマン公爵令嬢は、ついに準備していたものをテーブルに置きました。それは前世で見たことがあるウイジャ盤 ……日本ではこっくりさんで使われるものにそっくりです。
アルファベットと数字が書かれていて、左上にはイエス、右上にはノーの文字。下部にはグッド・バイの文字が書かれています。
ハートの形をした文字を指し示す道具も、プランシェットにそっくりです。
これらすべてはアーガイルが即席で魔術を使い用意したものですが、人間が作ったものを参考にしたと言っていました。きっとそれはウイジャ盤とプランシェットを参考にしたのだと思います。
オーマン公爵令嬢はテーブルに並べたものについて説明を行いました。
最初は四人と一匹で手をつなぎ、霊に語りかけます。そして部屋の中で何か霊を示す合図があるならば。ウイジャ盤を使い、霊との会話がスタートです。会話は四人と一匹の手をプランシェットにのせ、質問を行い、霊がそれに答えるという流れ。つまり、プランシェットは問いかけに応じ、霊が動かすということです。
「では説明を終わりました。今はまだ日中で明るいですよね。霊は光を嫌うそうなので、カーテンを閉め、テーブルにロウソクを用意しましょう」
オーマン公爵令嬢がそう言うと、ソラス伯爵令嬢が真っ先に立ち上がり、ロウソクを取りに行きました。その様子を見るに、ソラス伯爵令嬢は、よっぽど水晶宮に行きたいのだろうと思えます。
テーブルに置かれたロウソクに、オーマン公爵令嬢が火をつけると、アル男爵令嬢がカーテンを引きました。
それまで窓からは、初夏の陽光が降り注いでいたのですが……。それがなくなり、部屋の中は一気に暗くなり、オカルトムード満点になりました。
テーブルを囲むみんなの顔は、淡い炎の明かりに照らされ、まさに映画で見た交霊会のワンシーンそのもの。ドキドキしてきました。
「それでは、これから霊に呼びかけます。隣同士、手をつないでください。私が手を離してください、というまで、手はつないだままでいてくださいね」
オーマン公爵令嬢が話し終わらないうちに、ソラス伯爵令嬢は隣に座るエル伯爵令嬢の手をつかみ、オーマン公爵令嬢の方へ手を伸ばしています。私は左の前足をオーマン公爵令嬢と、右の前足をアル男爵令嬢とつなぐ形になりました。私だけテーブルにのっていますが、仕方ありません。
「皆、手をつなげましたね。ではこれから呼びかけを行います。私が言うことを、皆さんも追いかける形で復唱してください。恥ずかしからず、必ず言うようにしてください。妃殿下も鳴き声でお願いします」
私が鳴いて返事をすると、オーマン公爵令嬢は静かに問いかけを始めます。
「魔王城を彷徨う霊よ。あなたと話をしたいのです。どうかこの部屋に来てください」
残りの三人と一匹で、今の言葉を復唱します。するとオーマン公爵令嬢は再び同じ言葉を繰り返しました。
五回目の復唱を終えた時。
ピシッと床材が軋む音がしました。前世でラップ音と言われている現象ですね。
七回目の復唱を終えた瞬間。
バタンとドアが閉じる音がして、エル伯爵が大きな悲鳴を上げ、アル男爵令嬢も控えめながら声をあげました。ソラス伯爵令嬢は悲鳴を飲み込んだようです。オーマン公爵令嬢は体をビクッとさせましたが、すぐに落ち着きを取り戻し、皆に告げます。
「どうやら霊が応じてくれたようですね。ゆっくり、手を離しましょう」
霊が応じてくれた――つまり、この部屋に霊がやってきたことになります。そうと分かったエル伯爵令嬢の顔は、蒼白です。その様子に比べると、アル男爵令嬢は落ち着いた様子。交霊会なんて経験したことがないので、これから何が起きるのか。興味が尽きないといった感じです。
「では皆さん、手を置いてください。力はいれず、リラックスした状態でお願いします」
オーマン公爵令嬢の言葉に、皆、プランシェットに手を置きます。
「エル伯爵令嬢。大丈夫です。ここにはみんないるのですから。一度、深呼吸しましょうか」
明らかにプランシェットが、エル伯爵令嬢の手元で揺れているのに気づいたオーマン公爵令嬢は、リラックスするよう促します。エル伯爵令嬢は、オーマン公爵令嬢と共に深呼吸を繰り返し、ようやく落ち着いてくれました。
「では、霊に私から質問します。皆さん、手に力はいれないでくださいね」
オーマン公爵令嬢の言葉に、全員で頷きました。
「この部屋に来てくれた霊に尋ねます。何人、この部屋にいますか?」
すると。
プランシェットがゆっくり動き出します。これにはドキドキしてしまいました。
ソラス伯爵令嬢は真剣な眼差し、エル伯爵令嬢は既に魂が抜けたような顔、アル男爵令嬢は驚きで目を丸くしています。
ピタッと動きが止まりました。
プランシェットが示す数字は「7」です。
「……これは驚きですね。ここにいる生者の数より、霊の数の方が多いとは……。皆さん、気を付けましょう。すべて終えるまでは、団結が重要です。決して、勝手な行動をしないでください。誓いを破り、霊に憑りつかれたくなければ」


















































