18:仲間割れ
「とりあえず、ソラス伯爵令嬢、座っていただけますか。そしてもうお茶とお菓子は片付けていただいても?」
オーマン公爵令嬢が落ち着いた声でそう言うと、ソラス伯爵令嬢はすぐに椅子に腰かけ、デラの名前を呼びます。デラともう一人のメイドが即こちらへやってきて、テーブルの上が片付けられていきました。
テーブルの上が片付くと、オーマン公爵令嬢は、人払いをするように指示をします。部屋の中にいるメイド、警備の騎士に出て行ってもらうのです。
「ミアさまもいるのに、警備の騎士まで部屋から出て行かせて大丈夫なのですか?」
ソラス伯爵令嬢がオーマン公爵令嬢に尋ねます。
「警備の騎士には廊下で待機いただきましょう。これから行うことは、とてもセンシティブなことです。あまり人数が多いと成功しません。……私は別に失敗しても構いません。ですが失敗すれば、水晶宮への招待は……」
「すぐにメイドも警備の騎士も退出させ、廊下に待機させます」
ソラス伯爵令嬢は素早くメイドと警備の騎士を部屋から追い出しました。部屋の中には、私達四人と一匹しかいない状態です。エル伯爵令嬢はなんだかそわそわしていますが、一応席についたまま、黙り込んでいます。一方、この様子を確認したオーマン公爵令嬢は……。
「これから霊の正体を暴くことになります。皆様、準備はよろしいですか?」
ソラス伯爵令嬢は何度も頷き、エル伯爵令嬢は無言、アル男爵令嬢は何をやるのかと興味深そうな顔で「分かりました」と返事をしています。
「ではご説明します」
オーマン公爵令嬢はそう言うと、おもむろに口を開きました。
「これから、霊の正体を暴くための、交霊会を行います。魔王城に現れる霊をこの場に呼び出し、何者であるか聞くことになるのです。これはとても危険な行為でもあります。なぜなら、生者の生命パワーが弱いと、霊にあの世に連れて行かれる可能性もあるからです。そのため、この交霊会に参加するメンバーは、最初から最後まで、何があったとしても、この場から動くことは禁止。席を立ったり、指示を破ったりするのは厳禁です。もしこの誓いが破られた場合は、霊は誓いを破った者に憑りつくか、あの世へ連れ去ると言われていますから。くれぐれもご注意ください」
するとこの話を聞いたエル伯爵令嬢は……。
「ソラス伯爵令嬢、わたくし、オカルトっぽいものはごめんなさい、苦手ですわ。今日の処は、これで退出してもいいかしら?」
ソラス伯爵令嬢は、エル伯爵令嬢に対して答えることなく、オーマン公爵令嬢を見て、恭しく尋ねました。
「ミキさま、今ならエル伯爵令嬢は退出しても大丈夫ですか?」
「ダメです。既に交霊会を始めると説明を始めてしまいましたから。もし退席されたら……この後、呼び出した霊がエル伯爵令嬢に憑りつくかもしれません」
「え、そんな……」
エル伯爵令嬢は泣きそうな顔になり、ソラス伯爵令嬢を見ます。でもソラス伯爵令嬢は、とても冷ややかな目でエル伯爵令嬢のことを見返しました。
「別に退席なさりたいのなら、すればいいのでは? ただし、霊に憑りつかれても、わたくし達にはどうにもできなくてよ? 憑りつかれるのが嫌であれば、ミキさまがなさる交霊会に、参加さえすればいいのです」
ソラス伯爵令嬢の表情、言葉を目の当たりにしたエル伯爵令嬢の顔には、悲しみ、怒りが浮かんでいます。一方のソラス伯爵令嬢は、オーマン公爵令嬢を見て、話を進めようとしたのですが……。
「アル男爵令嬢、あなたもこんな怪しげな会、いやですわよね? それにミア妃殿下は猫の姿ですよ。逃げるな、席を立つなと言っても無理では?」
エル伯爵令嬢は、自分一人が退出し、霊に憑りつかれるのは困ると思ったようです。そこで交霊会そのものを、中止にできないか考えたようなのですが……。
「ミキさま。ミアさまは猫の姿をしているだけで、獣人族の姿の時同様、皆様が話していることは、理解できるのですよね?」
ソラス伯爵令嬢は、エル伯爵令嬢に冷たい一瞥をくれると、オーマン公爵令嬢に尋ねました。勿論、私は皆さまの言葉が理解できますので、オーマン公爵令嬢が頷くのと同時に、「みゃん(わかります!)」と返事をします。
するとエル伯爵令嬢は、黙り込みます。そこに追い打ちをかけるように、ソラス伯爵令嬢がこんなことを言い出しました。
「自分一人が抜け、霊に憑りつかれるのが怖いからと、ミアさまを巻き込もうとするなんて、ヒドイと思いますわ。それにもう交霊会は始まっているのですから。モアさまも退席したいなんて、言い出しませんわよね?」
エル伯爵令嬢は唇を噛んで黙り込み、アル男爵令嬢は「わ、私は言われた通りに従います」とあわあわしながら答えています。
なんというか、目の前で仲間割れが始まっています。オーマン公爵令嬢は、呆れた様子で三人を眺めていましたが……。
「もう、後戻りはできない段階です。始めてもいいですか?」
改めて問われた三人は、エル伯爵令嬢はしぶしぶという感じで頷き、ソラス伯爵令嬢とアル男爵令嬢は、力強く頷きました。


















































