17:水晶宮
ソラス伯爵令嬢の専属メイドのデラが、全員のカップに紅茶を注ぎ、お茶会がスタートしました。ここでどれだけソラス伯爵令嬢とエル伯爵令嬢が、嫌味発言を始めるかと思ったのですが……。
二人は話をしているものの、それは舞踏会で用意されていたスイーツの話だったり、アーガイルのいとこであるファウスのことだったりで、一向に嫌がらせはありません。
そこで気が付きました。
何事も先手必勝。先制攻撃が有利なのだと。
勿論、最初に仕掛けたのはエル伯爵令嬢でした。そしてこの場に、オーマン公爵令嬢がいなければ、私はその時点で心が折れ、今頃……。きっとソラス伯爵令嬢とエル伯爵令嬢は言いたい放題だったでしょう。
でも、オーマン公爵令嬢が、冒頭においてことごとく二人の嫌味を叩き潰したのです。こうなるともう、二人は完全に牽制された状態。もしもめげずに何か言っても、それは倍返しされてしまうと悟ったのかもしれません。
何より、ソラス伯爵令嬢が嫌がらせをしたい相手は、私です。弁が立ち、頭の回転も速い、爵位も上のオーマン公爵令嬢に、仕掛けたいわけではないのでしょう。
他愛のない、令嬢がよくしていそうな会話が繰り広げられる中。
オーマン公爵令嬢が、静かな水面に一石を投じます。
「噂で聞いたのですが」
凛としたオーマン公爵令嬢の言葉に、ソラス伯爵令嬢、エル伯爵令嬢、アル男爵令嬢が、紅茶を飲むのを止め、お菓子を食べる手を止め、彼女に注目しました。
「最近、魔王城では霊が徘徊されているそうですのよ。それは美しいドレスを着た女性のようなのですが……。廊下の先に現れたと思ったら、次の瞬間には消えている。窓の外を見たら、深夜の誰もいないはずの庭にドレスを着た女性の姿が見え、瞬きをして開けると……その姿はない……」
そこで私はさりげなくテーブルの天板に尻尾をぶつけます。オーマン公爵令嬢の話を聞くため、皆、動きを止めていました。
つまり、部屋の中は無音に近い状態。
それなのに突然聞こえた物音に……。
「きゃっ」と悲鳴をあげたのはアル男爵令嬢。
アル男爵令嬢の「きゃっ」に驚いたのはエル伯爵令嬢。
ソラス伯爵令嬢は無言で固まっています。
オーマン公爵令嬢は、三人の様子を気にすることなく、話を続けます。
「殿下にお聞きしたところ、この霊の正体を暴いた者を、水晶宮に招待されるそうですわよ」
「えええええっ!」
可憐さの演出をすっかり忘れているソラス伯爵令嬢が椅子から立ち上がり、両手をテーブルにバンとつきました。この、伯爵令嬢らしからぬ振る舞いに、アル男爵令嬢は目を丸くしています。
エル伯爵令嬢は「ソラス伯爵令嬢、どうなさりました?」と声をかけ、落ち着かせようとしていました。でもそんなエル伯爵令嬢の手を振り払い、ソラス伯爵令嬢はオーマン公爵令嬢に問いかけます。
「ほ、本当に、アーガイルさまが、す、水晶宮に招待を!? あの水晶宮に!?」
ソラス伯爵令嬢は、興奮で震えてさえいます。それに対し、オーマン公爵令嬢は、とても落ち着いた声で伝えました。
「ええ。そうですよ。ただし、霊の正体を暴く必要はありますが」
でもこの言葉は、ソラス伯爵令嬢の耳に届いていないようで。ソラス伯爵令嬢はうわ言のように「水晶宮、水晶宮」と囁いています。
アーガイル大好きなソラス伯爵令嬢が、こうなってしまうのは当然でしょう。なぜなら、水晶宮という離宮は、それだけ価値ある場所なのですから。
水晶宮は、通常、王族のみの利用が許されており、建物の外に警備の騎士は配備されていますが、中に入ることはできません。ドーム型の建物で、ガラス張りになっているのですが、それはミラーガラス。外から中は、見えないようになっているのです。よって中がどうなっているのか、それは魔族であれば、みんな知りたいと思っていることでした。
私はまだ行ったことがありませんが、アーガイルは水晶宮について説明する時に「書類上ではもうわたし達は夫婦だよ。でも婚儀を挙げてからではないと、水晶宮へミアを案内することができないんだ。だから婚儀を挙げたら、いつでもミアのことを水晶宮へ連れて行くよ」
素敵な声でそう言うと、アーガイルはあのゴッドフィンガーで私の頭を優しく撫でてくれたのです。
ということでその水晶宮に案内されると言われたら、ソラス伯爵令嬢は絶対にこの話に乗るだろうと、アーガイルは言っていました。そしてまさにその通りになりつつあります。。
つまり……。
「ソラス伯爵令嬢」
怒鳴ったわけではないのですが、お腹に力をいれて出されたオーマン公爵令嬢の声に、ソラス伯爵令嬢がようやく反応しました。
「な、なんでしょうか」
答えたソラス伯爵令嬢は、ゆっくり椅子に腰を戻します。
「水晶宮に行きたいのなら、霊の正体を暴く必要があります」
「そ、そうでしたわね」
「……私は暴く方法を知っています」
ガタッとして、ソラス伯爵令嬢が再び椅子から立ち上がり、テーブルに両手をつきました。
「ミキさま。その方法を教えてくださらないでしょうか」
「ええ、よろしくてよ。でもそれは一人でできることではないので……そう、今からやってみます?」
「! 今からできるのですか!?」
オーマン公爵令嬢が頷くと、ソラス伯爵令嬢のローズクォーツのような瞳が、キラキラと輝いています。


















































