15:毛が逆立ってしまいます
「お待ちしていました。オーマン公爵令嬢、ミア妃殿下」
扉を開けてくれたのは、ソラス伯爵令嬢の専属メイドのデラです。昨日と同じ黒のワンピースに白のエプロン。髪は黒のボブで、瞳はグレー。表情はなく、オーマン公爵令嬢と私を先導し、部屋の中へと歩いて行く。
「ミアさま、ミキさま、お待ちしていましたわ。さあ、お座りになって」
席から立ち上がり、私達を出迎えてくれたソラス伯爵令嬢は、三段ティアードの白地にアイスブルーの薔薇プリントのドレス姿です。ちなみにミキさま……オーマン公爵令嬢のことですね。
まずソラス伯爵令嬢を見ることになったのです。
が。
案内された客間を見渡して……驚いてしまいます。
魔王城の客間は、城内見学をした際、アーガイルに見せてもらっていたのですが、どの部屋も絨毯はワイン色、調度品はマホガニー材で出来た、赤茶色の木目模様が美しいもの、カーテンは落ち着きのある紺色で統一されていました。でもソラス伯爵令嬢の部屋は、違います。
絨毯はアイスブルー、カーテンは銀色、調度品には銀色の布がかけられていました。
「あら、ミアさまがお部屋を見渡していますわね。気づけていただけたかしら? このお部屋は、滞在初日に手を加えさせていただきましたの。絨毯は魔術を使い、色を変えてありますのよ。カーテンと布は持参してしますの。こうするとここがアーガイルさまのお城だと実感できませんこと? アーガイルさまの、あの美しい銀髪と瞳の色にあわせた模様替えですのよ」
……!
こ、この人、ストーカーかもしれません!
本能的に鳥肌ならぬ、猫肌(?)が立ち……いえ、毛が逆立ってしまいます。
恋人や婚約者、パートーナーの瞳や髪色にあわせ、衣装や宝飾品をコーディネートするのはよくあること。でも部屋を、ましてや恋人、婚約者、パートーナーでもないのに、こんなことをするのは……。感覚のズレを感じます。
アーガイルは既婚者。さらに言えば、ここは一夫一妻制です。公にはされない、愛人のような者に、なれないことはないと思うのですが……。
ソラス伯爵家が、これまで魔王の妃を輩出している一族であるなら。愛人などという立場に、一族の令嬢がなることを良しとするわけがありません。それなのにこれは……。
「妃殿下。大丈夫です。スルーしてください。昔からこうなので」
オーマン公爵令嬢が、優しく私の背を撫でてくださいました。
昔からこうしている……。
それだけストーカー歴が長そうで、怖くなりますが……。
ともかくオーマン公爵令嬢が着席し、背を撫でて続けてくれるので、なんとか気持ちを静めるよう頑張ります。一方、オーマン公爵令嬢が着席すると、ソラス伯爵は、同席している二人の令嬢を私に紹介してくれました。
「こちらはエル伯爵令嬢、わたくしの幼馴染みですわ。こちらの魔王城に滞在する時も、いつも一緒なの。ミキさまは昔から知っていらっしゃいますわよね」
「ええ、そうですわね」
オーマン公爵令嬢が頷くと、エル伯爵令嬢が私を見て笑顔になります。
そのエル伯爵令嬢は、なんというかソラス伯爵令嬢の姉妹のように見えました。なぜなら髪の色が、ソラス伯爵令嬢と同じ、シルバーピンク。さらに着ている今日のドレスは、ソラス伯爵令嬢の色違いに思えるもの。色が淡いピンクであるところ以外、三段ティーアドやレースや刺繍など、そっくりです。二人お揃いで仕立てたのでしょうか。
「ミア妃殿下、こうやってお会いできる機会をもたせていただき、光栄です。猫の姿ながら、舞踏会に参加されるなんて。そのとんでもなく逞しい心に感動いたしましたわ」
そう言ってエル伯爵令嬢は、ソラス伯爵令嬢のように、可憐に微笑みます。一方の私は、なんだか複雑な気持ちです。女性に対する褒め言葉として、この世界観で逞しい心はないと思います。言い換えれば、それは図太いということでもあり……。多分、猫のくせに舞踏会に顔を出すなんて、図太いわね――そう言われているのだと思います。
あくまで令嬢ですから。口の悪いことは言わないわけですね。
「猫のお姿をされていますが、妃殿下ですよ、エル伯爵令嬢。逞しいだなんて、女性に対する褒め言葉と思えませんわ。訂正されるなら今すぐどうぞ。それとも殿下に報告し、不敬罪に問われたいかしら?」
オーマン公爵令嬢がそう言った瞬間。
ソラス伯爵令嬢は本当に小さく舌打ちし、エル伯爵令嬢の顔は引きつりました。
この時、私は悟ることになります。
きっとオーマン公爵令嬢は、子供の頃から、この性悪なソラス伯爵令嬢とエル伯爵令嬢と渡り合ってきたのだろうと。その中で、それこそオーマン公爵令嬢は鍛えあげられ、ちょっとやそっとでは折れない、鋼の心を身に着けたに違いないと分かりました。
オーマン公爵令嬢が今、この瞬間ここにいてくれることに、心から感謝するしかありません。もし彼女がいなければ、豆腐メンタルな私は、今のエル伯爵令嬢の言葉に、ただシュンとなるしかないのですから。
そしてオーマン公爵令嬢からズバリ指摘されたエル伯爵令嬢は……。


















































