14:お茶会のお誘い
ハンバーグ事件の翌日。
困った事態が起きました。
それは……。
ターコイズブルーの美しい衣装をまとったアーガイルが、私に封筒を見せました。
「ミア、ソラス伯爵令嬢からお茶会のお誘いがきたよ」
「みゃっ(えっ!?)」
「昨日のお詫びで、ミアをお茶会に誘いたいと言っているね。お茶会で出す食べ物、紅茶、そのすべては、魔王城の調理人が用意したものを出すそうだ。そしてお茶会には他に二人、リカー伯爵令嬢、アル男爵令嬢も参加すると。……理由もなく断ると、機嫌を損ねそうだね」
そこで思案顔になったアーガイルは、ニッコリ笑顔になりました。
「いいことを思いついたよ、ミア。オーマン公爵令嬢に協力してもらおう」
アーガイルに部屋へ呼び出されたオーマン公爵令嬢は。
今日は目にも眩しいレモン色のドレスを着ています。赤や黒のドレスも似合うオーマン公爵令嬢ですが。私からすると、この明るいレモン色のドレスの方が、本当の彼女らしさが出ていいと思いました。
悪役令嬢ではないのに、悪役令嬢みたいな、女子に意地悪していそうな色味のドレスより、俄然、ヒロインっぽいレモン色のドレスが、オーマン公爵令嬢には似合う……というのが私の個人的な感想です。
そのオーマン公爵令嬢に、アーガイルが自身の思い付きを伝えると……。
「えええ、なんで私が!」と最初は渋ることになりました。でもここでアーガイルが伝家の宝刀を示しました。なんでも魔王城では、少人数の賓客にだけ出す、絶品スフレがあるそうで。それを食べさせるとアーガイルが提案すると……オーマン公爵令嬢は「スフレ食べたさに屈服するなんて……!」と言いつつ、了承してくれました。
それはつまり、そのスフレがそれだけ絶品ということ。どれだけ美味しいのでしょうか? 気になりますが、猫の私は食べられません。……早く、獣人族に戻りたいものです。……勿論、毎日元の姿に戻るよう頑張っていますが、たいがいそれはアーガイルから「誰か、ミアを御不浄に」と言われてしまい……。
そんなに力んだ顔をしているのでしょうか? でも確かに懸命に「元の姿に戻れ~!」と念じているので、そう思われても仕方ないのかもしれません。
ともかくです。
アーガイルの提案を受け入れたオーマン公爵令嬢は……。お茶会の時間まで、アーガイルの思いつきを実現するため、奮闘することになりました。
ここで改めて私は実感します。
やはりオーマン公爵令嬢はイイ人なのだと。一度引き受けたからには、ちゃんとやり遂げる。しかも限りになく完璧に。それが……『公爵令嬢としてのプライド』そんな風に本人は、言っていたのですが。
そこは間違いなく『オーマン公爵令嬢のプライド』だと思うのです。
というわけで。
オーマン公爵令嬢の並々ならぬ頑張りのおかげで、アーガイルの作戦は、うまくいきそうです。既にソラス伯爵令嬢には、そのお茶会にはオーマン公爵令嬢が同席することは伝えられています。
なにせ私はマンチカンの子猫の姿。私を膝にのせ、お茶会の席に着席する者として、オーマン公爵令嬢を指名したとアーガイルが伝えたのですが……。これに対し、さすがにソラス伯爵令嬢は文句をつけることができません。
ソラス伯爵令嬢の想定では、そのお茶会に同席したいと言い出すのは、アーガイルだったはずです。そうなればソラス伯爵令嬢は、「今回のお茶会は女子同士。大変申し訳ございませんが、アーガイルさまは、お部屋でミアさまが戻るのをお待ちください」とでも言うつもりだったと思います。
でもその予想ははずれ、同席するのはオーマン公爵令嬢。公爵家の中で、オーマン公爵家は、あのファウスの次に有力な一族だとアーガイルは教えてくれました。その彼女の同席を表立って断るのは、いくら魔王の妃を輩出しているとはいえ、伯爵家であるソラス伯爵令嬢では難しいというわけです。何より、オーマン公爵令嬢の同席は、魔王であるアーガイルからも提案されているわけですから。
こうして時間がきて、私はオーマン公爵令嬢に抱きかかえられ、ソラス伯爵令嬢の部屋に向かうことになりました。
私を初めて抱き上げたオーマン公爵令嬢は、とても緊張していました。
「わたくし、仔馬は触ったことがありますけど、子猫に触れたり、抱っこしたりは初めてなのですのよ。もし姿勢が苦しかったり、変なところを持っていたりしたら、遠慮なく言ってくださいね」
「みゃぁ(は~い)」
「!! い、今、鳴きましたわね!? ど、どこか具合が悪いのかしら? もしや御不浄かしら?」
「にゃー、にゃん(違います、違いますよ!)」
「ちょっと、誰かいませんこと!?」
オーマン公爵令嬢はとにかく私に気を使い、ソラス伯爵令嬢の部屋に着くまでの間に、トイレ、水、外の空気を吸うなど、いろいろすることになりました。
「本当に小さくて軽くて、柔らかくて……。ちょっとでも余計なことをしたら、壊れてしまいそうですわ。よく殿下はいろいろなところへ連れ歩くことが出来ましたわね!」
そんなことを言いながら、ようやくソラス伯爵令嬢の部屋の扉の前までやってきました。その扉の前で立ち止まったオーマン公爵令嬢は、一度深呼吸をされると……。
「妃殿下、心の準備はいいですか? これから敵の本拠地に乗り込みますから。お覚悟ください」
「にゃん(はいっ!)」
オーマン公爵令嬢が、扉をノックしました。


















































