13:わたしが守るから
これにはもう、驚くしかありません。
一瞬、本当に玉ねぎがよくないということを知らず、鶏肉のハンバーグに加えてしまった――そう思ってしまいそうになります。
……!
分かりました。このデラも共犯……なのではないでしょうか。主に従順な専属メイド。すべてを知った上で協力している可能性もあります。
……! さらに気づいてしまいました。
もし私があの鶏肉ハンバーグを食べ、具合が悪くなれば、当然、ソラス伯爵令嬢は疑われることになります。そのため、事前にデラとは打ち合わせしていたのでしょう。ソラス伯爵令嬢が語った説明も事前に用意しており、デラに共有されていたと思うのです。そしてデラは罪を問われれば、そうなるとは知らなかったということで、詫びる段取りができていたのではないでしょうか。
でも……。
これはすべて私の推論です。
一瞬見えたソラス伯爵令嬢の瞳に恐怖を感じ、アーガイルの妃である私に、嫌がらせのため、今回のことを仕組んだと思ってしまったのですが……。もしかするとソラス伯爵令嬢が言う通りなのでしょうか。何も知らず、偶然美味しいからと加えてしまった……?
「ミア、もうお腹はいっぱいのようだね。そろそろ部屋に戻るかい?」
「みゃん(はい!)」
ソラス伯爵令嬢が意図的に玉ねぎを加えたのか、それが分かりません。でもこれ以上彼女と関わりたくないと感じていました。ですから今のアーガイルの提案には即答してしまいます。
「あら、もうお部屋にお戻りになるのですか? わたくし、せっかく来たばかりですのに」
少し頬を含まらせるソラス伯爵令嬢は……幼く感じ、その清楚さを際立てています。
そう思いつつ、彼女を疑惑の目で見てしまうせいでしょうか。
幼く、純粋無垢に見えるよう、あえて振舞っているように見えてしまいます。
「ソラス伯爵令嬢、それは申し訳ありません。このテーブルにあるお菓子、新しいものを君の部屋に届けさせましょう」
「まあ、アーガイルさま! とてもお優しいお心遣い、光栄ですわ。ありがとうございます」
アーガイルの提案にご機嫌になったソラス伯爵令嬢は、席を立ちます。それにあわせ、アーガイルも私を抱き上げ、立ち上がりました。
アーガイルと私の部屋は、客間のある場所とは真逆にあり、離れています。庭園から城の建物に入ると、すぐにソラス伯爵令嬢とは別れることになるのです。
「アーガイルさま、ミアさま。ご機嫌よう」
ソラス伯爵令嬢が可憐にお辞儀をし、アーガイルもそれに応え、別々の方角に向け歩き出します。その私達の後ろ、距離をおいてギル達護衛の騎士がついてきていました。
ギルはさっき、相当肝を冷やしたことでしょう。
いえ、もしかすると今もまだ、心配しているかもしれません。メイドが下げたあの鶏肉のハンバーグに毒が含まれていないか、分析させている可能性もありました。毒が盛られていたとしても、即効性があるものがあれば、遅効性のものもあるのですから。
それにしてもアーガイルは魔王なのに、かなりやんちゃですね。毒は含まれていないだろうと思ったからこそ、口に含んだのだとは思いますが……。
……。
違いますね。
あれをあの時、毒見として食べたのは私のため。
そう思うと……。私はアーガイルに愛されていますね。
ただ、あまり危険なことはして欲しくないです。
アーガイルに万一があったら……泣いてしまいます。
思わずその胸に頬を摺り寄せると。
「ミア、さっきは驚いてしまったかい? でも大丈夫だよ。私は魔王だから。暗殺に備え、各種毒への耐性はつけているからね。それにこの城には様々な毒に備え、解毒薬も揃えているから」
なるほど……!
でも、暗殺。
魔王でいることって大変ですね……。
ただ、この『モフモフ♡イケメン☆パラダイス』は平和な世界として設定しているので、暗殺されることはありません。大丈夫です。
そんな想いで、アーガイルの胸にぎゅっと抱きつきます。
「しかし。ソラス伯爵令嬢には困ってしまうね。ソラス伯爵家は、過去に魔王の妃を輩出している一族だから、あまり無下にはできない。とはいえ、ミアが食べない方がいい玉ねぎを意図的に混入させていたとなると……。放っておけないね」
……!
アーガイルは、ソラス伯爵が意図的に入れたと思っているようです。それはどうしてなのでしょう?
思わずその顔を見上げてしまいます。
「ミアの瞳は本当に翡翠のようだね。綺麗だよ」
優しく頭を撫でられ、そこで力がふわっと抜け、自分がどれだけ緊張状態だったか気が付くことになります。
「ソラス伯爵令嬢はね、大きなミスをしたんだよ。自分のメイドにわたし達に謝罪するよう、言っただろう? その時に『中毒』という言葉を使ったの、ミアは聞いていたかい?」
言っていました! 私がこくりと頷くと、アーガイルはニッコリ笑います。
「ソラス伯爵令嬢は『たまねぎ中毒』のことを知っていたということだね」
これはもう、にゃるほど!です。
アーガイルの観察力に感動してしまいます。
「ミアにこれ以上、悪さをされると困るからね。……ソラス伯爵令嬢対策を考えておくよ。ちゃんとミアのことはわたしが守るから、安心していいからね」
にゃんとも頼もしい~。
なんだかアーガイルが素敵過ぎて、変な猫語が止まりません!


















































