12:おやつの誘惑
私へのおやつを用意してくれたの……?
ソラス伯爵令嬢の後ろには、彼女の専属メイドが控えており、クローシュを被せたお皿を手に持っています。合図を送られた専属メイドは、私達のテーブルに近づくと、クローシュを取りました。
その瞬間。
鶏肉のいい香りが広がります。お皿の上にあるのは……これは鶏肉のハンバーグ!?
「ゆでたブロッコリーも刻んで加え、調味料は一切使わず、鶏肉も一度湯がいたものを使っていますわ。きっとミアさまにお喜びいただけるかと」
ブロッコリーが入っているなんて、ヘルシーではないですか。
「いかがですか、ミアさま」
……と、とても食べたくなっています。
「ソラス伯爵令嬢、ありがとうございます。そちらの席へ、よかったらお座りください」
「アーガイルさま、ありがとうございます」
私の体は本能で、一歩、また一歩と、鶏肉ハンバーグに引き寄せられているのですが、ふわりとアーガイルさまが私を抱き上げました。
あ~、鶏肉のハンバーグ……!
そうしている間にもメイドが来て、ソラス伯爵令嬢の前にティーカップを置き、紅茶を注ぎ、取り皿やカトラリーを揃えます。
「どうぞ、既に食べ始めていますが、まだお菓子は沢山ありますので、お召し上がりください」
「ありがとうございます」
ソラス伯爵令嬢は、ニコニコ笑顔で紅茶を口に運んでいます。一方のアーガイルは……。
「ミアはわたしの愛らしい妃です。ソラス伯爵令嬢を疑う気持ちはありませんが、毒見をさせていただきます」
そう言うと、なんとアーガイルは鶏肉のハンバーグを少しナイフで切り、フォークを使い、口へと運びました!
これにはもう、ビックリしてしまいます。
毒見というから、家臣にさせるのかと思ったら、まさかアーガイル自身が口にするとは……。これでは毒見になっていません。
まさか毒は入っていませんよね……!?
チラッと見ると、ギルの顔が青ざめています。
心臓をバクバクさせながらソラス伯爵令嬢を見ると、その顔は……。
ひ、表情がありません。
何を考えているのか、全くわからないのです。
でも、もし毒が入っていれば、絶対に吐き出すように言うでしょう。それに顔面蒼白になるはずです。ですから、毒は入っていないと思うのですが……。
ドキドキしながらアーガイルに視線を戻すと。
アーガイルはナプキンで口元を拭い、ゆっくり話しだしました。落ち着いた様子に、ギルの硬い表情が少し和らいだように思えます。
「……ソラス伯爵令嬢。確かにこの鶏肉のハンバーグは、調味料は使われておらず、ブロッコリーも鶏肉も一度火を通してあり、食べやすく刻まれていますが……」
そこでアーガイルのアイスブルーの瞳が、ソラス伯爵令嬢に注がれました。
「この鶏肉のハンバーグには、少量の玉ねぎも含まれていますね。ネギ類は与えないようにと、王宮付きの獣医師から言われています。よってせっかくミアのために作っていただいたのに、申し訳ないのですが、こちらはメイドに下げさせていただきますね」
アーガイルがそう言い、その視線を王宮付きのメイドに向けた瞬間。
私は……見てしまいました。
ソラス伯爵令嬢のローズクォーツのような瞳に、とんでもなく冷たい光が宿ったのを。それはあまりにも怖く、総毛だってしまいました。
間違いないと思いました。
ソラス伯爵令嬢は……玉ねぎが猫に好ましくない食材であることを知っているのだと思います。知っている上で、あえてあの一見すると、猫には魅惑的に見える鶏肉のハンバーグに加えたのだと……。
一方のソラス伯爵令嬢は……。
「アーガイルさま、ミアさま。大変失礼しました。玉ねぎがダメだとは私自身知りませんでしたわ。そしてその鶏肉のハンバーグを作った私のメイドも、それを知らなかったのだと思います。でもわたくし達がいただくハンバーグには、玉ねぎはいつも入っていて、美味しいですわよね。きっと良かれと思って、わたくしには知らせず、入れたのだと思いますの。申し訳ないですわ。わたくしのメイドがしたことですが、その責任はわたくしにありますから。本当に申し訳ありませんでした」
そう言って、深々と頭を下げるのを見て、私は……ぽかーんと口を開けてしまいます。どう考えてもソラス伯爵令嬢が混入を指示したようにしか思えないのに。自身のメイドに罪を被せるつもりなのでしょうか。昨晩の炭酸水の入ったグラスが落下したのを、あたかもメイドのせいにしたように。
「デラ、お詫びなさい。悪気はなかったとしても、アーガイルさまが毒見をなさらなければ、ミアさまは中毒を引き起こしていたのかもしれないのですから」
……!
メイドの仕業、でもそれは悪気はないということで、詫びるようにと指示を出しています。無実の罪であるならば。いくら専属メイドでも、きっとそれは表情に出るのではないでしょうか。そう思い、ドキドキしながらソラス伯爵令嬢の背後で控えていたメイドを見ると……。
ソラス伯爵令嬢の言葉を受け、彼女の専属メイドであるデラは……深々と頭を下げました。
「アーガイル殿下、ミア妃殿下、私の無知でお二人に御迷惑をおかけすることになり、大変申し訳ありませんでした」


















































