11:本能に負け……
ソラス伯爵令嬢が、オーマン公爵令嬢が言う「相変わらずの女狐ぶり」をどのように発揮したのか。
実は私は……分かっていませんでした!
でもそれについてアーガイルは、舞踏会から部屋に戻るために歩いている時に、こっそり教えてくれたのです。それを聞いた私は……ソラス伯爵令嬢こそが、悪役令嬢に思えてしまいました。
その方法は……。
アーガイルが炭酸水を頼むのを、ソラス伯爵令嬢は離れた場所で確認していたようなのです。そしてメイドが炭酸水の入ったグラスをお盆に載せ、近づいたタイミングを見計らい、私達のところへやってきました。
メイドが炭酸水の入ったグラスをお盆にのせたまま、アーガイルに差し出したまさにその瞬間。ソラス伯爵令嬢は、さりげなくメイドの背中を押していたのです。まるで偶然当たってしまったわ、という感じで。
それは勿論、水をアーガイルにかけるためのではなく、私にかけるため。なぜ私に水をかけるのか……きっとソラス伯爵令嬢は、アーガイルのことが好きなのでしょう。
それにしても面と向かって私に嫌がらせをせず、何も知らないメイドを利用するなんて。本当にヒドイと思ってしまいます。メイドはソラス伯爵令嬢に背中を押さられたことに、きっと気が付いていると思うのです。でも相手は伯爵令嬢。しかも魔王城へ招待された方。とても「この方に背中を押され、グラスが落ちてしまいました」なんて言えるわけがないのです。
まったくそんな意地悪な方がいるなんて、驚いてしまいます。それもそんな感じの意地悪を、子供の頃からされているなんて……。相当な性悪な方に思えます。
ともかくソラス伯爵令嬢には注意しましょう。
とはいえ、彼女と関わることがあるのでしょうか。
そう、思っていたら……。
舞踏会の翌日。
アーガイルは、通常であれば、魔王として政務に取り組んでいます。ただ今回、婚儀から一週間は、執務を休むことにしていました。ですので何か急ぎの案件があれば対応していますが、基本的には自室にいて、私と一緒に過ごしてくれているのです。
今日は魔王城の庭園をじっくり散歩しました。
魔王城の見学をした際、庭園も見たのですが、軽く見て終了だったのです。でも今日は温室も含め、ゆっくり見ることが出来ました。
温室には食虫植物があり、獣人族の私であれば、スルーするのですが……。子猫の姿の今、どうしても興味が先に立ちます。だってハエトリソウは本当に目の間で分かりやすく口が閉じるのです! どうしてもちょんと触れてみたくなる……。
この動物の本能に負け、獣人族の私であれば、スルーするハエトリソウをつんつんしていると、アーガイルが苦笑しています。
「ミア、まさかハエトリソウにそんなに反応するなんて……! あっちで咲いている珍しい蒼い花……ヒスイカズラに興味を持つと思ったけど、違うのだね。でもミア、すべて閉じたら可哀そうだから」
アーガイルが優しく私を抱き上げます。
「ハエトリソウが葉を閉じるには、とてもパワーを使うそうだよ。餌なしで閉じさせるのは、可哀そうだ。それにね、何度も空振りが続くと枯れてしまうのだよ。一度閉じたら開くにも時間がかかるしね」
そ、そうなのですね。
それを知らずにひょいひょい触ってしまい、ごめんなさい。
しょぼんと項垂れる私の頭を、アーガイルが優しく撫でてくれます。
「ハエトリソウは虫が必須ではないからね。チーズの欠片をあげると、それはちゃんと栄養になる。チーズをあげてみよう」
私がひょいひょい遊びをしている間に、アーガイルはギルに頼み、チーズを用意してくれていました。そして目の前でハエトリソウのお口(?)に、チーズの欠片を入れると……。
すごいのです!
ちゃんとパタンとしっかり閉じました。アーガイルによると消化にも時間と労力がかかるとか。
がんばれ、ハエトリソウ!
エールを送り、その後は珍しい蒼い花のヒスイカズラを見て、他にも南国の花を紹介してもらい、温室の見学は終了。その後は昼食をとり、午後、庭園散策を再開。その後はお茶の時間になりました。
「今日は天気もいいから、このまま庭園でお茶にしようか」
アーガイルに言われ、庭園のベンチで休憩していると、従者が現れ、あっという間にテーブルと椅子をセッティングしてくれます。続けてメイドが現れ、沢山のお菓子と紅茶を用意してくれました。
マンチカンの子猫の姿ですが、今見えているスイーツはなんだか美味しそうに思えます。獣人族の姿なら、食べられるのに……。
「ミア、ミルクもあるし、羊肉と牛肉もあるよ」
「みゃん(わ~い!)」
アーガイルと一緒に楽しくお茶の時間を楽しんでいると。
「アーガイルさま!」
この声は!
ハッとして顔を上げると、ベビーブルーのふわりとしたドレスを着たソラス伯爵令嬢がいます。見た目は昨晩と変わらず、清楚で可憐に見えるのですが……。メイドを利用した怖い嫌がらせをする方と思うと、ドキドキしてしまいます。
「こちらでお二人でお茶をされているとお聞きしたので、私もお仲間にいれていただけないかと思いましたの。ミアさまにも、ちょっとしたおやつをお持ちしましたわ」


















































