プロローグ
ワンパターンのありきたり展開ではもう売れない。
だから次の乙女ゲームの企画書は――「とにかく今までにないものにしろ!」というのが課長命令。それに従い、私が作ったゲームの企画書。それは……。
モフモフなイケメンを攻略する乙女ゲーム『モフモフ♡イケメン☆パラダイス』だったのです。
つまりはプレイヤーであるヒロインが攻略するのは、獣人族。
獣人族が暮らすモカ王国は、フォックス(狐)族の国王が治める国。人間も存在しますが、それ以上に獣人族が多いのです。
攻略対象となるイケメンも、王太子は勿論フォックス(狐)族。王太子に遣える近衛騎士の団長はウルフ(狼)族。宰相の息子はオウル(梟)族。公爵家の次男はラビット(ウサギ)族。
ヒロインは人間で、伯爵家の令嬢です。舞踏会のイベントで四人の攻略対象と出会い、いずれかのイケメンを選び、攻略していくというもの。
この企画自体は……面白いと言われました(嬉)。
モフモフ=癒しは常に求められ、疲れを忘れさせてくるモフモフのイケメンの需要は確かにありそうだと課長は言ってくれたのです。
ただ、ダメだしもされました。
それは。
悪役令嬢。
ヒロインの恋路を邪魔する悪役令嬢は、キャット(猫)族にしていました。「キーッ」って怒る悪役令嬢の姿と、猫が「シャーッ」って威嚇するところは、まさに合致すると思ったからなのです。で、悪役令嬢がキャット族である点はいいと言われました。問題は……断罪内容です。
王太子から断罪される→一ねこまんま永年禁止
近衛騎士の団長から断罪される→マタタビを永年禁止
宰相の息子から断罪される→ねこじゃらしを永年禁止
公爵家の次男から断罪される→紙袋に入るのを永年禁止
癒しがコンセプトなのだし、断頭台送りとか、娼館送りとか、血生臭いものやエロは排除したい。そう思ってキャット族であれば耐え難い断罪内容を用意したつもりでした。しかし課長は……。
「気持ちは分かる。でも一つぐらい、パンチがあるのをいれておけ」
パンチがある断罪……。
そこで思いつきで「紙袋に入るのを永年禁止」を「魔王へ嫁入り」と書き換えました。非常に軽い気持ちで。ところが、私は……。
書き換えた企画書を保存したノートパソコンを携え、続きは在宅ワークでやろうと思って会社を出たところ、事故死しました……!
トラックにはねられ、即死したので、当然、あの世に魂はいったと思っていたのですが……。
そんなことはなかったのです。
こんなことがあるなんて驚きですが、私は企画書段階の乙女ゲームの世界に……転生していました。とっても可愛らしいミルクティー色の髪に白い肌。くりっとした瞳にピンク色の唇。すらっとした手足に形のいい胸にくびれたウエスト。とっても素敵な容姿なのですが……猫耳と長い尻尾があります。
そう、私が転生したのは……悪役令嬢ミア・キャトレットだったのです……!
でも気付かなかったのです。
普通、乙女ゲームの世界に転生したら、しかも悪役令嬢に転生したのなら! 年齢一桁で覚醒し、将来の断罪を回避するために行動できるはず。
ところがどっこい、私が覚醒したのは、既に断罪が終了した後!
慣れないドレスを着た姿で馬車から降りようとして、あやうく地面に転がりそうになったその時。専属メイドに支えられ、地面を転がる事態はまぬがれることができたのですが……。
メイドの頭と私の頭が激突。
その衝撃で覚醒したのです。自分の前世を……思い出しました。
そして大いに悔やむことになります。
なぜ、あの時、思いつきで「紙袋に入るのを永年禁止」を「魔王へ嫁入り」に書き換えてしまったのかと。
そう、そうなのです!
覚醒するのが遅すぎた私は、既に公爵家の次男から断罪されていたのです。
そして今、「魔王へ嫁入り」するために、移動の最中だったのです……(Oh,my god!)。
魔王。
企画書の中で、魔王の詳細については、一切触れていません。なぜなら思い付きで「魔王へ嫁入り」と書き換えただけなのですから。
つまり、魔王がどんな人物なのか、まったく、分からないのです。それは……私に従い魔王城へ向かっているメイドや従者も一緒。
ただ、噂はありました。
魔王はこの世界で最も残忍・残虐・残酷で無慈悲。
氷のように冷たく、何人も寄せ付けない恐ろしい存在。
え、私は……そんな魔王のところへ嫁入りするのでしょうか……?
するのです。
だから私は今、ウェディングドレスを着ているわけで……。
そう、この着慣れない長すぎるベールのおかげで、馬車から降りようとして、地面に転がりそうになったのでした。
どうして、と思ってしまいます。
よりにもよって、なぜ、適当な気持ちで書き換えた「魔王の嫁入り」の断罪コースなのでしょうか……?
それに覚醒がこのタイミングでなければ。
乙女ゲームの公式側、つまりは運営側にいたから私には分かるのですが。
断罪回避なんて無理なのです。なぜってゲーム会社は全力でバグを潰そうとしています。断罪回避のために不用意な行動をとれば、それは見えざるゲームの抑止力により阻止されてしまうわけです。
つまり。
断罪回避など所詮無理な話(涙)。
それならば。
宰相の息子から断罪され、ねこじゃらしを永年禁止という断罪になるよう、画策したのに!
だってどう考えても、ねこじゃらし以外のじゃれるものは、この世界にあると思うのです。というか光がキラキラしているだけでも、自分の尻尾でさえ、じゃれたい気分になれるのですから。
ねこじゃらしは確かに魅惑的で魅力的ですが、それ以外に目を向ければ、我慢できるはず……(多分)!
だからねこじゃらしを永年禁止という断罪だったら、どんなに良かったか……!
逃げたいです。
でもここはもう魔王城の城門のすぐそば。
馬車を降りたのも、キャット(猫)族の……我がキャトレット伯爵家の馬車ではなく、魔王が用意した馬車へ乗り換えるためなのです。
後戻りはできません。
私は……世界で最も残忍・残虐・残酷で無慈悲な魔王と、結婚するしかないのです(ガタブル)。
お読みいただき、ありがとうございます!
本作はモフモフな癒しを欲して生み出した作品です。
回を重ねるごとに、モフモフと溺愛度がじわじわ増していきます。
時にクスリと笑いながら、この作品が読者様の癒しになれれば幸いです。
最終回まで毎日更新です!
ほんわか、でも時々事件勃発の本作、最後までお楽しみくださいませ。
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