「決闘! ~ぬいぐるみの仁義なき闘い?~」
❅「冬の童話祭2023」参加作品です。
「くまさんに決闘を申し込む!」
夜。
静かな筈のまいちゃんの部屋に、そんな声が響いた。
まいちゃんは大のぬいぐるみ好き。
ぬいぐるみの数はそれはそれはたくさん。
そんな中、おもちゃの剣を持って異様な空気を発しているのはねこさんのぬいぐるみでした。
「くまさんに決闘を申し込むにゃ!」
もう一度ねこさんのぬいぐるみは声を大にして言い放ちました。
ざわわ!
ぬいぐるみたちがざわめきます。
しかし。
そろおっと手を挙げてペンギンさんのぬいぐるみが言いました。
「あのお~、くまさんのぬいぐるみは5匹居るよ? 一体誰に決闘を申し込んだの?」
もっともな質問に、ぬいぐるみたちが全員頷きました。
ねこさんのぬいぐるみから、「ぐにゃあっ」と唸り声がします。
本当にもっともだからです。
そして決闘を申し込まれたかもしれないくまさんのぬいぐるみたちは、自分か? と互いにおろおろしていました。
「僕かな?」
「わたし?」
「ねこさんの恨みなんかかったかな?」
「覚えないよ~」
「…………」
あら、1匹黙っているくまさんが居ますね。
どうやら、このくまさんのぬいぐるみが何か覚えがあるようです。
「そうにゃ、黙っている青色の蝶ネクタイのくまさん!」
ねこさんのぬいぐるみが指をビシリ! と指します。
びくり、とそのくまさんのぬいぐるみが飛びはねました。
「その蝶ネクタイは元々にゃあの物。まいちゃんが『こっちのくまさんの方が似合うや』って付け替えてしまったんだにゃあ!」
他のぬいぐるみたちが「なるほど」と納得しました。
そりゃあねこさんのぬいぐるみにとっては不満な事ですね。
だから決闘なんですね。
「にゃあが決闘で勝ったら返してもらうにゃあ!」
「……負けたらどうするんだい?」
相手のくまさんの発言にねこさんは考えます。
「そのままでいいにゃ!」
ずるっ、と他のぬいぐるみたちがずっこけています。
「わざわざ決闘する意味あるかな」
「いいんじゃない。楽しいし」
「そうかもね」
他のぬいぐるみたちもお気楽状態ですね。
「……わかった。やるよ、決闘」
渋々とくまさんのぬいぐるみがおもちゃの剣を持って言いました。
「そうこなくちゃにゃ」
にやりとねこさんのぬいぐるみが笑います。
果たしてこのぬいぐるみ同士の決闘はどうなるんでしょうか。
ねこさんとくまさんが背中合わせになって目を閉じます。
1歩、2歩、3歩。
離れた2匹がいざ向かい合って……。
おもちゃの剣を構えました。
「行くにゃあ!」
「お、おりゃあ!」
先に動いたのはくまさんのぬいぐるみでした。
めちゃくちゃにおもちゃの剣を振り回してねこさんのぬいぐるみに向かって走ります。
応戦する為に、ねこさんが大きくおもちゃの剣を振りかざしました。
ピシーン!
光の線が走りました。
2匹の動きが止まりました。
パタン。
倒れたのは、ねこさんのぬいぐるみでした。
「ありゃ」
誰かが呟きます。
「ぼく、勝っちゃったの?」
くまさんが困っておろおろしています。
ねこさんのぬいぐるみが寝転びながら、
「あんたの勝ちにゃあ……」
と言うと。
「にゃあは負けたにゃあ」
と目から涙を流しました。
よっぽど悔しいみたいです。
ねこさんのぬいぐるみはまいちゃんが大好きですから。
相当青色の蝶ネクタイが気に入っていたんですね。
じっと、くまさんのぬいぐるみが自分の蝶ネクタイを見つめます。
ブチッと音がしました。
「返すよ」
くまさんのぬいぐるみが蝶ネクタイをねこさんのぬいぐるみに向かって差し出しました。
「にゃあ?」
起き上がったねこさんが不思議そうに首を傾けます。
「元々は、ねこさんのぬいぐるみのだから」
「でもそれじゃあまいちゃんが」
「きっとわかってくれるさ」
「くまさんさん! ありがとうにゃあ!」
2匹は互いに抱き合いました。
他のぬいぐるみたちも涙を流して「良かった!」と言っています。
次の日。
まいちゃんは学校から帰って来ていつも通りぬいぐるみたちの頭を撫でておしゃべりします。
「あれ?」
くまさんさんのぬいぐるみの1匹に付け替えた筈の青色の蝶ネクタイが、元々のねこさんのぬいぐるみの首もとに付いています。
「変ねー。おっかしいな~」
と言うと。
ぷちり。
と、くまさんさん首もとにまた戻しました。
夜。
「にゃあー! くまさん再び決闘を申し込むにゃあー!」
ねこさんのぬいぐるみの叫びが響いたとさ。
《おわり♪》
お読みくださり、本当にありがとうございます!