寄り道
寄り道して、散々悩むことがよくある。
帰り道に知らないところへ立ち寄って、道に迷うということではない。
人生の、寄り道だ。
自分は多趣味なほうだと思う。
一番最初に本が好きになり、時計、酒、乗り物、歌…。
ただ単に好きであればいいのだけれど、一度夢中になると余計なところまで手を出そうとする。
これが一番厄介で、悪い癖だ。
腕時計や乗り物に夢中になった時には、いつか専門店で働いてみたいと考えてみたり、酒にはまった時には専門の資格を勉強し、マスターすることも考えた。
それ自体が悪いことだとは思わない。
むしろ夢があって、選択肢になって、原動力にさえなると思う。
だがそんな夢見がちな生活に、終止符を打つ出来事があった。
多くの人は、音楽が好きだと思う。
歌を聴くのが好き、楽器を演奏するのが好き、
あんなジャンル、こんなジャンルがいい等々。
なかでも自分は、歌うのが好きだった。
(今でも好きだが)
好みのアーティストの歌を聴いていた時、
ふと思った。
自分がこの人の歌を聴いているのは、「好き」
以外にも、憧れの感情があるからではないか?
事実、自分で造り上げたものを他の誰かに評価してもらう、ということに憧れている自分がいた。
この匿名社会で、やろうと思えばいくらでも出来るであろう多様な手段から目を反らし、憧れだけを抱いて、今まで生きてきた。
そこからだった。
「歌ってみようか」と思い至ったのは。
有名な動画サイトのものではないが、伴奏に合わせて声や演奏を録音し、自由に投稿できるアプリに、勇気をもって、声を吹き込んでみる。
聴いて、がっかりした。
自分の声の、あまりにも酷いこと。
専用のマイクも使わず、録音機能だけを使ったにしても、これはないだろ。
何度か挑戦したが、やっぱり駄目だった。
自分の事だから、これを機にボイストレーニングを始め、歌うことに力を注いでもいいかもしれない、そんなポジティブなことを考える時間もあった。
将来の自分のためではなく、今の自分を慰めるために。
自分の声に撃沈してから数日間、やっぱり諦めきれなくて、またやってみようかと考えもした。
部屋で一人、恐る恐る声を出して、響かせる。
昔から、歌が上手いと褒められていたじゃないか。音楽の先生にも、発声がいいと言われてきたじゃないか。
でもこの時、初めて歌おうと思った時とは明らかに違う感覚があった。
「自分は、これじゃないんだ」
確かに、歌う事が好き。
歌を聴くことも好き。
音楽が、好き。
一方で、吹っ切れていた。
「好き」と「できる」は違うんだ。
それから、今までの自分が一気に蘇ってきた。
趣味だといって楽しめばいいのに、変に頑張ろうとするところ。
そのくせ疲れて、やっぱり辞めちゃうところ。
そんなの言い訳だ。諦めてるだけだ。
そう言われれば、そうかもしれない。
だけどそれが諦めなのか、スタートのきっかけなのかを決めるのは自分自身の直感。
この経験があったから、今こうして、文章を綴っている。
趣味の一つとして、エッセイを書いている。
自分はこっちのほうが「できる」から。
少なくとも、そのつもりだから。
さ、また頑張ろう。