“自分で強い女だから”と言う女性ほど、弱い人はいないよ。
僕の彼女は、物凄く強い女性だと僕は想っていた。
でも? 本当は、違ったんだよな。
彼女は、僕にいつもこう言っていたからだ。
『貴方に何が起きても、絶対に私は泣かないから!』
僕は、そんな彼女を“本当に強い女性なんだと
思い込んでいた”
君は、人前で泣かないし! 心の強いひとなんだとね。
・・・でもさ、
本当は、違うんだよな。
君とは、10年以上一緒にひとつ屋根の下で暮らしている。
僕は、若い時に一度! 結婚していた事があって。
元嫁が浮気をして、たった1年で離婚をしてしまう。
お互い、幸運だったのか? 僕たちの間に、子供はいなかった。
養育費を払う事無く! お互い話し合って【円満離婚】できた。
今でも一年に1度、元嫁と会うことがある。
それは、今の彼女が凄くフレンドリーな彼女で正月に元嫁を家に
呼んで、三人で祝おうと僕と元嫁の仲を取りもってくれたんだ。
今では、彼女と元嫁も仲が良いし、昔の事は許している。
そんな彼女を僕は悲しませる事をしてしまった。
僕は、何十万人に1人の稀な病気になってしまう。
急に、体の自由を奪われ立って歩く事も出来なくなる病気。
体に力がだんだんと入らなくなり、歩く事も儘ならなくなり。
気がつけば、寝たきりに状態で食べ物も喉を通らなくなるんだ。
初めの異変は? 彼女と二人で久しぶりにデートをしていると?
何もない所で、転んでしまった。
その時は、そこまで気にもしていなかったが、、、。
次の日の朝、体に力が入らない。
立ち上がる事も出来ずに、時間ばかりが過ぎて行く。
言葉も出ず、体も動かない状態が続いた時。
彼女が、僕を起しに来る。
『ねえ~時間だよ! 仕事、遅刻しちゃうよ!』
『・・・・・・』
次の瞬間、金縛りのように動かなかった僕の体が動いた。
『ごめん、直ぐに起きるよ。』
『うん! 朝ごはん、出来てるからね! 早く、顔洗ってきて!』
『あぁ!』
・・・彼女には、その事を話さなかった。
それから、僕は頻繁に何処に居ても転ぶようになった。
足が、つるというか? 足が絡んでいるというか?
前に足が出ていないみたいなんだ。
だから何故、転ぶのかはよく分かったが。
何故? そうなるのかは僕にも分からなかった。
流石に、僕の体に異常があると思い彼女に黙ってこっそりと
一人で、病院んで診てもらう事にした。
その日、半日は病院で検査をして結果を待つことになる。
その間も、僕の体はどんどんおかしくなっていった。
呂律が回らなくなり、何を言っているのか分からない。
1メートル歩くので、体力を使う。
食べ物が、喉を通らなくなっていく。
手に持っていたモノのを、直ぐに落とす。
体の自由が利かなくなる。
・・・1週間後。
検査の結果を聞きに、僕は病院に向かった。
そこで! 聞かされた事に僕はショックを隠せなかった。
『・・・稲羅さん、大変申しにくい事なんですが、』
『・・・あぁ、はい。』
『検査の結果! “稲羅さんの病気は? 稀な病気で、10万に一人の
病気なんで治療法がないんです。”』
『えぇ!?』
『病気の進行を遅らす薬はあります! でも治す方法は今の医学では
ありません。』
『先生! そう言わず、どうか僕の病気を治してください!』
『・・・スミマセン、治療法がないんですよ、稲羅さん。』
『じゃあ、僕の病気はこの先、どうなるんですか?』
『1ヶ月もしないうちに、歩けなくなるでしょう。車椅子生活になり
寝たきりになります。食べ物は、喉にチューブを取り付けて直接液状
の物を送り込みます。それで栄養分は体内に行くと思います。
それから、今までのように会社には行けません。体の自由が利かなく
なり、病院での生活に切り替わるからです。そうなるまでに、たった
3ヶ月ほどだと思います。勿論! それは、何もしないでほってお
けばの話です。病気の進行を遅らせる薬を飲めば、直ぐにそこまで
病気が進行しないかと思います。医師である私からお話する事は以上です。』
『・・・・・・』
『稲羅さんは、ご結婚は?』
『・・・い、いえ、でもずっと一緒に住んでいる彼女がいます。』
『では、彼女さんに稲羅さんからお話した方がいいでしょうね。』
『・・・は、はい、』
*
・・・僕は、家に帰り彼女に僕の病気の事をすべて話した。
医師から聞いた事も全て。
彼女は、毅然とした態度で僕の話を黙って訊いていた。
僕は、不安でいっぱいだったが彼女は僕の話を聞き終わった後
一言だけ、僕にこう言った。
『大丈夫よ! 何があっても私が居るわ! 一人じゃないからね!』
僕は、思わず彼女のその言葉で泣いてしまった。
張り詰めた僕の心の糸が、プツンと切れてしまう。
僕は涙が次から次へと頬を伝っていった。
彼女は、未だ毅然としている。
*
僕の病気の進行を遅らす薬を飲んでもほとんど僕には効き目がなかった。
あっという間に、僕は寝たきりになった体になってしまう。
たった3ヶ月で、こんな体になるなんて!
彼女は、何も変わらず僕の世話をしてくれた。
・・・でもね?
たまに、僕は彼女が一人で泣いている姿をこっそりと見ていた。
彼女は、その場に崩れ落ちるように泣き崩れる姿。
本当は、強い女性なんかじゃないんだよな。
彼女は、弱い女性なんだ。
僕は初めて彼女のあんな姿を見て、そう想った。
僕が彼女を苦しめ悲しませている現実を受け入れられなかった。
僕は、何度も何度も彼女を突き放した。
それでも、彼女は僕から離れていく事はなかった。
・・・そして、僕は彼女に看取られながら亡くなった。
幸せだったよ。
君が、僕の傍にずっと居てくれたから。
ただ、たった一つ後悔している事があるんだ!
ちゃんと、君と結婚しておけば良かったと、ね。
最後までお読みいただきありがとうございます。