ある男の始まりの物語。
初めて小説書きました。よろしくお願いします。
「一体何が起きているんだ?」
小さく呟く
気づくと僕は雲の上に一人浮かんでいた。
厳密に言えば"浮かぶ"というより、目に見えない何かの上に直立していたと言った方が正しい。そんな状態だった。
体感5分ばかりが過ぎてようやく脳を巡らす。
こうなってしまう前の最後の記憶を思い出した。
(…そうか、あの人が轢かれそうになったのを助けて……あの人大丈夫かな?)
"あの人"というのは、僕のクラスメイトの事だ。一度
も話した事が無く、名前も知らないので"あの人"なのである。
(最後の記憶があれって事は、つまり僕はすでに死んでいて、ここはあの世的な何かって事なのか?名前も知らないクラスメイトを助けて死ぬとか我ながらかっこよすぎる。出来過ぎなくらいだ)
乾いた笑みを浮かべる。
「いやいや、大層な死に様であった。葬儀の際友人、知人、家族皆肩を震わせながら泣いていましたよ。
御多分に漏れずこの私も。」
様々な年代の人の声を継ぎ合わせたような奇怪な声が聞こえた。
驚いてその声の方へ向く。
そこにいたのは、一言で言えば化け物だった。
身長は170cm程度でシルエットは人型。丸い顔には人の目が三つついており、非常に長い舌が口から爪先まで伸びている。頭は坊主で耳たぶも肩につくくらい長い。手の指は8本あり、足の太さは直径40センチほどある。
この化け物を分かりやすく形容できる物が思い当たらない。
それほど異質な存在であった。
「最初は皆この姿で驚かれます。一応私は人間の皆様で言う所の神のような者でして、この姿はあらゆる人の信仰の念によって形作られているのです。」
「そうなんですか……えっとその…なんていうか僕のイメージしていたものとは全くと言っていいほど違うというか…何というか…」
恐る恐る呟いてみる。
するとすぐに返答があった。
「それだけ人が増え、信仰の形というものが増えたという事なのでしょう。とても良い傾向です。さて、無駄話が長くなってきましたね。本題に入るとしましょう。」
神の声のトーンがほんの少しだけ下がる。
「まず何故貴方が今こういった状況に置かれているのかを説明したいと思います。
我々天界の組織の主な仕事は二つ。
人々の魂の持つ性質をデータ化し、思想を観測、コントロールする事。
そしてもう一つは、他の世界の神からの救援要請に応える事。
この二つになります。」
こちらが理解しているかどうかなど無視して淡々と話し続ける神は、引き続き無遠慮に情報を叩きつけてくる。
「そして今回貴方には他の世界への救済へ赴いてもらいます。あなたの魔法適性は最高のsssランクなので、すぐ救援要請が届きましたよ。…まぁすぐ救援要請をおくってくるということはものすごくやばい事になっている世界って事なのでしょうけどね。」
「ちょっと!最後のは聞き捨てならないですよ!」
「まぁそうお気になさらず。こちらからも先方からも最大限の支援は約束されています。そこからどう伸ばしていくかは貴方次第ですが。」
わけがわからん。"もうどうにでもなれ"と投げやりな気持ちになっていた。
「要するに、こことは別の世界の危機を救ってくれって事ですよ。」
神が僕の気持ちを察したのか、少し砕けた口調で端的に述べてきた。
「アドバイスするとしたら、そうですねぇ……取り敢えず現地へ着いたらステータスオープンと頭の中で念じてみて下さい。それできっと理解すると思います。
……あっ、もう時間ですね。もうすぐ転移が始まります。」
唐突な宣告に焦る。
「ちょっ!待ってください!まだ聞きたいことが山程ーー」
「それでは貴方様の御活躍 期待しております。」
その言葉を最後に僕の意識は飛び、いつの間にか見知らぬ森の中で仰向けになった状態で目を覚ました。
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(最近巷で流行っていた異世界転移がまさか僕の身に起きるとは……一体どうなることやら。)
こうなったら仕方ないと無理矢理己を奮起させる。
僕、我妻淳一郎は現世では、唯々冴えない日々を過ごしていた。
家族構成は両親と妹との四人暮らし。
何もかも完璧にこなし、且つ絶世の美少女であった妹とは常に比べられ日常生活において常に肩身の狭い思いをしていた。
妹も小さい頃は常に僕の後ろをついてくるくらいにお兄ちゃん子だったのだが、成長するにつれて段々冷たくなって行き、今ではほぼ会話もない。
学校ではクラスメイトからほぼいないものとして扱わていて、陰では「暗い」「きもい」「オタク」などと言われ学校でもまた肩身の狭い思いをしていた。
そしてそんな僕が死後に手に入れる事の出来たチャンス。
また新たに一から人生をやり直す事ができるこのチャンス。
これを逃すでは無い。何が何でもものにしてやる。
(……とまぁ意気込んでみたものの実際どうなるか分からないからなぁ…やっと窮屈な生活から解放されるんだし、のんびり暮らしてみるのもありかな。神の話からするとのんびりもしてられない気がビンビンするんだけど…)
辺りには木々が生い茂り、葉の隙間から僅かに木漏れ日が差す。
何も分からないので神のアドバイス通りにしてみることにした。
少し気恥ずかしかったが、森の中で一人「ステータスオープン」と呟く。すると目の前にゲームでよく見るステータスウィンドウのようなものが展開された。
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我妻淳一郎
Lv.1
攻撃力:120
防御力:233
速さ:119
魔力:8703+1000
魔素量:76692+1000
魔法適性:全属性
スキル
神々の加護Lv1
魔導の真理Lv.1
特殊スキル
言語補正
永久硬化
鑑定
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(おお!これよく見るやつだ!鑑定っていうとあらゆる物の解説を自動的行ってくれるって感じだよな。)
ステータスウィンドウを開いた時の要領で「鑑定」と声に出してみる。するとまずスキルの説明が表示された。
(えっと、どれどれ……)
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神々の加護
身に降りかかる全ての攻撃の威力を40%減少させる。
スキルレベルに応じパーセンテージは上昇する。
魔導の真理
魔法使用時の魔素使用量を半減。
魔力と魔素量のステータスを+1000。レベルに応じ+される数値が上昇する。
言語補正
全ての言語の翻訳。
永久硬化
身体に衝撃が加わる毎に防御力が上昇する。
鑑定
あらゆるものの情報を可視化する事ができる。
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半信半疑であった神々からの最大限の支援というものが本当であった事に安心する。
ただ、今のままでは世界の救済には心許ないだろう。
冒険への期待からか、思わず笑みが溢れる。
(まず防御力を上げるのが先決かな?いくら異世界でも死んだらおしまいだろうし。)
僕の異世界での生活が今始まろうとしていた。
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とある神が一人呟く。
「あー。またこれ駄目なパターンだねー。まぁ体裁守って必死に救援要請してる振りはしたんだし、後の事は心底どうでもいいか。」
かつて自分の身に宿っていた情熱を懐かしむように目を細め、ゆっくりと消えるように天界へと帰って行った。
この男は覚えなくていいです。