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この作品には 〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異世界ドロップアウト村 ~元・主人公たちの辺境スローライフ~

作者: 九條葉月



 異世界ドロップアウト村。


 ~元・主人公たちの辺境スローライフ~







 プロローグ



 空の果てには敵がいて。

 私には、そこまで届く翼があった。


 ゆえにこそ。この結末は必然だったのだろう。



 敵に致命傷を与えた後、爆発に巻き込まれて死亡。



 それが私の戦闘結果になるはずだった。

 ……それを書き残すべき人間は、もう、地球上のどこにも存在しなかった。











 1.今日も平和なスローライフ。





「――空の果てには敵がいて。私には、そこまで届く翼があった」


 まだ真新しい酒場の隅で、私は両手に人形を持ちながら渋い声を出した。

 まぁ、ひとり人形劇みたいなものだ。今のは導入部のナレーションね。じゃじゃーん、と脳内でBGMを鳴らしながら右手の人形を動かす。


「なぜ人類を滅ぼそうとするんだ!?」


 続いて左手の人形を動かす。


「人類は世界に対して贖罪せねばならんのだよ!」


 もう一度右手の人形を動かす。


「認めない! 私は――」



「――ね~、フィナ姉ちゃん。その話飽きた~」



 これからいい場面だというのに、観劇していた子供のうちの一人がそんな声を上げた。ぐふっ、精神的に大ダメージ。無垢な子供って時に残酷だよねー。


「こ、これからいいところなのよー?」


 ぶつかり合う主張と主張とか。お互いの正しさを認めながらも戦わなければならない悲劇とか。命を捨てての突撃とか。敵の拳から悲しみが伝わってくるとか。


 いや地球のアニメを参考にちょーっとだけ脚色したけれど、だからこそ超面白いストーリーになった自負がある。


 と、私は説得しようとしたけれど、子供の一人から『毎日同じ話じゃ飽きるー』とのご返答。ごもっともで。


 私の人生における最大の山場を『飽きた』扱いされたのは少し――いやかなり悲しいけれど、私だって“元国王”の過去の栄光(むかしばなし)には飽き飽きしているものね。ここは大人しく別の物語にするべきだろう。


 う~む、桃太郎? この世界に鬼はいないしなぁ。似ているオーガを悪役に……ダメか。この村にはオーガの子供がいるものね。


 金太郎? この世界にはクマより強い魔物がたくさんいる。クマに相撲で勝つ程度ではインパクトが弱い。


 浦島太郎? 亀を助けたのにお爺さんにされるとか子供の教育に悪い。恩を仇で返してはいけません。


 しまった。地球の昔話って意外と子供の教育に向いていない。

 どうしたものかと私が悩んでいると――


「――ほら、みんな。もう夜も遅いんだし寝なきゃダメだよ」


 酒場に入ってきた銀髪美少女が穏やかな声で注意した。『はーい!』と素直に言うことを聞く子供たち。人徳の差もここまで来ると笑えてくる。……だからマスター、ハンカチを差し出さなくても大丈夫よ? 泣いてない、泣いてないから。


 手に持っていた人形を消し(・・・・・)、酒場のマスターに奢られたお酒を飲みながら。帰宅する子供たちに手を振っている銀髪美少女を見つめる。いや睨み付ける。

 そんな私からの熱視線に気づいたのか銀髪美少女はちょっと困ったような笑顔を浮かべた。


「フィナ。なんでボクは睨まれているのかな?」


 ボクッ子かよ、あざといな。


「なにやら今さら過ぎる誹謗中傷をされた気がする……」


 苦笑する銀髪美少女は虫も殺せなさそうな雰囲気だけど、これでも世界最強の『元勇者』だったりする。


 彼女の名前はユーナ・シャイリーン。

 名前を縮めると“勇者(ユーシャ)”になる……と、口にすると怒られる。

 元々はどっかの国の公爵家令嬢だったらしい。


 この世界最初の『勇者』と同じ名前と髪色を持つ彼女は、世界を救うため岩に突き刺さった聖剣を抜き、10歳の頃から7年ほど勇者として活動したのだという。


 (ドラゴン)殺し、単騎での四天王討伐、神様との一騎打ち等々。英雄譚には事欠かない美少女だ。私なんて子供たちに話した『空の果てには――』でネタ切れだというのに。


 そんな血みどろでマッスルな逸話がごろごろしているというのに、やはりユーナはか弱げな美少女にしか見えない。

 首の後ろで一つに纏められた銀髪はものすっごくサラサラだし、青い瞳は研磨された宝石のよう。肌は白くきめ細やかで、ちょっと前まで平気で冒険し野宿していたなどとは信じられない。それに、剣なんて振れないんじゃないかってほど指もほっそりしている。


 美少女だ。

 誰もが認める美少女だ。


「けっ、美少女が。私より子供たちから人気があってよかったですねー」


 私はグラスを傾けて、ごくごくとお酒を飲み干した。ひっく。


「やさぐれているなぁ。それに私からしてみればフィナの方が美少女だからね?」


 近づいてきたユーナが私の側に跪き、手を伸ばして、グラスを掴んだままだった私の両手を優しく包み込んだ。じっと私の目を見つめてくる。

 きっと今のユーナの瞳には『金髪金目、天使のような美少女』が映っているのだろう。


 まぁ、私の場合は全身を構成する“ナノマシン”で見た目をある程度自由に変えられるから、たとえ外見を褒められてもさほど嬉しくはない。

 ないのだけど。承知しているはずなのだけど。それでもユーナは私の見た目を褒めてきた。


「日の光を束ねたように輝く黄金色の髪。金色の宝石(スファレライト)よりもなお美しい瞳。夜に降り積もった初雪のような白い肌。女神すら嫉妬させた美貌。そして、たわわ(・・・)な胸はとても柔らかそう――」


「――油断するとすぐこれだ!」


 セクハラ厳禁。

 私はユーナの手を振り払うために両腕を挙げて、一旦停止。力を溜め、グラスを持ったままの両手を彼女の脳天に振り下ろした。

 まったく、この元勇者は女性関係も暴れん坊なのだ。


 あ、マスター大丈夫よ。グラスは割れないよう気をつけたから。


「ぐ、グラスじゃなくて、ボクの心配をして欲しいかな。ほんとに頭が割れるかと思ったよ……」


 脳天を押さえつけながらユーナが唸った。女たらしは死すべき。慈悲はない。


「女たらしとは失礼な。ボクがこんなことを言うのはフィナだけだよ?」


 はい出ました。『ボクが○○なのはキミだけだ』とかいう野郎(やろー)は要注意。思いっきり股間を蹴ってやりましょう。


「ボクは野郎じゃなくて女だし、股間を蹴るのはやりすぎだと思うな」


 勇者としての超回復で復活したユーナが立ち上がり、私の隣に座った。ニコニコと楽しそうに私の顔を見つめている。


「……何か付いてる?」


「美しい瞳と、可愛い鼻。そして瑞々しい唇が。特に唇が素晴らしいね。どんな感触か確かめていいかな? ボクの唇で」


「もう一回殴った方がいいかしら?」


「ははは、さすがのボクも首が身体にめり込みそうだから遠慮しようかな。ツッコミはいいけどもう少し手加減して欲しい……。それはともかくとして、子供からの人気を集めたいのなら、簡単な手があるじゃないか」


「?」


 私が首をかしげるとユーナは手を横に広げてパタパタと動かしはじめた。


「翼。翼を出して何か“ありがたい”ことを言うのさ。フィナは黙ってさえいれば天使のような、文句の付けようがない美少女なのだからね。幻想的な光景に、子供たちの見る目も変わるはずさ」


「……『黙ってさえいれば』は余計よ」


 ユーナにデコピンをしてから私は軽くため息をついた。子供たちにはもう『翼』を見せたことがあるはずなので効果のほどは不明だが、試してみるくらいはいいだろう。


 場所を取るから店主であるマスターに確認。親指を立ててくれたので遠慮なく広げることにする。


「――機甲装着(ズィーラング)


 ばっさぁ、と。私の背中から羽根が生えた。汚れなき純白。舞い散る羽毛。金髪であることも相まって、見た目はまさしく『天使の翼』だ。


 ついでに言えば私の胸部や手足などの重要部には白銀色の鎧が展開している。基本的にはファンタジーに出てくるような女騎士の鎧であり、脚部は推進器が組み込まれているのでちょっとゴツい。それでも難なく歩くことはできるけど。


 47式飛行戦闘脚。


 ……あれ? 47式戦闘飛行脚だったかな? まぁとりあえずそんな感じの名前の、“(エネミー)”を討ち滅ぼすために(今はなき)人類の叡智を結集させて開発された兵器だ。設計コンセプトは『着ることのできるジェット戦闘機』だったかな。


 翼を広げたときの長さはたぶん片側1.5m、合計3mほど。折りたためるとはいえ、普段は邪魔なのでナノサイズにまで分解して体内に収納してある。

 理論的にはF-3戦闘機より速く、高く、細やかに飛ぶことができる、はず。


 久しぶりに広げたのでバサバサと翼を羽ばたかせる私。キラキラと舞い散る羽根はナノマシンの結晶なので店を汚す心配もない。そんな様子をユーナは楽しそうに映像保存機で保存していた。


 ……いや、『楽しそう』という表現には語弊があるか。今のユーナは変質者としか言い表すことができないもの。よだれ垂らしているし。いつスカートの中を盗撮しても不思議じゃない。ほんとにもう、聖剣を所持する(元)勇者だという自覚を少しくらい持って欲しい。


 ちなみに映像保存機は前文明の遺物(アーティファクト)と呼ばれるもので、超貴重。たしかこの国にある類似品は国宝に指定されていて、新王就任などの重要儀式を記録する際にしか使われない一品であるはずだ。


 そんな貴重品をダンジョンの奥深くで拾ってきたユーナは、(たぶん彼女にとっては)存分に的確に有意義に活用しているようだった。


「いいねぇ! いいよフィナ! ちょっとこっちに視線お願いします! いいよー! キテるね! とても可愛いよ!」


 なにやら地球のカメラマンみたいなことをほざいていた。今の私、元勇者を殴っても許されると思う。

 握りしめた右腕にはまだ白銀の鎧――ガントレットが展開されている。もちろん鎧なのでとっても固い。世界最強の元勇者だって殴り殺せる気がする。


 私からの殺気に勘づいたのかユーナがそそくさと映像保存機を片付け、今さらながら真面目な表情を作った。


「こ、こほん。じゃあフィナ。子供が感心するような『いい言葉』を言ってみようか」


「…………」


 なんかもう(ヘンタイのせいで)こっちのやる気はゼロなのだけど、戦闘脚まで展開したのだから何もしないで収納するのも面白くない。子供たちからの好感度に関する一定の成果を得るか、元勇者のセクハラ大王を殴り飛ばすくらいしないと。


 ユーナが身を引いて『逃げ』の姿勢を取ったので殴るのは難しそう。仕方なく私は子供が感心するような言葉を口にした。目を閉じて、胸の前で手を組み、わずかに微笑みを浮かべながら。


「――信じる者はすくわれます。足元を」


「見た目天使な人がそんなこと言っちゃダメだよ!?」


「事実でしょう? 子供に夢を見させるのは大切だけど、妄想を信じさせてどうするの?」


「世知辛いなぁ! そんなんだから子供からの人気をボクにかっさらわれるんだよ!」


「あ、言ったな言ってくれたなー? それを言われたらもう戦争でしょう。白黒付けるしかないでしょう」


 私は決闘の申し込みとして白手袋を投げつけ――あ、まだガントレットしたままだった。ガントレットを外し、手袋代わりに投げつけた。オーバースロー投法で。


「ぐふぅ!?」


 肘まで覆うガントレット(重量たぶん数キログラム)を腹部で受け取ったユーナは床に両膝を突いて悶絶した。


 …………。


 ……ふっ、戦わずして勝つ。私はついに武の神髄へと到達したようね。


「うぅ、ひどい、この見た目だけ美少女ひどすぎる……」


 ユーナの苦悶の声は聞こえないふりをした。今日も平和なスローライフである。





仕事が忙しすぎてムシャクシャして書いた。反省はしていない。


好評なら連載します。

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