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#81 変化

 



「お待ちしておりました」



 先んじてルイカーナに到着した私はぴしりと敬礼を添えてエルクーロ様を出迎えた。


 エルクーロ様の率いてきた軍はフリクテラのものだろうか。見知った顔がいくらかある。私たちに物資を届けていた部隊もいた。前線の押上げとして兵力を此方へ回したようだ。



 ずらりと魔族が左右に並んだ中央を優雅に歩くエルクーロ様はまさしく四天王の貫禄を醸す。私はゾフとツォーネを背後に控えさせこれを待つ。クォートラには先んじて休息を与えていた。


 彼とはしばらく会っていなかった気がするが、昔と違い感じるのは威圧感や恐れだけではなかった。もちろんガチガチに緊張はしている。チックベルがどのような報告をしたかいまだ不明だし、彼は未だに私にとっては魔王様と同じ人外にして魔境の存在。且つ私の上に立つものだ。命令で言う事を聞く配下とはわけが違う。


 だがそれでも、確かな恩義と礼節を感じられる程度には思えていた。



「久しいな。息災なようだ」


「は、お陰様で」



 エルクーロ様は開口一番そういって歩き出す。私もルイカーナのメインストリートをエルクーロ様の一歩後ろをついて歩き始める。もちろん、相変わらず歩幅が足りず小走りめいた格好にはなったが。


 そしてエルクーロ様がそれを見かねて歩く速度を合わせてくれるまで前と変わらず。本当に申し訳がない。


 ひとまず勇者の遺体は一度駐留軍に預けるとしてエルクーロ様と話を付け、報告と今後の話し合いをすべく白城の前までやってきた。遅れまいと急ぎ足でエルクーロ様の後ろを付いて行っていたものだから、白城の前で立ち止まったエルクーロ様にあわやぶつかりそうになり、慌てて横っ飛びにちょんと飛んでこれを避けた。


 姿勢を直してエルクーロ様を見れば、白城を見上げてよくこれを落とせたものだと感心の様子。ちょっと嬉しい。


 ここで私はここまで連れ添ったゾフとツォーネを振り返る。



「ゾフ、ツォーネ。駐留と護衛ご苦労。ここまででいい。後続軍に引継ぎを行った後は少し休んでおけ」


「了解ですぜ。駐屯兵をまとめ上げて交代で休憩に入らせまさあ。後続は酒も届けてくれやしたかねえ」


「わたくしも魔剣士部隊の装備を新調したら少し休憩しますわ! さあさ髪のお手入れと爪のお手入れ……あ、あとでココット様のもやってさしあげますわ!」


「酒はあるはずだぞ、ゾフ。それからツォーネ、ちゃんとやり方を教えてくれ。やってやりたい奴がいるからな」


 私の言葉に二人は頷いて敬礼をしたのち各々部下を率いて下がっていった。言ってもいないのに本当によく動くようになった。そんな様子を眺めるエルクーロ様は一息ついて周囲を眺めた。


 忌々しき白い装飾の白城。巨大な建造物。ここをココットが落としたという事実に、目の前で魔族に指示を出す小さな悪魔を見やってなお余りある矛盾を感じていた。


 ゾフとツォーネは仰々しくココットに礼をして去っていったものだから、魔族の信頼と畏怖すら得て見せた少女の背中の小ささに、エルクーロは目を細めた。



「よくやるものだ」



 唐突にエルクーロ様がそう呟いた。


 私は頭に疑問符を浮かべながら振り向き、私を見るエルクーロ様と目が合う。



「えっと、はい。よく働いてくれています。疲れもありましょうから今は休ませますが、戦力も申し分なく、補給が為れば次なる行軍も……」


「君の事だ」



 エルクーロ様は眼鏡をかけなおし、そういった。



「小さな体だ。頑張ることをどうこう言うつもりはないし、君の働きは十分私にプラスとなっている。だが、無理はするな。人間の体は我々よりも脆い」



 褒められている、のだろう。


 だがやはりどうしても人間の体という言葉に肩がびくりと反応した。


 だがチックベルとのやり取りを思い出し、エルクーロ様の心根から優しさゆえに投げかけられた言葉であると必死に脳内変換し、胸の動悸を押さえつける。


 以前だったら褒められているとすら認識しなかった筈だ。人間が思い上がるな。弱い存在の癖に。そういう受け取り方をしたはず。



 だがそうやって突然俯き胸を抑える私の姿にエルクーロ様は少しだけ焦った様子を見せた。


 いかん。ここで重ねて心配などされては本当に無理をしているように映ってしまう。それで行軍が中断でもされればまったくもって笑い話にもならない。


 私はエルクーロ様に向かってにこりと、ひきつった笑顔を無理やり作って見せた。



「お気遣い痛み入ります。しかし私は大丈夫です。今後もご期待に沿えましょう」


「……君がそういうのならば何も言う事はない」



 エルクーロ様はそこで一度黙り、ふと思い出したようにまた口を開いた。



「そういえば、ココット。君は私の紅茶が飲みたかったそうだな」


「え”」



 エルクーロ様の言葉に私は引きつった笑みのまま変な声が出た。どういう事だ。



「チックベルから聞いた。嬉しく思っている」



 あのハーピー! 余計なことまで報告してからに。


 確かに言ったは言ったがあの時私は憔悴していたし、何より馬鹿正直に本人に伝えるな! ああ、クソッ! 恥ずかしいっ!


 顔が熱くなってきた私に対してエルクーロ様は露骨に上機嫌となっている。もう確定だ、これは。この先の展開に私は身震いした。


 確かにアレハンドロに飲まされた紅茶よりかはいくらか恋しいと思いはしたが、エルクーロ様とサシの茶会に対する緊張はいまだ健在なのだ。


 だがまて。いくらエルクーロ様の望みが読めたとはいえここは魔王城ではない。アレハンドロの茶室も徹底的に物色しきれいさっぱりだ。さすがにここで茶会などできるわけ……。


 そう、考えていたのだが。




「案ずるな。茶器一色は持参してきている。詳しい報告と今後の話は紅茶をたしなみながらするとしよう。その方が君も気が休まるだろう」


「え、あ、あはは……あは」



 休まるわけがないだろう!












 そうして選ばれた部屋はアレハンドロの私室だった。少し歩けば庭園の淵から街が一望できるし、最も攻められにくいとして指令所に指定した場。


 チックベルがどういう報告をしたにせよ、私はあるがままに報告をするしかない。怒られるとすれば捕まったことと住民の虐殺だろうが、街の占領と勇者殺しで十分おつりは来るだろうと踏んで自信満々に報告を行う事とした。



「……という次第であります。実質領主アレハンドロは討ち取り、同様に聖弓の勇者ヨーンもまた死にました。現在我が軍はバルタよりの出兵を牽制すべく警戒と監視塔の構築を急いでいる状況であります」



 ちょうど用意されていた黒板めいた板に、上り台めいておかれた木箱の上で必死につま先立ちをしながら図を交えて描き報告する私。一通りの報告を聞いてエルクーロ様は顎に指をあて目を閉じた。


 やはりそれなりに犠牲が出てしまった事も包み隠さず報告したからには怪訝な表情の一つも出ようか。


 緊張のままに私は木箱から飛び降りるとはれてエルクーロ様に向き直り、いかがいたしましたか? と問う。



「一先ず掛けたまえ」


「は! 失礼いたします!」



 促され、また高い椅子にによじよじと上りエルクーロ様の体面に坐する。差し出された紅茶のカップを両手で受け取り、口を付ける前にエルクーロ様を見る。


 エルクーロ様はその赤い瞳を私に落として言うのだった。



「本当に勇者まで殺し、囮行軍さえこなして見せるとは。君の覚悟を私は見誤っていた……いや、そもそもが想定外か」


「は、はぁ」



 これは褒められている、で合っているだろうか。



「捕虜は取らなかったそうだな」


「は。我が軍の性質を踏まえれば捕虜を取るのは我が首を絞めると道義です。もともと占領区より物資を調達し行軍する手はずでしたから、後続の駐留軍が到着するまでは我が配下の糧となってもらう他なかったと判断いたしましたが……」



 実際そういう話だった筈だ。捕虜を取る余裕などないし、狂乱した住民も金だけで動く正規兵でもない傭兵など、捕虜に取ったところで何にも使い道がないのだ。


 だったら殺して肉にしたほうが魔族たちの鬱憤も晴らせるし腹も膨れるというもの。怒られる前にそう説明しておく。これにはエルクーロ様も納得するだろうとして、よく考えていることを褒めてくださるだろうと考えむふふと心の中でほくそ笑む。


 が。



「……私が前話した言葉は覚えているな」


「え、あ……我々は蛮族ではない、という話でしょうか」



 一瞬驚きと背筋に走る悪寒に体をぴんと硬直させた後、恐る恐る目を細めてそう応えればエルクーロ様は深くため息をついて「そうだ」と返した。


 やっぱり怒られるのか。甘いのだエルクーロ様は。私はシンの村でそれを学んだ。温情をかけても寝首を掻きに来るのが人間だ。奴らこそ蛮族だ。その報告もしたはずだが。


 人間などにかける温情はない。まあ、尤も捕囚を奴隷商に卸すために必要としたというのならまだわからなくはないが、前述のとおりどちらにせよ末路が変わらないなら……いや。末路が変わらないからこそせめて商業転用すべきであったか。鬱憤晴らしで気が回らなかった。


 自分の欲望を優先させたことに悔いはないが評価点という意味ではよろしくなかったかもしれない。つつがなく連中が地獄に落ちるならば少しでも評価が上がる選択をすれば今後を見据えれば正解であったか。


 急に怒られるのが怖くなってきたぞ。いや、怒られるだけで済めばよいが。



「君の言う事は間違っていない。シンの村ではよく無事だったと安堵する。報告に聞いた捕虜では何も政治利用ができないし交換材料にもならない。生かす物資の余裕もなく、仮に魔王城へ連れ帰って奴隷商に卸すにしても、結局辿る結末は同じだっただろう」


「で、では……?」


「私が言っているのは……いや、いい」


「え、と……あの」



 何か要領を得ないエルクーロ様の様子が気が気ではないが、ひとまずお叱りを受けることはなさそうだ。


 何か含みを感じる言い方であったが、彼は今話すつもりはないらしい。少し早まった心臓の鼓動はこれ以上早くなることはなさそうで何よりだ。


 褒められると思って叱られるのが一番クるからな。自信を失うという物。


 ま、自信云々は置いておいて、明確にやめろと言われていない時点で私はルイカーナを火の海にするつもりだったからどちらにせよ避けられないことではあったが、幸いにして評価が下がるという事はなかったらしい。ほっとする。エルクーロ様相手は未だに肩ひじが張りっぱなしになるのだ。



「ひと先ずは、改めてご苦労であったと言わせてもらう。兵の損耗もルイカーナ陥落を考えれば許容内と言える。散っていった者たちの冥福を祈りつつ、よく落とせたものだと感心する」



 エルクーロ様は目を閉じ息を吐いてそう言った。やはり褒められている! 私はにんまりと心の中で笑顔を作った。


 っと、そういえばだ。緊張のせいで忘れる所だった。言っておかねばならないことがあった。



「エルクーロ様」


「何だ?」


「遅れてしまい本当に申し訳がありません。本来ならばお会いして開口一番にお伝えすべきだったのですが……」



 面と向かって言うとなるとなかなか恥ずかしいな。相手がエルクーロ様というのも大きい。ただ一言すっというだけの筈が、口ごもってしまう。


 ああ、くそっ。体が勝手にもじもじする。そわそわした胸のざわつきが体の節々を当てなく揺らす行為で発散せしめんとして勝手に動く。


 エルクーロ様が面食らった顔をしているじゃないか! 早く言わねば……。



「あ、あの……そのですね……」


「……やはり疲れているのか?」


「い、いえッ! 私は元気です!」


「あ、ああ……」



 上ずった返事にエルクーロ様が若干引いている。なんだこの、なんなのだ。これもこの体のせいなのか? などと素っ頓狂なことまで浮かび始めた。


 私は生唾を飲み、これ以上足を止めては今後の相談に響くとして意を決する。



「そ、その! ありがとうございました!」


「ありが、とう?」


「は、はっ! 援軍の事であります! チックベルよりの話でエルクーロ様が派遣してくださったと……そのお礼をと」



 妙に早口で言ってしまう。感謝の言葉一つ満足に言えなくなったのか私は!


 ああ、エルクーロ様がきょとんとした顔で無言になっているじゃあないか。私はもう顔から火が出そうになり、慌ててばっと両手で顔を覆いうつむいた。


 恥ずかしい。恥ずかしすぎる。普段通りの調子で何気なく言うはずがどうしてこうなった。



 エルクーロ様はずっと唇に指をあてて怪訝な顔で私を見ている。ああ、今すぐ逃げ出したい。



「ココット」


「ひゃい!」


「……彼女は……チックベルは私の事を何か言っていたか?」


「え?」



 今度は私がきょとんとした顔をエルクーロ様に向けることとなった。


 エルクーロ様は私にそう問うた後顔を背けばつの悪そうな顔をした。はて……?



「えっと、私の思い当たる節ではとくには何も聞かされておりませんが……」


「そうか。ならいい」


「あ、っと……ぶしつけな質問ではございますが、エルクーロ様とチックベルはどういったご関係で?」



 そう、ふと気になったことを口にして私は酷く後悔し口を手で軽く塞いだ。


 何だ今の質問は。まるで二人の関係が気になっているようではないか。いや実際気になってはいるのだが、これではそういう意味に聞こえるだろう!


 チックベルの様子からエルクーロ様と知り合いなのかな、と邪推するにとどめておくべきだった。ああもう! なんなのだ私は! ただの上司と部下の関係でいいはずだろう! こんな雑談めいた会話など……!



「……彼女とは古い馴染みだ。子供のころはよく3人で遊んでいた」


「はあ……3人、と言いますと?」


「……ポリニアだ。私たちは幼馴染だった」



 ポリニア様……今は亡き四天王の一角。それがエルクーロ様の旧知であったとは。



「……申し訳ございません。私の配慮不足でした」



 私はそう謝った。だがエルクーロ様は軽く笑って許してくれた。


 ポリニア様……会ったことはないし、よく知らない。だが、そうか。合点がいった。ポリニア様の仇である勇者を前にしたチックベルの様子。彼女も旧知であったからには勇者に並々ならぬうらみがあったのだろうな。


 そして、きっとエルクーロ様も……。ヨーンの亡骸を献上できたのは、多少は……恩返しになっただろうか。



「私とポリニアは昔からよく衝突していた。それを決まって諫めていたのがチックベルだ」


「そうだったのですか。普段の彼女からは想像できませんね……エルクーロ様をなだめる姿など」


「まあ、無理もない。彼女は昔からああだったよ。ポリニアとおもちゃの取り合いでけんかをした時も、あの調子で間に割って入って来てするりと治めてくれたものだ」


「そうですか。ふふ」


「どうして笑う?」


「あっ、いえ、すみません。ただ、エルクーロ様にもやんちゃな幼少期があったのだな、と安心したのです」


「君は私を何だと思っているんだ?」



 すみません、といいつつ私は口に手を当てて必死に笑いをこらえていた。微笑ましいものだ。エルクーロ様の語った言葉で、随分と緊張もほぐれたし、彼への見方もやはり変わった。彼も影から生まれた怪物という訳ではなく、私と同じ確かな生物なのだとして安心できたのだ。


 だが、それにしても。想像すると笑ってしまうのだ。あの飄々とした少女たるチックベルがこのエルクーロ様をいさめる姿を想像すると。


 それでエルクーロくんか。なるほど、合点がいった。しかし、はて。子ども扱いするなと怒るとはどういう……。



「しかしよくチックベルもエルクーロ様に提言できましたね」


「……言っておくが、彼女……チックベルは私より年上だぞ?」


「え」



 なんだと!?


 いや、チックベルは見た目より年を取っているとは聞いていたが、あの少女にしか見えない彼女がこのエルクーロ様より年上だと?


 それで子ども扱いか! 本当に魔族の年齢はわからない。以前エルクーロ様が言った、魔族の見た目と年齢は必ずしも合致しないという言葉が思い出される。そうか、私のように小さなもので年を重ねた者もいるとはこういうことか。エルクーロ様ももしかしたら大分お若いのだろうか?


 流石に聞くのは憚られるし、あまり若い印象は抱かない。いや、外見は大分若いが雰囲気として。



 と、呆けた顔でまじまじとエルクーロ様を眺めてしまっていれば、彼はゴホンと咳払いをした。


 はっとした私は急ぎ頭を下げた。いかんいかん。流石に失礼だ。




 私達はお互い何とも言えない沈黙の後、話を戻した。




「さて、戦況の話だ。君にも共有しておく」



 エルクーロ様は一転して神妙な面持ちで私に語る。



「ウラガクナの戦線が芳しくないことは以前にも話したが、ここにきて敵の大攻勢があった」


「何ですと?」



 それはおかしい話ではないか。ルイカーナは現に落ち、私の囮行軍は確かな震撼をファルトマーレに与えたはず。だというのにここにきて主戦に力を入れる? 何故?


 私は先ほどまでのわちゃわちゃした心持ちは吹き飛び、不安の顔色を見せる。



 エルクーロ様は紅茶を一口飲んでから言う。



「どうやらメーアの戦線の維持を放棄してウラガクナの戦場に兵力を集中させたようだ。聖鎧騎士団がウラガクナの戦場に現れた」


「戦力の集中ですか。なるほど、であれば囮行軍の成果はあったとも言えますが、連中一挙にウラガクナ様を下すつもりなのですか? メーア様も無視はできないでしょうに」


「それだけ連中も必死という事かもしれないな。現在ウラガクナの戦場では聖鎧騎士団と合流した勇者達が確認されている。聖剣と聖槍だ」



 聖剣の勇者フォルトナと聖槍の勇者アーバーン……。直接戦闘能力ではヨーンの比ではないだろうし……そこに名の轟く騎士団長アルアダン率いるファルトマーレ最強の騎士団……聖鎧騎士団が加わったとなれば……。



「……メーア様の軍による側面攻撃で包囲殲滅はできないのですか?」


「難しいな。小国連合の義勇兵は未だに継続して姿を見せている。数で劣っている以上は包囲も簡単ではない。それにメーアには現在の戦線の確保が為り次第ウラガクナに合流するよう文を出したのだが……連中反りが合わんもので間違っても共闘はしないだろう」



 魔族故か。


 元々魔王軍というものは脳みそが複数ある軍だ。魔王様は相変わらず軍務にあまり口出しはしない。四天王それぞれが別個に指揮を執っている以上は連携はならないのだろう。頭の固い事だ。



「とはいえ現在はメーアの軍が手柄欲しさに前線の押上げにかかっているため結果的にウラガクナを援護する形になるだろう。うまくいけば、だが」


「それまでウラガクナ様がもつか、という事でしょうな」



 もしウラガクナ様が討たれでもしたらレコに顔向けができなくなる。それは胸に気持ちの悪いものが残る結末だ。


 ではどうするか。ウラガクナ様の戦線に援軍に出るという話も考えられなくはない。しかしそれでは囮行軍の意味がなくなる。ここは無理にでも作戦を強行するしかないだろうが、メーア様が間に合う前にウラガクナ様が敗北すれば互いに懐に飛び込まれることになる。戦争においてどちらかが先にやるかの勝負などという博打は打てまい。


 が、我々は動くに動けまい。そんな気軽にホイホイ戦場を変えられるような位置ではない。僻地侵攻軍たる我々が取れる行動は進むことのみ。もっとも、バルタに敵軍の戦力集中が確認された時点で囮の意義はなったとして撤収も視野にはあったが、ウラガクナ様の軍が押されていればそうもいかなくなったわけだ。



 私はもう一つしか道はないとしてエルクーロ様をじっと見つめた。


 赤い瞳に映るエルクーロ様は、同じく赤い瞳を私に向けて一言、命じたのだ。



「ココット、バルタを落とせと魔王様からの命令だ」




 っ!


 やはりこうなるか。命じられたのはバルタ陥落。しかしその意味する所を読み取れば我々囮行軍は今より名を変え、実質的な首都強襲軍と為ったのだ。


 私は口角を吊り上げる。


 なんたる重畳! 今こそ戦争の主役は私となった。我が復讐の道は正しかったのだ!


 だがまたしても魔王様よりの命令とは……。エルクーロ様ではないのか。彼は私にそう命じた後苦々しげな顔をしていた。


 まあ、いい。魔王様に気にいられれば昇進も夢ではない。そうと決まればゾフらにも伝えねば。バルタにも斥候を出そう。善は急げ、時間は限られている。


 ああ、やることがいっぱいだ! 先んじた警戒砦の構築は功を奏するな。あれを足掛かりとして橋頭保を伸ばせば……敵戦力の分析と周辺地形の洗い直し……また足を延ばす必要もある。クォートラにすぐ連絡を入れたいくらいだ。



 そう笑いながら頭であれやこれやと進軍について思案する私に、エルクーロ様はもう一つ命じたのだった。



「ついてはだが……ココット、一度魔王城へ私と供に帰還せよ」





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― 新着の感想 ―
[気になる点] ご苦労様 という言葉は上の立場の者が下の立場の者を労う言葉なので、ココットがエルクーロに対して言う台詞としては不適当かと。
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