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17:追手の正体

 城を出て歩き始めて、早くも数時間。

 隣国でもあるフォルセブクまでの道のりは、徒歩でおよそ四日程度。

 元の世界にいた頃だったら正直、江戸時代じゃないんだから、とか言ってタクシーとか電車で、ってなる様な距離だ。

 

 しかしながらこっちにそんなものはなく……はないんだけど、馬車とか雇うと金が当然かかる。

 それもかなり割高で、三日分くらいの食費は消えてなくなる計算だ。

 もちろんこっちは人数いるし、それだけ馬車も必要になるということもあり、現実的ではないという結論に至ったので徒歩で目指すこととなった。

 

 文句を言ったのは主に雅樂で、その他のメンバーは徒歩での遠出など慣れたものらしく、気楽なものだった。

 途中で村か街でもあれば、なんて甘いことを考えてはいたものの、あるのは獣道と山道、そして山林。

 草の背丈がそこまで高くないのが唯一幸いと言えるポイントかもしれない。

 

 どうにかして日が暮れるまでには何処か人のいるところへ、と考えてはいたが、ミルズたちによればこの付近にはそんな日和ったものはない、と一刀両断された。

 そうなると俺たちは野営をしなければならない、ということになるのだ。

 

「簡易的なテントなら三組分くらいあるけど、そうなると誰がリンと寝るか、って話になるんだけど」

「は? 私に決まってるでしょ。幼馴染でもある私が一緒に寝なくてどうするの?」

「いや、でもテント自体は私たちのだから。借りる側の人は遠慮しなよ」

「お、俺別にその辺に転がってるんでもいいから、お前らでテント使えよ……」


 夕方頃になって、何とか川を発見できた俺たちは、野営の準備をする。

 野営とは言うものの、俺や雅樂に関してはその辺素人同然なので、ノリ的にキャンプみたいな感じになってしまうのだが、これはこれで楽しいかもしれない。

 夜になってもそこまで気温が下がらないので、風呂代わりの水浴びもそこまで苦にはならないはずだ。


 その辺をノコノコ歩いていた獣を仕留めて丸焼きにしたりと、ミルズたちは手慣れた様子で食料をこさえていく。

 トイレの代わりに使えそうなところを見繕って、ヨトゥンが穴を掘ったりと手際がいい。

 割とでかい、イノシシの様な獣を丸ごと焼いたはいいが、全員で食べても食べきれず、俺たちは疲れと満腹感からまったりとした空気を楽しんでいた。


「……何処かから見られてる」

「はい?」


 そんな中、一人剣呑な雰囲気を漂わせながら雅樂が辺りを見回し始めた。

 何だ、中二病でも発症したのか? なんて考えるが雅樂は元々そういうやつじゃない。

 そして一人旅で培われてきたであろう経験からも、こいつの発言は信用に値すると俺は判断した。


「距離は?」

「暗いからわかんない。けど、相当な手練れだと思う」

「マジか」

「でも、一人っぽいよ?」


 みんなに緊張が走る。

 相手が一人だとは言っても、手練れである以上は油断が出来ない。

 この暗闇に乗じて襲ってくるとなれば、圧倒的にこちらは不利なのだから。


 何故なら俺たちはキャンプの火で明るさに慣れてしまっている。

 一方で向こうは暗闇で目を慣らしているのだから、向こうの方が思い通り動ける計算になる。

 俺たちが何処かに潜んで雅樂がやたらめったら鎌を振るいまくるのもありではあるが、手元でも狂わされたらたまったものじゃない。


 こうなったら……。


「へっ……そこにいるやつ、出て来いよ。俺たちと遊ぼうぜ」

「は?」

「ば、バカなのあんた!!」

 

 一度、言ってみたかったんだよ。

 だって、殺気とかは感じないし……正直敵意とかもない様に見えるから。

 もしかしたら知り合いかもしれないじゃん。


 そしてもちろんみんなが言いたいこともわかる。

 敵だった場合、俺たちは格好の的だ。

 怒られるのも無理はないだろう。


 しかし……。


「さすがですね、オールハントさん」

「えっ!? 何であなたが……」


 アルカが驚いて声をあげる。

 俺は驚いたが、声云々よりももう何か理解が追い付かなくて固まってしまっていた。


「ティルフィさん……?」


 そう、そこにいたのはティルフィさんだった。

 何でこの人がここにいるんだ?


「私たち、何か忘れ物でもしていきました?」


 ヨトゥンも不思議そうに尋ねるがそんな様子ではない。

 戦闘なんかも道中で何度かしてきたが……正直気配とか全く感じなかった。

 まぁ、俺が気配読むとかそんなこと、出来るのかって言われたら微妙なところなんだけど。


「えっと……そのですね」

「はぁ」


 そして本人が何とも要領を得ない。

 暗いからよく見えないが、何だかもじもじしている様に見える。

 更に、ティルフィさんのいる辺りから、グゥー、と大きな音が聞こえてきて、直後にティルフィさんが後ろを向いたのが見えた。


「えっと、もしかしてお腹空いてたりします?」

「…………」

「まだ肉余ってたよな。食べさせてやらないか?」


 もし飲まず食わずでここまで追ってきたんだとしたら、空腹の具合だって相当なものだろうし、何だか可哀想になった俺はティルフィさんに残っていた肉をあげることにした。


「少し硬くなってるかもしれませんけど、良かったらこっちきて食べませんか?」


 恐る恐ると言った感じでこちらに歩いてきて、ティルフィさんは俺の取り分けた肉を受け取った。

 美味しい……とか言いながら一瞬で渡した分を腹に収めて、ティルフィさんは俯く。


「あー……食べられるだけ食べちゃっていいですよ? いいだろ、みんな」

「まぁ、私たちはもうお腹いっぱいだからね」


 とまぁ特に反対意見も出なかったので、残りは好きにしていいと伝えると、今度は自分で肉を切り分けてもりもり肉を食べて行く。

 野菜も食べないと、なんて思うが生憎野草は食べられるかどうかの判別がつかない、とのことだったので諦めた。


「……ご馳走さまでした」

「い、いい食べっぷりっすね」

「……あんなに残ってたのに、すごいわね……」


 およそ半分程度残っていた肉を綺麗に平らげたティルフィさんが、丁寧に頭を下げる。

 女子勢が驚いた顔でティルフィさんを見ていたが、そもそも何で俺たちを追ってきたのか、まだ聞いていない。

 というか聞いてもいいんだろうか。


「で……何で俺たちを追ってきたんですか?」

「……笑わないで聞いてもらえますか?」

「笑う? 何で?」


 女子メンバーも不思議そうな顔で尋ねるが、俯いて何やらぶつぶつと呟くばかりで答えは返ってこない。


「リン、あんた聞き出しておきなさいよ。とりあえず私たち水浴びしてくるから」

「ん? って何で俺?」

「凛って本当、朴念仁だよね。昔から変わらないったら……」

「おい待て、どういう意味だそりゃ……」


 俺の質問には答えず、女子勢はみんな川へ水浴びに行ってしまった。

 くそ、ちょっとだけ混ざりたいなんて考えてしまうが、今はティルフィさんのことに集中しなければ。


「実は、その……リンさんの……」

「俺の?」


 漸く口を開いたティルフィさん。

 女子がいたら言いにくいことだったんだろうか。


「お傍に、いたいと……」

「……は?」


 何でまた?

 俺についてきて何か得することでもあるのか?

 一応の旅の支度はしてきたみたいだけど、こんな野性味あふれる生活をしなければならない様なパーティだぞ?


 それとも俺たちが逃亡しない様に王様から見張り役でも仰せつかってきたんだろうか。

 まぁ出会ってそう日が経っているわけじゃないから、信用問題とかあるかもしれないけど。


「私が、王様に我儘を申しまして……」

「我儘?」

「リンさんたちについて行きたい、と」

「…………」


 え、これってじゃあティルフィさんの個人的な考えの末の行動だったってこと?

 何で?


「その……そう、稽古! 稽古です! や、やっぱりまだリンさんは発展途上ですし、旅が失敗に終わっては申し訳ないですから……その、私が師匠としてついて行かないと、って!」

「はぁ、稽古、ですか」


 なら何でこっそりついてきたんだ、という疑問が残るが、本人がそうだと言っているんだから疑っても仕方ないだろう。

 

「で、王様はそれを認めてくれたんですか」

「ええ、そこまで熱望するならって……あっ」

「…………」


 熱望?

 何でそこまで俺に執着する必要があるんだ?

 あの国の初の勇者だからか?


「語るに落ちてるわね。なのに何でわからないのかしら、この不能野郎は」

「アルカ、お前なんつーカッコで……」


 水浴びを終えたらしいアルカが下着のみ、で俺たちの焚火のところへと戻ってきた。

 過ごしやすい気候だとは言っても、他のメンバーみたいに胸に脂肪ないんだし、風邪とか引くんじゃね?


「別にいいじゃない、他に見られて困る様な相手はいないんだから。それより、ティルフィさんのことよ」

「はぁ」

「昨日何かあったんでしょ、あんた」

「え?」

「…………」


 昨日……稽古して風呂入ってたら洗ってくれて……おっきしました。

 しかしこの過程についてはみんなには話していない。

 言ったが最後、俺の暴れん棒は切り落とされたりするんじゃないだろうか、という危機感。

 

 何よりティルフィさんに怒りの矛先が向くのは何となく避けるべきかなと考えた俺は、適当なことを言って昨日の騒動についての原因は何とかごまかしたのだ。


「な、何かって?」

「そうねぇ……昨日一時的に治った原因は、ずばりティルフィさん。そうでしょ」

「…………」


 何この子、怖い。

 大体合ってる、っていうか大正解! って感じ。

 というかまんまそれ。


「あ、理由聞けたの? で、ティルフィさん。どうやって凛の不能を治したの?」

「え?」


 う、嘘だろ……何でこいつらまで……。

 そしてティルフィさんは治したという自覚がまずないらしく、答えに窮している。

 よし、こうなったら……俺も水浴びに行こうかな、なんて。


「何処行くの? まだ話は終わってないよ」

「……いやぁ、今日いっぱい動いたから、俺も水浴びしよっかなって」

「まぁまぁ、慌てなくても別にそんなに臭ったりしないから。さ、座って」


 ミルズに促されるも、座ったら今日は俺、寝かせてもらえないかもしれない、という思いが駆け巡る。


「……座りなさい、って言ってるの」


 そんなことを考えていたら、ミルズと雅樂のダブルで睨まれて俺は黙って座ることになった。

 ……長い夜にならないことを祈る。

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