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14:王城へ行こう!

 別室に沈黙が流れる。

 立場上ハルアさんは口を挟んではこないが、この人的には受けてほしいんだろうな。

 いや、この人が婦女子で、俺にヘタレ受けをしてほしいとかそういう意味ではなく、依頼を受けて勇者になってよ! 的な感じで。


「どうするのよ。ウタかリンが決めなさいよ。このパーティの要なんだから」

「おい待て、こんな時だけ俺に委ねようとすんな。いつも俺のこと足手まといくらいにしか思ってないだろ、お前」


 本当、調子いいやつだなこの貧乳。

 可愛いだけで男がなびくなんて思ってるんだったら、まずはその幻想を……ぶち殺されるのは俺な気しかしない。

 主人公気質と言ったが、俺のどこを見てそう思ったのか。

 

「納得できないかね? 俺から見て、君はとてもいい目をしている。不能だと言ったが、そんなものを感じさせないくらいにギラギラした目をしているぞ」

「お、俺がですか?」


 ギラギラって……草食系代表みたいなこの俺の目が肉食ばりにギラギラしてると、そう言いたいのだろうか。

 クエストを探している時の目を見てそう言ったのであれば、あれは生活がかかっているからであって……別に女がほしいいいいいい! とかそういうものでは断じてない。


「君は、まだ腕は未熟かもしれないがそれでも仲間を全員守って戦いたい、そう思っているんだろう?」

「…………」


 何だか気味が悪いな。

 そういう考えを持っていること自体は否定しない。

 それも先日のゴブリン討伐が尾を引いていると言えるかもしれないが、仲間があんな目に遭ったら……そう考えるとはらわたが煮えくり返りそうな思いが、今でも蘇ってくるのは確かだ。


 だけど、それ以外で別に世界を救いたいとか、そんなことを考えて冒険をしているわけではない。

 こんな責任感も何もかもが中途半端な俺に、勇者なんて務まるのだろうか。

 それに関しては正直不安しかなかった。


「その範囲を、別に世界に広げてくれとは言わない。ただ、先ほど紹介所で見た中では君が一番適任だと思った。こう見えても俺は、人を見る目だけはあるんだぞ?」


 この従者の人たちを王様が自ら選んで任命したということなら、この人の目は確かなのかもしれない。

 全員が雅樂と同レベルに強いんじゃないか、っていうのがまだまだ素人の俺にもわかる。

 そして強いからこそ余裕があって、アルカみたいなやつが多少のオイタをしても、平然としていられるのだ。


「王、私からもいいでしょうか?」

「構わんよ」


 俺は良くない。

 この人綺麗だけど、何か怖いんだよな。

 底の知れない不気味さ……雅樂とは違った方向での怖さを持ってる気がする。


「リンさん。あなたが抱える問題は、生きていく上で将来的に重大な問題であることを、私も認識しています。もし今回の件を了承していただけるということであれば、私どもとしてもその症状を治癒……もしくは緩和出来る様尽力させていただきたいと考えております」

「じ、尽力……?」


 それって、あんなことやこんなことを……なんて、思春期特有の妄想が捗りそうになったところで雅樂から脇の辺りをつねられて現実に引き戻された。


「ちょっと凛、鼻の下伸びてる」

「えっ」

「概ねリンさんのお考えの通りで間違いないかと思いますよ? 何でしたらその辺はこの場で前払いだって十分(・・)可能ですし」


 思わずごくり、と唾を飲み込んでしまい、その音が聞こえてしまったのかメンバー全員から睨みつけられた。

 だって、王の側近だぞ? 

 そんな女性が尽力、しかも俺の下半身事情に先払いまで!


 そんな心躍る展開が、俺の人生にあっていいのか!?

 そんな風に考えちゃっても仕方ないだろ?

 俺じゃなかったら、同年代の童貞なら絶対先走ってるぜ。


「何だかムカつく反応ね、リン」

「そりゃまぁ……お前には持ってないものを沢山持ってそうだからな、ティルフィさんは」

「ああ!?」


 聖職者にあるまじき禍々しい表情でアルカが俺を威嚇してくる。

 雅樂とミルズは、はぁ、とかため息をついてヨトゥンはティルフィさんたちを値踏みしている様だった。

 そしてヴァナに関しては十分な尽力について頭の中で色々想像したのか、顔を赤くしている。


 こういう初々しいのも、悪くないけどいかんせん君はまだ若すぎるんだ、ヴァナ。


「まぁ落ち着きなよ、アルカ。私たちじゃどうにもならなかった部分を、何とかしてくれるって言ってるんだ。あとはリンの意志一つじゃないのか?」

「ミルズはそれでいいと思ってるんだ?」

「ウタ、気持ちはよくわかる。だけど、たとえば君とリンが結ばれる運命にあったとして……それでも彼のモノが役に立たないということなら、心だけ結ばれた、みたいなメルヘンな展開になるわけだけど。それでいいのかな?」

「…………」


 憮然とした表情ではあるものの、ミルズの言うことには一理あると思ったのか、雅樂は黙り込んだ。

 俺としても、正直こいつらに何とかしてもらえるならその方が後々のこと考えても気楽だし、第三者の手を借りて、なんてことはしたくないと考えている。

 しかしながら……こんなにも素敵な女性が色々手を尽くしてくれるというのであれば、俺だって男だ。


 その色々を試さなくては、その女性に恥をかかせることになってしまう。

 そんなことになったら、もしかしたらこの王様からエロいお仕置きとかされちゃうかもしれないじゃないか。

 いや、それはそれでちょっと見てみたい気がしないでもないけど、俺のせいでそうなった、というのであれば話は変わってくる。


 仮にも相手は女性だ。

 いくら俺たちより強いとは言っても、その事実が変わるわけではない。

 そんな女性が、王様に辱めを受ける様な(決めつけ)ことがあれば、俺も男として黙っているわけにはいかないじゃないか。


「私だって年頃だし、そういうメルヘンなのも悪くないかな、って思わないことはないけど……でも一緒にいたら絶対そういうの、したくなるよね」

「…………」


 これまた随分とぶっちゃけてくれたものだ。

 しかし俺の心は動いても下半身は……くっ……!


「なら話は決まり、ということでいいのか?」

「いや、待ってください。俺、勇者とか言われても……」

「いいじゃないか、結果として世界が救われればいいんだから。生活の糧でもある冒険のおまけで世界救っちゃったぜやった! とかそんな程度の軽いノリでいいんだよ」


 そんなノリでいいのかよ。

 俺みたいなちゃらんぽらんな人間は、そういうこと言われると絶対最終目的である魔王討伐とか忘れちゃうんじゃないかと思うんだけど。

 そしてそんな風に呑気に過ごしている間に他の勇者が魔王を討伐して、勇者の名は剥奪されると。


「いいわ、凛。引き受けましょ。あんたはこれからバッキバキのギンギンになって、そして魔王を討伐するの。わかった?」

「おい待て、何か色々混ざってないか? 仮にそんな状態になったとして、そのまま魔王と戦うのかよ。大体、先にドラゴンを……」

「うっさい! いいからとっとと治してもらいなさいよ!!」


 おお、怖い……。

 普段の静かにキレるのも怖いが、感情をむき出しにされると昔を思い出す。

 そしてこんな風にキレる雅樂を見たことがないメンバーは、皆一様に呆気に取られていた。


「彼女もどうやら異界人の様だな。となると、向こうでの知り合いか?」

「えっと……幼馴染です」

「そうか……彼女はどうやらずっと君のことを思っていた様だな。そして君も憎からず思っている」


 大人ってすごいな。

 なぁんでもわかっちゃうんだな。

 まだ四十前後にしか見えない人なのに、全部見透かされた様な気がして何となく腹立たしい。


 しかし、みんなが俺に期待している部分。

 これは俺一人じゃ当然どうにもならなくて、そしてこの人たちは何とか出来るかもしれないという。

 もちろん絶対ではないかもしれないが、それでも希望には違いない。


「そう言ったこともあって、彼女は憤っている……違うか?」

「大体合ってますね。昨夜、彼女たちは色々と手を尽くしてくれた様で……とは言っても俺は眠ってしまっていたから、何をしてたのかは知らないんですけど」


 まぁ、正くは恐怖で意識を失っていた、っていうものなんだけどな。

 カッコ悪いから眠ってた、ってことにしてしまえばいい。

 多分バレてると思うけど。


「なら君の再起は彼女の悲願とも言えるわけだ。どうかな、悪い様にはしない。そしてこちらの指示通りにやってくれるのであれば、君たちの旅に関してもある程度の自由は保障しよう」


 何とも魅力的な提案だと思う。

 ここまでしてくれようなんて人はそうそういないだろう。

 元の世界であってもここまで温かい人にはそうそう出会えない。


 もちろん何か計算の様なものがないとは言い切れないが、その計算が俺たちのマイナスになる様なことはないんじゃないかって、根拠のない自信がある。

 この人たちは、世界のことももちろん気にかけながら、俺たちのことも気にかけてくれている。


「凛を預けるのは、今夜だけでいいのよね? もし明日になっても戻ってこなかったら……王国崩壊させてでも取り返しに行くよ?」


 せっかくいい感じに話を纏めようとしていたのに、何でこいつは……。

 しかし雅樂の殺気を受けても王様は笑顔を絶やさない。

 この人もなかなかの手練れだということかもしれない。


「心配しなくても、君たちも城に案内しよう。部屋を用意するから、今日はそこに泊まってはどうだ?」


 王様の言葉に、一同がざわつく。

 普通に旅をしていたら、確かに城に寝泊まりなんて出来る機会はそうないだろう。

 そして女子はああ言った、豪華とかロマンチックとか、そういうものが大好きな種族であることを俺はある程度知っている。


「ならいいじゃないか。疑ったらキリがないし、絶対何とかするとか言ったわけでもないんだから。ダメで元々くらいの気持ちでいかないか?」


 勇者がどうとか、正直なところ別にどうでもいい。

 もちろん世界が滅ぶなんてことがあったら困るけど……別に俺たちだけがやらないといけないわけじゃない。

 なら、俺たちは俺たちに出来ることをやって行こうじゃないか。


 そう考えて今夜はお招きに応じることにした。

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