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俺が彼女に告る理由  作者: 本間 甲介
その理由の裏側
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僕が彼女に告る理由

「――面白かったな」

 午後十時を回った時、夏彦は受験勉強の合間に読んでいた小説をようやく読了した。

「……ふう」

 読後しばらく、夏彦はお腹いっぱいになったかのような、幸福感に包まれる。それは読んでいた本の内容だけではなく、様々なことが終わったことに対する達成感からでもあった。

「……あっという間、だったなぁ」

 ブックカバーを外し、夏彦はカバンにしまう。そして窓を開けて夜空を見た。

 星座は分からないが、星がよく見えるということは明日は晴れだろう。

「最後にはぴったりだな」

 そのまま窓を閉めず、夏彦は冷たい風を受けながら目を閉じる。



 夏彦の脳裏に高校三年間、特に一将との思い出が鮮明に蘇る。つらいこともきついことも嫌なこともいらいらする日もあった。でもそれと同じ、それ以上に楽しいことがいっぱいあった。

 二年の頃の文化祭、修学旅行、バレンタイン……。特に楽しかった時のことを思い出していると、ポケットに入れていたスマホがぶるっと震えた。

 取り出して画面を見る。一将からの電話だった。

「もしもし?」

『おう、ナツ! 起きてるか!?』

 耳がキーンとなる。一将は甲高い声を出していた。

「どうしたの?」

 耳を少し離し、夏彦は訊いた。

『特に理由はない!』

「えぇ……」

『つーのは冗談で……今、時間あるか?』

 席替えに喜ぶ小学生のようなテンションから、一将は急に声のトーンを落とした。

「うん、いいよ」

 一将は窓を閉め、ベッドに腰かける。

「それで、なに?」

『あー、えっとだなぁ……』

 さっきまでの元気はどこにいったのか、急に一将は歯切れが悪くなった。

『その、俺ら明日で終わりじゃん?』

「そうだね。卒業だね」

『ああ。で、もう高校生じゃなくなる……ガキじゃなくなるわけだよな』

「うん……あ」

 遠回し言う一将だったが、夏彦はなにを言いたいのか察した。

「一将、最初はやっぱりさ」

 鬼畜なことを訊いてくれるものだ。しかし同時に嬉しさを覚えた夏彦は、自ら体験がないにも関わらず、さも経験者かのような口ぶりで、こう答えた。

「ホテルがいいと思うよ」『ちげぇよっ!』

 鼓膜が破れんばかりの声で、一将は速攻で否定した。

「えっ、違うの?」

 通話をスピーカーに切り替える。夏彦はベッドの真ん中に置いたスマホに話しかける。

『ったりめぇだろ! なんでそんなことを人に訊かなきゃならねぇんだよ!』

 声から怒りと動揺が分かる。顔は真っ赤になっていることだろう。

「ごめん、神妙な声を出すからてっきり」


『ったく、それに俺たちはもう――』


 言葉の途中で、一将は言葉を閉ざす。嫌な空気が電波越しに形成されていく。

「――それで本当は?」

 ショックがないわけではない。それでも夏彦は何事もなかったかのように一将に再び訊いた。

『夏彦』

 目の前に一将がいるように見えた。その一将は夏彦に向かって両手をついて、頭を下げていた。 


「ありがとう」


 たった一言、そう言った。

「別に礼を言われるようなことはしていないよ」

 主語こそなかったが、その意味は分かっていた。

「してくれたよ。アレがなきゃ、俺は本当に最低最悪なクソ野郎に変わるところだった。どうしても礼だけは言いたかったんだ」

「……そっか。でも、それは僕じゃなくて、彼女……朝桐さんに言うべきだよ」

 自分はただ確認しただけだ。一将の心を動かしたのは間違いなく朝桐透子だった。

「その必要はない」

「必要ないって……」

「今日会って、感謝も謝罪も含めて……今までのこと全部言ってきた」 

「……そ、そうなんだ」

「ああ。できればおまえにも直接会いたかったんだが、電話になっちまって悪いな」

「それは構わないよ。……朝桐さん、なんて?」

「『残酷ですね……でも、そういうところも好きでした』って言われたよ」

「……良い人だよね」

「ああ。本当にいい娘だよ……」

「一将」

「分かってるよ。俺が好きなのは、優希だ」

 気持ちのいい告白だった。夏彦は無意識に笑顔になっていた。

『――とまあ、そういうわけだ』

 目の前から一将の姿が消えた。一将は咳払いをした。

『明日以降も会うだろうけど……またな』

「うん、またね」 

 そう言って、夏彦は通話を切った。

「変なところで律儀だよな」  

 スマホで長々と手記(言い訳)を書いていた二年前に比べてだいぶ成長したようだ。夏彦はすっきりした気分になった。

 


  二人が付き合うキッカケとなったあの日以来、一将・優希・夏彦、そして透子……四人の関係は大きく変わった。

 といっても、それは昼ドラのようなドロドロとしたものではない。たとえるなら、日曜朝の女児向けアニメのようなさわやかなものだった。

 一将と夏彦、優希と透子は以前と変わらない「親友同士」であったし、一将と優希に嫌な感情を持つこともなかった。

 大きく変わったのは、当然のことだが一将と優希の関係だ。一将は放課後、予定が合えば必ず優希と一緒に帰り、休みの日はデートをしたり、互いの部屋に遊びに行ったりと……どこにでもいる「恋人同士」だった。

 そんな仲睦まじい姿を見て、夏彦は心底良かったと思っていた。そして次第に、優希への特別な想いは小さくなり、二年の夏休み。四人で海に遊びに行った時、二人がキスをしているのを目撃して、完全に吹っ切れた。

 おそらくそれは、透子もだろう。透子は一将と話しても、どもることはなくなり、むしろ二人の仲を縮めようと色々とデートスポット(食事処)を案内していた。

 三年に上がった頃には、同じ学年で二人の関係を知らない者はいなくまでなっていた。

「……結婚、するだろうなあ」

 ぼそりと夏彦はつぶやいた。あの二人が別れる姿がまったく想像できなかったからだ。

「……いいなぁ」

 未練からそんなことを言ったわけではなく、ただ純粋に夏彦は二人の関係が羨ましかった。

「寝るかな」

 いつの間にか、時刻は十二時を回っていた。夏彦はベッドに潜り込み、布団をかぶる。

 消灯とふとんで、擬似的な闇を作り出す。目を開けているか閉じているか分からない状態の中、夏彦は闇の中に光を見た。

 その光は、もう一ヶ月近くは見ているもので、次第に濃くなってきている。

「……そういうこと、なんだろうな」

 受験で忙しかったからのもあるが、決して気づいていないわけではなかった。

 言い方は悪いが、一将は「勘違い」から恋に落ちかけた。そして、自覚し真の恋に目覚めた。その結果、夏彦の恋は終わりを告げた。

「言おう」

 そしてそのさらなる結果、夏彦は新たな恋に落ちた。




 告る理由は、たった二文字で十分だった。

 

これにて終わりです

ノリと勢いで上げたので多少の矛盾はあるかもしれないので、後日修正していきます

次回作はもっと面白いものを書きたいと思います

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