射的で素敵と言われたい
ここに来るまで色々あったが、ようやくこの状況にたどり着くことができた。俺は邪魔一つ入らず、朝桐さんと花火が始まるまでの一時間、出店を回りまくった。
普通の店で買えば半額以下でも買える。屋台の食べ物はやはり高いものばかりだった。
「……うまっ」
だが、祭りの雰囲気がそうさせるのか、食べ物は異様にうまく感じられた。例えばこれを家に持って帰って食べたとしても、同じ風にはならない。まさに「祭りマジック」だ。
「……美味しいですね」
さーらーに、隣に朝桐さんがいる! これだけで屋台の値段は逆に安く感じられた。
朝桐さんが「食べる」ことは知っていたので、俺は事前に朝桐さんに「パーッとやろう」と、安心させた。
その言葉にストッパーが外れたのか、朝桐さんは屋台でお約束の、焼きそば・イカ焼き・たこ焼き・わたがし・かき氷といったメジャーどころはほとんど食べた。俺も先ほどの疲れがあったこともあり、朝桐さんが食べるものを同じく食べていった。
「うぷっ……」
にも関わらず、俺の方が先に限界が来た。
「皆見くん、次は何を食べますか?」
朝桐さんは目を輝かせる。
「しゃ、射的やらない?」
表情は崩さず、俺は射的の屋台を指さす。
「あっ……そ、それもそうですよね!」
食べまくっていたこと(俺は全然構わないが)に気づいたのか、朝桐さんは慌てて俺の案に乗った。
ここからが腕の見せ所。俺は手をポキポキ鳴らし、射的の屋台へと向かう。
「おじちゃん、弾十発お願い」
「悪いな坊主。一度につき六発までしか買えないんだ」
「……それでお願いします」
カッコつけて言った手前、訂正はかなり恥ずかしい。朝桐さんがくすっと笑うのが聞こえた。
「完全に下に落ちたものだけだからな」
おっちゃんは事前にそう言った。なるほど、他の客のを見るとたしかに倒れただけじゃ景品交換になっていない。俺はコルク弾を銃に装填し、どれにするか狙いを決める。
一番上の最新ゲーム機・タブレット・音楽プレイヤー……は論外。あんなのは客引き用。よほどの奇跡が起きない限り、落ちることはないだろう。
ここは手堅く、一番下の段の小さめの景品が無難だろう。俺は手のひらサイズの、くまのぬいぐるみに狙いを定めた。
「バンッ!」
鉄砲音の口真似をし、俺は引き金に手を当てる。発射されたコルク弾はぬいぐるみの額を撃ち抜いた。
手応えあり! 俺はゲットを確信した。
「あ、おしい!」
だがぬいぐるみはグラグラと揺れるだけで、台から落ちなかった。俺は気持ちを切り替え、第二発を放つ。
「…………くっ!」
だが二発三発、四発五発と放っても、ぬいぐるみは落ちなかった。
「あと一発だよ」
にやにやしながらおっちゃんは俺を見る。……なるほど、そういうことか。
一度に六発。おっちゃんはそう言った。あれは一回につき六発撃てるという意味でもあれば、「六発しか撃てない」という意味でもあった。現におっちゃんは他の客が打ち終わるとともに、その景品の位置を元の位置に戻していた。
たしかに、同じ景品を当て続ければ、獲得される可能性は高い。悪知恵の働く子供なら、友達同士で結託して、人海戦術を駆使して同じ景品に連続して当てていくことだろう。だから射的のルールが記された看板にも、「六発撃つごとに景品は元に位置に戻す」・「一人ずつ撃つこと」とでかでかと書いてあった。
つまり、俺が撃てるのはあと一発。失敗すればリスタート(ただしお金は除く)になる。
「…………」
緊張感が増す。俺は震える手でぬいぐるみに狙いを定める。
「ほら、早くして早く」
後ろに客が待っている兼ね合いもあり、おっちゃんは俺を急かす。その手はぬいぐるみを元の位置に戻す気満々だった。
「……くっ」
これはもう無理。俺はあきらめるように、引き金に手をかけた。
「頑張ってください」
朝桐さんの励ましの言葉。
「いけるよ!」
それに続いて後ろからの応援の言葉。いい意味で、ふっと気が抜けた。震えはなくなる。俺は落ち着いた気持ちで、引き金を引いた。




