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俺が彼女に告る理由  作者: 本間 甲介
プロローグ
2/39

その理由は手のひらに

「ふう……」


 一将が席を離れている間、夏彦も呼吸を整え、ドリンクバーのコーラを半分ほど飲み干した。


「……びっくりしたな」


まさかあんな反応をするとは思わなかった。


「……静かに聞こう」


 兎にも角にも話はそれからだ。夏彦は自分にも言い聞かせるように、そう言った。


「おまたせ」


 戻ってきた一将の両手には、二つ分の水の入ったグラスがあった。


「ありがとう」


「いや、両方俺の。注ぎに行くのメンドーだから持ってきた」


「ええ……」


 そう言って、一将は右に持っていたグラスの水を一気に飲み干し、残った左のグラスをテーブルに置いた。


「そんじゃ、始めるか」


 顔つきが変わる。さっきとは別の意味で真剣さが伝わってきた。


「うん。じゃあさっそくだけど」


「これを見てもらえるか?」


「え?」


 夏彦の言葉に続くように、一将はスマホを見せた。


「……なに、これ」


 その画面に映っていたのは、付属のメモアプリにぎっしりと文字が書かれていた。


 夏彦はその一番上の行に目を向ける。そこにはこう書かれていた。




『俺が彼女に告る理由(わけ)~その1~』




「……ま、そういうことだ」


「ごめん、ちょっと意味が分からない……」


 夏彦は正直に答える。頭の中がごちゃごちゃし始めた。


「だーかーら! ここに俺の気持ちがぜーんぶ書かれているってわけ! 言わせんな恥ずかしい!」


 一将の頬が紅潮するのがはっきりと分かった。夏彦は冷静に、下の文章を斜め読みする。


「……手記ってこと?」


「固っ苦しい言い方だと、それで正解だ。一週間くらい前から、ずっと書いてきたんだ」


 一将の徹夜の原因が分かった。夏彦は文面は追わずに、画面だけをスクロールしていく。かなり書かれているらしく、終わりの部分はまでたどり着くのには時間がかかりそうだった。


「あ、ちなみに理由は『その5』まであるから!」


 一将は追い打ちをかけるように、事前に説明した。


「……全部読まないとだめ?」


「できれば全部読んでほしい」


 一将は膝に手を置き、頭を下げる。テーブル越しにも関わらず、一将の思いがひしひしと伝わってきた。 


「ふう……分かったよ。でも、時間はかかると思うよ」


「構わねえ。徹夜でもいいぜ」


「僕がいやだよ……」


 どちらにしても、今日中に読まないことには先へ進めそうにない。夏彦は自分のスマホを取り出した。


「何してんだ?」


「ま、ちょっとね……」


 夏彦は自分と一将のスマホを交互に見ながら、五分ほど「ちょっとした作業」を行い、一将にスマホを返した。


「え、もう読んだの!?」


「まさか。悪いけど、すべてのテキストデータを、僕のスマホに送らせてもらったよ」


 夏彦は自分のスマホ画面を一将に見せる。コピーされた文章は縦書きになっていた。


「え、なにこれ? えくせる?」


「それを言うならワード……ってどっちも違うよ。こういう長い文章を読むのに適したアプリがあるんだよ」


「へえ、便利な世の中になったもんだなあ。ま、なんでもいいけど、読み終わったら、データは全部消してくれよ」


「え、なんで?」


「恥ずかしいからに決まってんだろ。一応推敲はしたけど、ケツの穴を見せるような感覚だからな」


「オーケーストップ。ここは飲食店」


 一将の後ろの席に座っていた客が、ぶっとジュースを吹き出したのが見えた。夏彦は一将に注意する。


「――っと。……すいませーん」


 夏彦は振り向かず、申し訳なさそうに後ろの客に小声で謝った。


「じゃ、読み終わるまで待っててね」


 夏彦はデータを消すかどうかの話は置いておき、読む準備をする。


「ああ。じゃっ、終わったら起こしてくれ!」


「え?」


 そう言い残すとすぐに、一将はだらんとソファにもたれかかり、眠り始めた。


「……よっぽど疲れていたんだな」



 脳がスッキリすれば考え方も広がるだろう。夏彦は一将を起こさないように、じっくりと、それでいてスピーディーに、皆見一将の手記もとい「ラブレター」を読み進めることにした。

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