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俺が彼女に告る理由  作者: 本間 甲介
理由その4~夏祭り(メインイベント)~
19/39

いざお祭り会場へ

 夏祭りということもあって、電車は満員御礼、つり革を掴むことすら難しかった。その多くは俺と同い年か少し下。友達同士でグループを作ってわいわいきゃっきゃと話していた。


「……」


 その中で俺は座席の後ろの壁にもたれかかり、スマホをいじるふりをしながら、ちらちらっと周りの服装を見た。


 ……ミスったかな? 女子の方は、浴衣を着ているのが多かった。どれも可愛らしい柄で、地味な女の子ですら可愛く見えた。


 しかし、パッと見た限りだと、男で浴衣を着ているのはごく少数だった。


『どちらに転んでも失敗はないよ』


 心友、夏彦は力強くそう言ってくれた。俺もそう思う。しかし同時に「失敗はないが成功もないんじゃないか?」という不安がおしよせてきた。


 一度でもそう思ってしまえばもう止まらない。俺は胸にざわつきを抱え込んだまま、目的地の駅に到着した。


 予想通り、電車から一気に人が降りる。俺は不安を抱えたまま、電車を下りて改札へと向かう。


『じゃあ、神社の階段前で待っていますね』


 朝桐さんの言葉が脳裏に浮かぶ。


 待ち合わせ場所、祭りの会場までここから徒歩五分。俺は人の流れに沿うように、朝桐さんの待つ場所へ向かう。


 とはいっても、まだ来ていないだろう。なぜなら俺は、待ち合わせの時間の一時間前を目安に、行動していたからだ。


 ぴったり待ち合わせまであと一時間。俺は神社の階段近くに置かれた、たぬきの地蔵前に到着した。


「でさー」


「マジ受ける!」


「お腹すいたー」


「祭り終わったら、俺んち来ない?」


「どうしよっかなあ……」

 階段を次々と登っていく人たちの会話(一部は完全にアレ目当て)を聞きながら、俺は朝桐さんの到着を待つ。五月の連休の時のことを考えれば、十五分前には来るだろう。俺はその間、デートプランを整理する。


 朝桐さんが少食ではないと分かったので、存分に屋台を回ることができる。朝桐さんは奢られることを嫌がるだろうが、たこ焼きと焼きそば代は俺が出そう。祭りの露店は高いとはいえ、それぐらいならたかがしれている。


 腹ごなしをした後は、射的や金魚すくい、輪投げといった、「祭り」ならではの遊びをやろう。アナログと言えど「ゲーム」には違いない。俺は「趣味はゲーム」の意地にかけて、必ず朝桐さんを満足させると誓った。


 そしてそのあと、本日のメインイベントの花火三千発。空が彩られ、みんなの気持ちが一体となる時間。思い出を共有することで、俺はさらに朝桐さんと親密な仲になれるだろう。俺はぐっと気合いを入れた。その時、だった。



「泣かないで、きっと見つかるから」



 カクテルパーティー効果とかいうんだろうか。多くの人間の話し声や足音が混ざり合う中、俺の耳は一つの声をはっきりと聞き取っていた。


「お名前、言えるかな? ……へえ、りなちゃんっていうんだ。いい名前だね。あたしは――」


「なにやってんのおまえ?」


 俺のいた場所の、ほんの数メートル左にずれたところに「幼なじみ」がしゃがんていた。


「あ、カズ……」


 珍しく、「幼なじみ」は気弱な表情を見せる。その理由はすぐに分かった。


「……っ」


 なんかのアニメキャラが、プリントされたシャツを着た女の子は、体を震わせ「幼なじみ」の浴衣の袖を掴んで、身を隠した。


「どこで見つけたんだ?」


 詳しく訊かなくても、だいたいのことは分かったので、俺は「幼なじみ」にそう訊いた。


「階段から下りてきたみたい。見つけたのはほんのついさっきよ」


「……そうか」


 ということは、親御さんは階段の上、祭り会場にいる可能性が高い。


「りなちゃん、今からお母さんのところに行こうか」


 俺は優しい言葉を女の子にかける。


「…………」


 だが女の子は、体を震わせ、いまだ警戒を解こうとしない。


「りなちゃん、このお兄ちゃんは見た目はアレだけど、優しいから大丈夫よ」


「幼なじみ」はそう言って、女の子の頭をなでる。女の子はちらっと俺を見る。


「そうだよぉ、怖くないよぉ……!」


「やめろバカッ!」


 俺の渾身のスマイルに、「幼なじみ」は後頭部を思い切り叩く。


「なっ、なにすんだ!」


「気持ち悪い顔を向けるんじゃないわよ」


「気持ちいい顔よりはマシだろ!」


「下ネタやめろ!」


「下ネタじゃねぇよ!」


 俺と「幼なじみ」はぎぎぎとにらみあう。すると女の子は、


「ぷっ……!」


 とても小さい声だったが、確かに笑った。


「じゃ、じゃあ行こうか!」


 俺は「幼なじみ」に向けていた顔を、女の子に向ける。


「……う、うん」


 女の子は多少は心を許してくれたのか、うなずいた。


「じゃ、行こうぜ」


「う、うん」


「幼なじみ」の方も、俺といがみ合うことはやめ、女の子の手を掴んだ。


 俺たちは血相抱えて、あたりを見回す大人がいないかなどを確認しながら、階段を登り始めることにした。だが、


「あたし一人で行くわよ。あんたは透子っちと約束あるんでしょ?」


 階段に足をかけた時、「幼なじみ」はそう言って俺を呼び止めた。


「まだ時間はたっぷりあるんだよ。いいから行くぞ」


「幼なじみ」とは相性最悪とはいえ、このまま放っていたら寝覚めが悪い。俺は渋る「幼なじみ」と不安そうな顔の女の子とともに、ムダに長い階段を上がっていくことにした。


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