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俺が彼女に告る理由  作者: 本間 甲介
理由その2~ゴールデンウィーク~
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彼女をいっぱい知れた日

 ラーメンを食べ終え、さあ会話を楽しもうとした時、「幼なじみ」は立ち上がった。


「じゃ、いこっか!」


「え、ちょ、ちょっと……」


 せめてあと五分。そう言い出そうとした俺は、待合スペースに人がいることに気づいた。


「行こう」


 こればかりは仕方ない。俺は続いて立ち上がった。


「あー、おいしかったあ。次、どこ行く?」


「あ、じゃあ」


「本屋行きませんか?」


 ゲーセンと俺が言う前に、朝桐さんは答えた。


「いいね、行こう」


 まあいい。本屋に行ったあとに行けばいい。俺は唯一得意なゲームで、朝桐さんを喜ばせる未来をイメージしながら歩き出した。



 だが、そんな未来は決して訪れなかった。



「あー楽しかったあ」


 駅前で、うーんと手を伸ばす「幼なじみ」。その顔は本当に満足そうだった。


「そうだな」


 俺は無表情で答える。本音は、「お前がいなきゃな」と言いたかった。


 目当ての本を買えばすぐに出ると思っていた。けれど朝桐さんは俺が読みそうにない文庫本を何冊もぱらぱらめくり、難しい顔で買うものを選んでいた。


「邪魔しちゃダメよ」


 話しかけようとした俺を「幼なじみ」が止める。仕方なく、俺はゲーム雑誌でも見ておくことにした。


 そして一時間後、ようやく朝桐さんは買い物を終えた。


「ごめんなさい!」


 待たせていたという自覚はあったのか、朝桐さんは深々と頭を下げた。その手には、ずっしりとした重みがありそうな紙袋がある。


「かまわないよ。俺も雑誌読んでたしね!」


 さあ本番だ。俺は今度こそゲーセンと言い出そうとした。


「んじゃ、そろそろお開きにしよっか」


「え?」


 パンパンと手を叩く「幼なじみ」。俺は何を言うか忘れてしまった。


「そうですね」


 同調する朝桐さん。あれ……あれ?


 呆然とする俺。そして気づけば駅前にやってきていた。


「あ、ちょっとあたしトイレ行ってくるね」


 駅に入る前、「幼なじみ」はそう言い残し、駅入口近くにある便所へ向かった。


「……」


「……」


 ここで俺たちは念願の二人きりになった。だが、やはりすぐに会話は出てこなかった。


「……本、好きなんだね」


「あ、はい。すいません……時間かけてしまって」


「え? いやいや! べつに怒ってないから!」


 世間話のつもりが、朝桐さんには嫌味に聞こえてしまったようだ。俺は話題を映画に変えた。


「朝桐さんは、あの映画の内容知ってたの?」


「はい。あまり宣伝はなく、公開期間も短いですけど、好きな小説の映像化だったので」


「え? あれ原作あるの?」


「そうなんです! 正直最初は怖いもの見たさもあったんですけど、いい意味で裏切ってくれました!」


「原作に忠実なの?」


「そこまで忠実というわけじゃありません。でも、大事なところはちゃんと描かれていて、二時間で上手いことまとめられていました!」


 誰だって、好きなものには饒舌になる。朝桐さんは嬉しそうに映画のことを説明する。


「だからもっとあの映画は評価されていいと思うんです! ……あ、ごめんなさい、つい興奮して……」


「全然いいよ。朝桐さんってけっこう熱いんだね」


「い、いえ……そんな……!」


 朝桐さんは紙袋で顔を隠す。耳は真っ赤だった。


「朝桐さん」


 自分でも驚くくらい、落ち着いた声だった。朝桐さんはそおっと顔を俺に向ける。


「また、遊びに行こう!」


 俺は笑顔でそう言った。


「……はい!」


 紙袋を下ろし、朝桐さんはとてもうれしそうな顔で、返事した。俺に初めて向けられた、「素」の笑顔だった。


 色々と計画は狂った。けれど結果的に、これでよかったのかもしれない。


 今日一日で、俺は朝桐さんのことを色々と知ることができた。それで十分だ。





 そしてこれが、「第二の理由」となった。


  



ここで理由その2は終わりです

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