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俺が彼女に告る理由  作者: 本間 甲介
理由その2~ゴールデンウィーク~
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食べる姿も

「お腹すいたー」


 映画館を出てすぐ、「幼なじみ」はお腹をおさえた。俺はいったん映画のことは横に置き、次なる計画へ移ることにした。


「この上に美味しいパスタ屋があるんだ。行こう!」


 ネットで事前に調べた限りだと、そこのパスタは種類豊富で味もよく、なにより「おしゃれ」な内装だった。


「あ、いいです……」


「えー、パスタじゃお腹ふくれないって」


 またもや「幼なじみ」は邪魔をしてくる。だが、それも対策済みだ。


「みんなお前と一緒にするなよ。ねえ朝桐さん」


 民主主義に則り、多数決ならば文句は言わないだろう。俺は朝桐さんに同意を求めた。


「あ、えっと……」


「透子っち。自分の気持ち、はっきり言お?」


 肩に手を置き、「幼なじみ」は朝桐さんに優しく声をかける。朝桐さんはちらっと俺を見上げ、


「……あの、皆見くん……ごめんなさい。わたし……ラーメンが食べたいです」


 申し訳なさそうな声で、そう言った。


「え、ラーメン……?」 


 思わぬ食べ物の名前に、俺は思わず聞き返してしまった。


「あ、いえパスタが嫌というわけじゃないんです。ただ、今日はその、ラーメンを食べたい気分で……」


「あんたは知らないだろうけど、透子っちはあたしよりも食べる子よ」


「ちょっ、ちょっと!」


 自慢げに言う「幼なじみ」を、朝桐さんは顔を赤くして止める。俺の見たことのない表情だった。


「あんただって本当はラーメン食べたいんでしょ? カッコつけなくていいわよ」


「べ、べつにカッコつけてるわけじゃねえよ。 分かった、ラーメンにしよう」


 図星を突かれたことを誤魔化すように、俺はその提案を受け入れることにした。


「――ありがとうございます!」


 朝桐さんの声に張りが戻る。よほどラーメンを食べたかったのだろう。


「じゃ、行こっか!」


「上に行くんじゃないのか?」


「おすすめがあるのよ。ほら、急いで急いで!」


「幼なじみ」は嬉しそうに歩き出す。朝桐さんも同じように続いて歩く。


「くっ……」


 主導権を取られてしまったことに、苛立ちを覚える。俺は色々と狂わせる「幼なじみ」の背中を、憎々しげに見ながらあとに続いた。



「おじちゃん、替え玉バリカタでー」


「あ、わたしは粉落としで」


 ラーメンをすする音が大半を占める店内。厨房前のカウンターに座っていた女子二人は、替え玉を頼んだ。


「あれ? あんたまだ食べてるの? 遅いわね」


「…………」


「早く食べないと冷めるわよ。あ、きたきた!」


「いただきます」


 すぐに食べ始める「幼なじみ」とは違い、朝桐さんはちゃんと手を合わせてから食べ始めた。


 ズズーズズーと激しく音を鳴らしながら食べる「幼なじみ」。スースススーと静かに食べる朝桐さん。 


 対象的に見える二人だが、共通しているところもあった。


「もう一杯!」


「あ、わたしも……」


 二人とも、食べるのが信じられないくらい早く、あっという間に替え玉を三回していた。


 夢でも見ているのだろうか? 俺は隣りに座る朝桐さんを、ぽかんとした顔で見た。


「幼なじみ」に合わせ、無理してラーメンを食べたいと言ったものかと思っていた。そもそも、ラーメンは頼まず小ライスだけを食べるものかと思っていた。それほど、俺は朝桐さんとラーメンを結びつけることができなかった。


 意外な一面……というより、俺はまだ全然朝桐さんのことを知らなかったのだと、改めて気づかされた。


「ごちそうさま」


「ごちそうさまでした」


 負けじと俺が一回目の替え玉を頼もうとした時、二人は食事を終えていた。


「ねえ、透子っちはどこが好き?」


「好き」という単語に、俺は過剰に反応してしまった。


「えっと、普段はクールだけど、情に厚いところかな」


「分かる! 超かっこよかったよね!」


「はい! とても同じ高校生とは思えません!」


 二人はガールズトークに花を咲かせる。映画の話と分かっていたが、もやもやした。


「いや、俺は主人公より敵のボスのおっさんの方が」


「皆見さん、伸びる前に早く食べたほうがいいですよ?」


「……はい」


 会話に入り込もうとしたが、朝桐さんに止められた。俺は二人の話に聞き耳を立てながら、ラーメンをすすっていった。横目でちらっと見えた朝桐さんの笑顔は、とてもまぶしいものだった。

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