7.さっきから疑問符と感嘆詞しか喋ってない
短いですが区切りがいいのでここまでで
灰髪の男はそう言いながら部屋の中へ入ってきた。部屋をつっきりこちらへ歩いてくる男はソファの一角に怪訝な視線を送る。
「他の皆は彼女がもう少しちゃんと休める場所を探しにいったわ。私と彼は他のメンバーと交代で休んでいる所よ」
私は一人用ソファにひっくり返って寝こけている、彼こと男子生徒Cを指差しながら言った。
男はものいいたげな目で私を見つめている。
「家捜しみたいな事をして悪いとは思うけど、呼んでも誰も出てこないのだもの
それに一階は好きにして良いと言ったのはあなたでしょう?」
「ああ、いや。それは別に構わない。それよりお前」
「繕林永環よ」
「?」
「繕林永環よ。お前ではないわ」
「ああ」
「あなたは?」
「?」
「貴方のお名前を聞いているのだけれど」
「あ、ああ、セイレだ」
「そう、それで?セイレさん」
「?」
「さっき何か言い掛けたでしょう?」
「ああ」
さっきから疑問符と感嘆詞しか喋ってないどこか呆然とした男の顔を見返す。
「いや、それはもういい」
「あら、そう」
そう言ってセイレは扉の方へと踵を返しその途中、ソファの上で、今だ意識の無い大神未輪の側で足を止めてその顔を見つめた。
ほんの数秒見つめたセイレは私が見ている事に気がつき罰が悪くなったのか、左手で灰色の髪をかき混ぜながらポケットから小さな何かをとり出してローテーブルの上に放り投げる。
「解熱剤だ、飲ませてやれ」
セイレはそれだけ言うとさっさと部屋から出て行った。
気を失った大神未輪と今だ寝息をたてている男子生徒Cしかいない居間で私はゆっくりと息を吐き、なんとか自然に男の名前を聞き出せた事に安堵した。
何せ此方は最初から男の名前を知っていたのだから、何時うっかり、知るはずの無い男の名前を呼んでしまうか不安でたまらなかったのだ。
さて、問題をこれからの事に戻そう。私は手の中にある小さな薬包を見下ろした。これが恐らくゲーム内で彼女が飲んだという薬だ。
どこで手にはいるのだろうかと思っていたが確かにこの薬の本当の薬効を考えれば、セイレから渡されるのが一番自然だったろう。
それにしても得体の知れないことこの上無い。よくゲームの私達はこんなものを彼女に飲ませたものである。
そう思うのは現在の私がセイレの正体もこの薬の中味も知っているからだろうか。
どちらにしろ、これを彼女に飲ませない訳にはいかない。そもそもゲーム内では飲ませないと言う選択肢は無いし、考えてみれば薬の効果が無ければ彼女だけでなく他の皆も無事この館を出られるか分からないのだ。
大神未輪はまだ気を失っている。無理やり起こしても良いが、皆の私に対する心証があまりよろしく無いのはわかっている。私が大神未輪を嫌っているのも周知の事実なので今誰も見ていない状況で彼女に何かアクションを起こすのは止めておいた方が良いだろう。
ここは皆が帰ってくるのを大人しく待つ事にしよう。
因みにあの薬の出所について話した所満場一致で飲ませようということになった。
私が解熱剤だと言った時は半数が不審な顔をしたのに。数年間同じ学校で学んだ学友よりあったばかりのあんな国籍不明な怪しい風体の男の方が信用が高いというのはどういうことだろうか。いや止めよう国籍どうこうは、金髪碧眼クォーターの私にはブーメランだ。