5.年下の子供をいじめている図にも見えなくない
1/31考えてみたら東京の設定ではなかったので「都内の高校」から「近隣の高校」に変更しました。
かくして私達の前には白亜の壁が美しい、豪奢な洋館が建っていた。
木々の向こうに建物が見えた私達は携帯のライトを降って他のメンバーを呼び集めていた。
私と神倉、大神未輪と彼女を支えている男子生徒A、何故か木の枝をかかえた東大と男子生徒Cは並んで洋館を見上げた。3階建て程度の高さの洋館で正面から見える部分以外にも森の奥に建物の屋根が見えるので建築面積は随分と広そうだ、更に洋館右側には大きな庭、左側にはちょっとした広さの池もある。
燃え尽きる瞬間のような夕日に照らされたその光景はこれからこの中で起こること等感じさせない、幻想的名風景だった。
「山の中にこんな豪邸があるなんて…」
東大がポツリと零した時玄関脇に着いた照明がびかりと光った。皆が注視する中照明はゆっくりと光を失いやがて沈黙した。
「切れかかっているみたいだねー」
男子生徒Cが呟いた。どうやら神倉が見た光はこれらしい。
「ええっと、でもこれで誰か居るって分かったよね。僕達遭難せずにすんだんだよね?」
男子生徒Aが本日一番のはしゃいだ声を上げる。
「ここ、太陽パネルが着いてる」
神倉が屋根の方を見上げて呟いた。
「電気が来ているからと言って人がいるかは分からない訳か」
「切れかかっているから放置してるだけかもしれないしねぇ」
薪男子二人の言葉に男子生徒Aのテンションが傍目に分かるほど下がっていく。幼い容姿の男子生徒Aがそんな反応をすると年下の子供をいじめている図にも見えなくない。同い年だけど。
「誰か居るか居ないかなんてここで言い合っていてもらちがあかないわ。早く鳴らしてみましょう」
「だっ誰も居なかったらどうするの?」
「その時は窓でも割って避難させてもらおう。緊急事態なんだからそれぐらい許されるだろう」
神倉とCの会話を背後に聞きながら私は玄関ベルを鳴らす。太陽パネルのついた屋根に古めかしい玄関ベル。日本にありがちなちぐはぐさだと思いながら待つこと暫し、ゆっくりとそのドアが開いた。
ドアの向こうから顔を出したのは灰色の髪の若い男だった。年は私達とそう変わらないだろう。
「誰だお前達は」
男はぶっきらぼうに言った。
「私達は近隣の高校に通う学生です。社会実習でこの土地へ来たのですが、クラスの皆とはぐれてしまって道に迷って困っていたところです。いきなりで申し訳ないのですが、一晩止めて頂けないでしょうか?」
「お前達を泊める部屋は無い」
「では電話をお借りできませんでしょうか?家に電話さえ出来れば向かえを寄越して貰えるはずなので」
「この家に電話は無い、その道を進めば国道だ。下りに行けば民家がある。さっさと立ち去れ」
(じゃあそうします)
思わずそう口にしようとした瞬間。
「あっ」
男子生徒Aが短く悲鳴を上げた。
皆が振り向き-灰髪の男すら注視する中、ゆくっくりと大神未輪が男子生徒Aの支えをすり抜けて倒れて行くのが見えた。
―地面にぶつかり跳ねる小さな手足―
長い髪がパラパラと彼女の細い体躯の上に落ちていく。
彼女の名を呼び、神倉が、東大が、大神未輪に駆け寄る。
私はその光景を見ながらそういえばこんな展開だったわねと、頭の中の醒めた部分が囁くのを聞いた。
「あの娘はあの湖の…」
すぐ横で男の独白が聞こえる。そうだ、思い出した。私たちが今ここにいるのはこいつのせいだったのだ。
私は顔だけは大神達の方を向き口を開いた。
「あらまあ大変彼女もともと身体が強くないのだけれどお昼に池に落とされてしまって濡れた身体で延々山道を下って来たものだから熱も出ているみたいなのよね民家ってどの位先にあるのかしらこのままだと民家に辿り着く前に死んでしまうかもしれませんわね大変本当にどうしましょう」
一息で言いきると横目で男を伺う。
男は険しい顔で此方を睨んでいた。自然目が合うのでそのまま見つめ返す。ほんの数十秒後。
この男、髪だけでなく瞳も灰色なのだなと考えていた所で男が目をそらした。
「一階なら好きに使って構わない、地下と2階以上には入るな」
男はそれだけ言うとそそくさと室内に戻って行った。
私は大神達の元に歩き出しながら、背後の館を振り返った。日はいつの間にか暮れ、瞬く星の元、庭の常夜灯の光を受け白く浮かび上がっている。
(やっぱり始まってしまったわね)
また頭の中の醒めた部分が呟く。
生き残らなくては。
ゲームが始まる、『Phantom's bride』ゾンビサバイバル乙女ゲーム。乙女ゲームの名を借りたホラーゲームだ。
ここまでがゲーム本編のプロローグ部分です
これ以降の更新は不定期になります。