2.イノシシか…とどこか遠くを見る目をした
初回の数回は書き溜めているのでコンスタンスにあげていこうと思います。
1/15すいません、ややこしいんですが男子生徒Aと男子生徒Cの名前を入れ替えました。
個人名はのちのち主人公がゲーム設定を思い出すと共にすげ変わっていきます。
あと25分と言ったな、あれは嘘だ。
現実時間をゲーム内でリアルに表現するとだれますもんね。街から街まで徒歩で歩いてリアルに数日かかるとかあり得ないですもんね。選考するまでもなくクソゲーオブザイヤーに輝けますね。
まぁ何が言いたいかと申しますと。
バス亭を出発して4時間、私たちは森の中を歩いておりました。
バスに置いていかれた私達は文句を言ってもしょうがないので山道を下る事にした。
山道と言ってもそこはバスが通る大きな舗装された道路。
真っ直ぐ降りて行けばあの場所に着かず無事に山を降りられるのではと、私も最初は希望を抱いていた。
結論から言おう。
無理であった。
幾つかの道路の分岐により下る道をより大きい道を選んで歩いてきたはずの私達は現在どういう訳か道幅の狭い、地面もむき出しのあぜ道に迷い込んでいた。
私達の脳裏に遭難の2文字が浮かんだ頃、女子生徒Aが木々の間から白く光る物を見たと言い出した。
まだ日は落ちてはいなくても長く薄暗い森の中を進んでいたクラスメイト達には希望の光に見えたようだ。
私を除いて。
この光が何なのか、この先に何が待っているのか私は知っている。
このシーンイベントに見覚えがあったからだ。私達は確実にゲームと同じ展開を進んでいる。冗談ではない。
このままゲーム通り進んだとして、いの一番に頭をかじられるのは私なのだ。
「光って行ってもこんな森の中に都合良く私達以外の人がいるかしら、岩か何かが日光に反射して見えただけじゃない?
それよりも、戻って別の道を探した方がいいわ。もっと大きな道路なら車で通り過ぎる人がいるかもしれないし、救助が来ても開けた場所の方が見つけて貰いやすいだろうし」
至極真っ当な私の意見に、しかし頷く顔は無かった。
そうだろう、最後に別れ道から私達はもう1時間以上歩いてきたのだ。
同じ道を同じ時間かけてまた歩くには私達は消耗しすぎている。大神未輪なんて歩き始めはぐずって真っ赤な顔をしていたものだが、もともとずぶ濡れ状態であったため他のメンバーより消耗しているのだろう、服の方は初夏の陽気で粗方乾いているが体は相当に冷えているのか、全身ぐったりとして顔色も青を通り越して真っ白になっている。
「確かになにが光ったのかまでは分からなかったけど、今から元の道に引き返すのならこの先に何があるのか確認してからでも良いんじゃないか?」
女子生徒Aの言葉に男子生徒Bも頷く
「それにもうじき暗くなる。暗い中戻るより、少しでも安全に休める場所を探した方が良いと思う」
「クマとか…出たりするの?」
安全と聞いて男子生徒Aが怯えたように周りを見回した。
「いや…熊は流石に出ないとは思うが…」
「この付近で出るのは、猪よ」
私の言葉に男子生徒Aはイノシシか…とどこか遠くを見る目をした。今一猪がどう危険なのかピンと来ないらしい。
これはゲーム内からの知識では無く、午前の体験授業の合間に生物教諭と寺の住職が話ていたのを立ち聞きしただけだ。住職の話によると畑の農作物を猪が荒らしに来るらしい。
あの寺からここまでそう離れていない。生物の分布はそう違いはないだろう。
あれも突進して来たら十分に危ないのだが、熊の明確な危険性に比べると見劣りしてしまうのかもしれない。
「野生動物も危険だけどそれより凍死の危険性に気を付けた方がいい」
女子生徒Aがちらりと大神未輪を見て言った。
「冬でもないのに?」
「たまにニュースで聞くだろ。冬じゃなくても山の夜は冷えるし、しかも僕達の着ているのはただの制服だ。雨が降りでもしたら一気に気温も体温も下がるだろうし・・・」
不思議そうな顔で聞く男子生徒Cに男子生徒Bも、言葉をにごしちらりと大神未輪を見た。
確かに、健康的な高校生なら山で一晩位なんとかなるかもしれない。ただしそれは事実健康であればの話で、今現在確実に健康でない、すでに体温も体力も奪われた状態の人間が一人いるのだ。
山の天気は変わりやすい、とはよく言うが今は街中であろうとゲリラ豪雨が発生する昨今だ。
私たちが今できることは本格的に暗くなる前にスコールが降ってもしのげる休憩場所を探すが、雨が降らない事を祈りながら夜通し歩いて山を下り民家を探す二択しかない。
男子生徒Bが大神未輪に声をかけた。
「大神はどうする? 神倉の言ってた光っていた方へいってみるか、それとも戻って他の道を探すか?」
選択肢だ。
男子生徒Bの立ち絵と共に選択肢画面が私の脳裏をよぎる。
確かここで光る場所を選べば正規ルートへ、戻れば別のエンドへと分岐する。
困ったように大神未輪が視線をさまよわせる。
彼女の体力的にこのまま道を戻るのは辛いだろう、しかし光る場所へ進めばそんな事など他愛もないような過酷な出来事が待っている。
あの場所へいく事を選択させるわけにはいかない――
「山を降りるのはやめましょう」