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1.私を誰だと思っているの

プロローグなのでちょっと長めです

「まったく、私にこんな恥を掻かせるなんて、貴方私を誰だと思っているの!?」 


私の言葉に下を向いた少女の顔が更に青くなる。


「さすが田舎育ちは違うわね、街に帰るより此方に永住したほうがいいのじゃなくて?」


 言い募ると少女は悔しさにか唇をかみ締めた。どうやら私は異世界転生したようです。



繕林永環ぜんりんえいか

繕林財閥の一人娘で高飛車なわがまま娘。

 主人公を目の敵にしていて何かと辛く当たる。


 というのが説明書に書かれた私の簡易キャラクター設定だったはずだ。

 説明書、設定。そう、異世界転生も異世界転生、私は今流行りの乙女ゲー悪役令嬢転生を果たしてしまったのです!


 いや、ありえんだろ。なんだよそのとんでも設定、乙女ゲーム転生ってなんだ、なりきり小説かよ。痛すぎる。

 痛い。本当に痛い。


 頭が痛い…

 何で…何でよりにもよって…繕林永環このゲームのこのキャラ なんだよ!


 「あの…」


 微かな呼びかけに逃避を図っていた私の精神が呼び戻される。

 私の目の前にはずぶ濡れ、泥だらけの何をどうやったら短い自由時間の間に此処まで汚れるのだというほど汚れ、酷く落ち込んだ様子の私と同年代の大神未輪がいた。


大神未輪おおがみみわ)

17才、ちょっぴりドジな普通の女子高生。

普段は弱気で流されやすい性格だが、根のところは芯の太い素直な女の子



 普通と言うには肩書き詐欺のような美少女だかそれはもうお約束の様なものだから仕方がない。

 なんのお約束か、勿論乙女ゲーム主人公の、だ。




  「なあに?田舎にでもどる決心でもついた?」

  「繕林、もうそれぐらいにしておけ」


  更に大神未輪を嘲る私に言葉を返したのは大神本人ではなく、同じ班の男子生徒Bだった。

 たしか名前は東大。下の名前は興味が無いので知らない。

 そこでようやく息を吹き返したように青い顔をした大神未輪が


 「そうです!私の田舎にはアオンもエトーヨーカ堂もあります、田舎じゃありません!」

 「アオンとエトーヨーカ堂しかない時点でもう田舎なのよ!」

 「そういう話じゃないだろうし、大神自分で最初に田舎って認めちゃっていいのか!?」


 「そうよ、そんな話じゃないわ!

 問題は!」


 大神実和の顔が苦渋に歪む。男子生徒Bも流石にその事実には気まずい顔をした。

 私はその事実を改めて彼女に宣告する。


 「帰りのバスが無い事よ!」


 「ごっごめんばざい~」


 大神未輪はついに泣き出した。


◇◇◇


 快晴吉日、私達は郊外学習の一環で山に来ていた。

 もっと正確に言えば山の奥深くにある山寺に一泊二日の修行体験に来ていたのだ、体験授業が済めば、通常ならバスで学校に帰ってレポートを書いて終了なのだが、教師陣は折角こんな山奥に来ているのだからこのまま帰るのは勿体無いと思ったようで二日目、午後一杯を使って班行動による周辺散策を課題に追加していた。

 私達の班は私と大神未輪を含めた女子3人男子3人の6人班だったのだが班員の


「遠くに行ってみたい、誰も僕を知らない所へ」

「班で移動するから不可能だよ」


という意味の分からないやり取りによって少し遠出をする事に成った。

 多少遠くても市バスに上手く乗れれば時間内に集合場所まで帰れるはずであった。

そう、乗れさえすれば。


 あろうことか1日2本、本日最後のバスの運転手は泥だらけ水浸し、ついでに良く見れば泥におまけして藻だらけの大神未輪を乗車拒否しよったのだ!

無事山をおりられたらどんな手を使ってでもあの運転手をクビにしてやる!!絶対にだ!


 思えばその時に大神未輪を見捨てて私達だけでもバスに乗る事も可能だったのだ、きっと私以外にもそう考えたメンバーはいただろう。しかし、道徳的問題のあるその行為を口にするものはいなかった。

 よくよく考えれば班の誰かが山を降りてバス亭まで迎えを手配するのが一番安全で合理的な対処のはずだった。

しかし、誰もそれを口に出さなかったし、私もしなかった。バスの運転手に憤慨していたのもあるが、まだ皆甘く見ていたのだ。

道を歩いて行けば麓まで降りられる。万が一遭難しても学校行事なのだ、すぐに捜索隊が来てくれるはずだ。


 私も、ついさっきまではそう考えていた。


◇◇◇


 今もなおぐずぐずと泣き続ける大神未輪は顔にも少し泥をつけて水浸しで悲しげな表情を浮かべたその姿は首から上だけを見れば大多数の人間は庇護欲を掻き立たせるだろう。首から下は残念ながら泥だらけなのであくまで頭部分をトリミングした場合だけだが。

 ゲームでは確か湖のほとりで体勢を崩して水の中に落ちたという記述はずだったが、本当に湖だったのだろうか?沼かため池だったのではないだろうか。

 あとなんかちょっと変な匂いもする。私は一歩彼女から離れた。


 今まで散々転生だのゲームだのと設定だのと言い募ってきたが、要するに私はまさに今さっき、前世を思い出したところなのだ。

今さっきって何時?

冒頭の一言の所さ!

何にもかかってない上に古い。


頭をぶつけたわけでも高熱にうなされたわけでもない。たった一言。その一言で私は前世を思い出した。しかし残念ながら思い出せる前世の記憶は大部分が紗にかかったようにぼやけている。

 その中で一つだけクリアーな記憶があった。


―日の落ちた薄暗い部屋、真ん中に一人の人物が座っている、すべてがぼやけた世界で煌々と光を放つTV画面。

 TV画面の中で女が金色の髪を翻し、空色の瞳を歪めて笑っている。

 酷薄なその唇が開く。

 『まったく、私にこんな恥を掻かせるなんて、貴方私を誰だと思っているの!?』―


 ゲーム開始5分で登場するライバルキャラクター繕林永環の紹介シーン、その最初の一言、ゲーム内での私の第一声で私は私の前世を思い出したのだ。


 わかってしまった。この世界は前世の私が昔プレイしたことのあるゲームの世界まさにそのままだということに。


 そして知ってしまったのだ、この世界がゲームと同じであるならば、救助はこない。


 正確にはこの後に起こるとある理由の所為で捜索隊が派遣されるのはもっと後になる。

 そしてそのころには全てが終わり、全てが手遅れになるのだ。


 ああ、せめて1日いや数時間、ほんの数分前でも良かった。もう少し早く思い出せていたならば…もしくはこのまま思い出せないままでいられたら。



 そうすれば―ゲーム開始30分後、私がゾンビに頭を(・・・・・・・・)かじられる時(・・・・・・)まで何も知らずにいられたのに!


― 残り時間あと25分―


 やっぱいやー!!!


ホラーゲーム×乙女ゲーム転生が読みたいと思って検索したら無かったので自分で書いてみたけれど気がつけば早数年、どうやら巷にはもうホラーゲーム×乙女ゲーム転生は普通にあるようです。

時流れって残酷だね。

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