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6.犯人たちの告白

(2019・12・13)一部更新いたしました。

(2020・01・08)更新いたしました。

(くそっ! 間に合わなかった!)

 次の角を曲がれば合流できたのに。そう思うと悔しく、私は唇を噛み締めた。

 だが急いては事を仕損じる。

 私は一旦、曲がる手前で陰に隠れ、呼吸を整え、銃を構える。

(行くよ……)

 例え一人でも、やらなきゃいけないことがある。

 私は一つ息を大きく吸い込み、陰から勢いよく飛び出した!


 ところが――。


「……あれ?」

 遠目から狙いを済ませて撃とうと思ったら……。

「何やってんのあんたら……」

「おっ、やっと来たか。遅かったな」

 両手を腰に当て、ふぅっと息を吐きながら、ケイが声に気づいて呼びかけてきた。

 私は唖然として3人に近づく。足元を見ると、私が倒した奴と同じような外套を纏った連中が転がっていた。

 その数は4人。倒した相手を入れると、マックスの最初の情報と変わりない人数である。

「……まさか、あんたらでこいつらをやったの?」

「当然」

 疑問に即答したのはイチだ。

「その割にはあまり疲れてないように見えるけど……」

「簡単だったよ! 大したことなかった!」

 そう快活に応えるマックスのようすは、汗もあまりかいておらず、息も切らしておらず、確かに大きく疲れていない。

 話を聞くと、なんだかあっけないものだった。

 一人が私の方向に逃げた後、すぐに2人がマックスの元へ駆けつけ本格的な戦闘となった。数的不利と思われたが、何故か状況は違ったようだ。

 何せ、相手側の連携ができていない。

 それぞれが単独で攻撃してくるためか相手が互いに邪魔しあってしまい、隙を突くどころか、普通に攻撃していくと簡単に制圧できたという次第だ。

 因みに金属音は交戦している音と犯人たちが互いに刃をぶつけ合う音であったそうな。

「えぇ……。心配して損した」

 そんな会話をしながらも私達は、4人を縄で縛っていく。

「俺たちだって驚いてるよ。凶悪犯罪者集団がこんなに弱っちかったなんてよ」

 ケイが感嘆を漏らした。

「恐らく、奇襲は得意でもされる方は弱いんじゃないか?」

 その横から、イチが腕を組みながら付け加える。

「ただ、あの名門校ならその辺りの戦い方も学んでいると思うんだが……」

 イチがこれだけ悩むのも頷ける。

 名門というだけあって、学習も実戦も充実しており、聞いた話だと朝から剣技の稽古。その後、夕方まで一般教育と戦術の教育。それらが片付いたら夕食前まで実戦の訓練を行っているとのことだ。それが月曜日から土曜日にかけて毎日行われている。実戦経験は豊富なはずなのだ。

 なのにこの始末である。どう考えても、戦い方を忘れた、では済まされない。

「うっ……、うぅ……。ここは一体……?」

 そんな風に考えていると、犯人の一人が意識を取り戻した。

 フードをかぶっていて全体像は分からないけど、それなりに長身である。顔は平凡だけど。

 一通り周りを見渡した後、自分の状況を把握し、私たちを睨みつける。

「てめぇら! なんで邪魔しやがんだよ! もう少しで復讐を達成できそうだったのによ!」

(うわぁ、何で言葉遣いがこんなに荒いんだろう?)

 名門校なら言葉遣いがしっかりしているはずなのに、何故か罵詈雑言が飛び出している。何かおかしいと他の三人も思っているのだろう、首を傾げていた。

「……なぁ、お前ら出身中等校どこ?」

 ケイがしびれを切らし質問した。

「あぁ!? お前らに教えるものなんて何もねぇよ!」

「あいつの顔を覆い尽くせ、(たま)(みず)

「おぶっ!!」

 その発言にイラッとしたので、私は指先に水の玉を作り、顔目掛けて放つ。案の定、相手は溺れる。あまりやり過ぎると死んでしまうためほどほどにして、水を顔から離す。

「もう一度聞こうかな? どこの中等校出身?」

「げほげほっ……! い、言っただろう、教える気はないと……、ごぼっ!!」

「あのね、選択の余地はないんだよ。いい加減にしないと、殺しはしないけど半殺しぐらいにはするからね」

 まずいなぁ、とは思いつつも真実を聞きたいので、否定するたびに何回も球水で相手を溺れかけさせた。

 そうするうちに観念したのか、犯人が静かに口を開き始めた。

「ハァハァ……、そうだ。俺らはこの街の人間じゃない。兎嵐(とらん)から来た」

 兎嵐とは、この街より南にある藩のこと。広さは国の中では2番目だ。

 ということは……。

「あなた方は(こう)(らい)中等校の出身じゃないってことか?」

 イチがそう質問した。

「その通りだ。兎嵐の中等校出身の単なる一般人だよ。名前は夏川(なつかわ)(きみ)治郎(じろう)

「で、そんな奴がなんで別中等校の元学生を襲っているのさ?」

 夏川は目を逸らしたが、腹を括ったのか少しずつ話し始める。

「お前らは若いから知らんだろうが、20年前、あの中等校でいじめがあって、自殺した生徒がいたんだよ」

「いや、それは知っているんだけど……」

 ケイが空気を読まずに言ったその発言を聞き、夏川が顔を歪めた。

「黙っていなさいっ!」

 アホの後頭部をグーでぶん殴り、しばらくの間黙らせる。

「馬鹿が失礼した。続きをお願い」

 そして改めて夏川の方へ向き直り、話の続きを促した。

「その死んだ生徒、小林蔵乃介(こばやしくらのすけ)は俺たちの初等校出身の奴だったんだ」

 兎嵐でトップの成績を持っていたため昂麗中等校へと進んだ小林さんは、入学した生徒の中でもダントツに、圧倒的に、成績が突出していたようだ。

 運動神経も良く、頭の回転も速いが、それを一つも偉そうに振る舞うことない完璧超人のような人物だったそうだ。

「だが蔵乃介は唯一の地方出身者だからな、仲良くしてくれる奴もいなかったそうだ」

 この国ではよそ者ははじかれることも多いようで、それは学生の間でも顕著らしい。

「そんな中、蔵乃介は出水に出会った」

「いずみ?」

 いきなり出てきた人名に、首をかしげる。

「そこの嬢ちゃんが倒した彼だ」

(あぁ、なるほどね。昂麗中の生徒は彼か)

 これでようやく事件への道筋が繋がった。

 問い詰められる犯人を夏川君治郎きみじろう、サヤカが倒した相手を出水(旧姓:でみず→新姓:いずみ)としました。

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