5.1.待ち人来る
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2020/01/05更新
予想していた答えではなかった。
むしろ、こっちの願いが通じたような連絡に驚く。
「そのまま待ってて。今からそっちに向かうけど、もし行動を起こしたら突っ込んでいいよ」
「分かった!」
早口でそう指示をし、今度はダイヤルを切らずに移動する。風の唸りが聞こえてきたため、イチ、ケイも移動を開始したことが分かった。
行動を起こして十秒が経ったくらいか。
『動いたから行くね!』
マックスがその声と共に行動を開始した。すごい風の音がイヤフォンに響いたため、思わず顔をしかめる。
けたたましい足音がしたかと思うと次の瞬間、金属同士のぶつかる音が耳に届いた。
交戦を始めた合図だ。
向かっている最中、金属音が引っ切り無しに響き合っている。五人もいるが戦闘において、勘が鋭いマックスだ。後れは取らない。だが、
『くっ! くそっ! こいつめ!』
苦々しそうな声を聴く限り、相当苦戦しているようだ。
急いで駆けつけたいところではあるが、マックスの居場所まで約5km。時間にして二十分はかからないけど、すぐに駆けつけられる距離ではないことは明らかで、中々にもどかしい。
マックスの元まで後2kmとした時、
『一人逃げた! たぶん、サヤカの方だよ!!』
マックスがそう叫んだ瞬間、こっちに来たことは分かった。
逃げた理由として考えられるのは、一人でも逃げて復讐を果たそうということか?
(そうはさせない)
こっち方面に来たということは、手前の辺りで待ち伏せしておけば鉢合わせる可能性が高い。
左手に印字された「水」の文字をなぞり、すべての感覚を研ぎ澄まし、いつでも戦闘に入れる体勢をとる。
(…………)
じっと、道の先に目を凝らす。
暑さのせいではない汗が、背中を伝い緊張感が高まる。
いく秒が過ぎただろうか。
突如、急いでこっちに曲がってくる外套を纏った男を視界に捉えた! フードまでかぶっていかにも怪しいため、こいつだろうと判断。
(結構、背の高い奴が来た)
黒い外套を着ているため体つきまでは見えないが、確実に強い。私は空気を思いっ切り吸い込み、相手を見据えてあらん限りに叫んだ。
「おい、殺戮者! 私はあんたの正体を知っている! 倒さなければ明日警察にでも行って、あんたの名前を告げて逮捕させるよ!!」
そして私は山の方向に駆ける。ちらりと後ろを見ると、相手はそれを聞いて速度を上げてきた。
その勢いは、明らかに私を殺そうとする動きだ。犯人に間違いない。
もちろん、名前を知っている訳ではない。叫んだ理由は、ここで戦闘をすると通行人が不意に通ってしまった時対応できず攻撃してしまうことと、街中で目立つようなことをしたくなかったからである。
叫んだ時点で目立つのではないか? というツッコミはやめていただきたい……。
「こちらサヤカ、たった今逃げた奴と出くわした。あともう少しで戦闘に入るね」
全員ダイヤルでそう発信し、後ろの敵をチラ見する。相手はしっかりとこちらを見ながらついてきている。若干フードの隙間から見えたけど……。
(……目が恐い)
絶対に殺す気だな、と確信。私は追いかけさせているつもりだけど、どちらかというと逃げに近い気がする。
足を走らせ角を複雑に曲がるうちに山が近づいてきた。姿を隠すには良い藪が多く、こちらにも勝つチャンスが広がるだろうという予測だ。
(このまま山に入って隠れておけば……)
そう思った途端、私は二つの過ちを犯した。
それは、敵の殺気がすぐ後ろにあること。
それなのに、後方を確認しなかったこと。
慌てて確認すると、相手の拳が胸部を目掛けて放たれていた。
(しまった!)
咄嗟に後ろを向き、両手で受け止めたが勢いを殺し切れなかった。慣性の法則により走っていた方向へ思いっ切り飛ばされる。
その飛ばされた先には……。
(しまった、岩が!)
角ばった岩が迫る。激突は免れない。
(そう簡単にはぶつからない!)
私は自らの力を使うために、両手の平を背中側に向け叫んだ。
[我を守れ"水丸"!]
岩にあたる寸前、自分の背中に水の球体を発生させた。
これはこの世界に存在する「操力」と呼ばれるものであり、私たちの種族は『物操力』というものを使う。
この物操力を用いて私たちは戦っていくのだが……。
「くぁはっ!」
力を使ったからと言って衝撃を消せるはずもなく、勢いは弱まっていたが体から頭ごと激突!
全身に強い電気で痺れるような痛みが走った。
大丈夫!? という心配そうなマックスの声が聞こえてきたが、応えることはできない。
眼前に拳が迫っているからね!