12.重なる不安
晴れて(?)魔人となったサヤカはこの後どうなるのか。
「そうだ、身体に何か変な感じはない?」
固く握っていた手を放すと、湊さんが少し心配そうに尋ねてきた。
「変な感じですか? とくには……」
封力印を印字する前の、身体から溢れ出す感覚はない。
寧ろ今までより穏やかな感じもするぐらいに落ち着いていた。
「まさか、何か反動があるとかですか!?」
「あぁ、そんなことはないから安心して良いよ。ただ、私も力の解放は見るの初めてだったし、気になっただけ」
私の不安を一蹴するように、湊さんは身振りを交えながら答える。
「彩夏ちゃんも大変な道を選んじゃってちょっと心配だけど、何かあったら絶対に言いなね?」
「は、はい! 湊さんありがとうございます!」
改めて湊さんに勢いよく頭を下げる。それを見て湊さんは私の下がった頭を撫でた。
(えへへ……)
撫でられると心がじんわりと温かくなるのよねぇ……。
ひとしきり撫で終わると、湊さんは手を放し沙恵に呼びかける。
「沙恵。もう遅いから彩夏ちゃん帰した方が良いんじゃないの?」
私も顔を上げて沙恵を見た。
よく見ると沙恵は何か難しい顔をして、腕を組み考え事をしている。
「あれ? 沙恵、どうしたの??」
湊さんがもう一度呼びかけるけど、自分の世界に入り込んでいるのか聞こえてないみたいで反応がない。
湊さんも流石に怪訝な顔をする。
「おーい、沙恵! どうしたんだい!」
「えっ!?」
矢の様に鋭い声で再度湊さんが呼ぶと、ようやく驚きながらも反応が返ってきた。
「あぁ……。えっと……」
視線を彷徨わせながら、沙恵は次の言葉を探しているように見える。
「ごめん、ちょっとぼうっとしてた。いやぁ、初めてだったから上手くできるか緊張してたのかもね」
出てきたのはそんななんてことのない言葉……。
「待って沙恵。今” 初めて”って言った!?」
その部分は物凄い聞き捨てならなかったから、そりゃ突っ込むよね。
「だ、大丈夫だったでしょ! 祝詞もしっかり言えたし、変なことにはなってないはずだし!!」
一瞬たじろいだ沙恵だけど、すぐに立て直して私の言葉を打ち返してきた。
「それはそうだけどさ! だからって、ぶっつけ本番とかありえないんだけど!!??」
「ちゃんと言えるように練習はしたもん! 本番で成功したんだから、何も問題はないんじゃないかな!?」
「そういう問題じゃなーい!!!」
「はぁ、全く……。二人ともちょっと落ち着いてちょうだいな」
言い合いばかりを加速させる私達に呆れたのか、湊さんはため息をつきつつ治めようとする。
「彩夏ちゃんの不安も分かる。沙恵が初めてだって言ってなかった責任は私にもあるから、そこは大目に見てね」
私の両肩に手を置きながら湊さんが諭してきた。
「うっ、はい、分かりました……」
ちょっと納得できないけど、言い争ったところで事態は進展しないし、とりあえず甘んじて受け入れる。
「沙恵も事前には言っとかないとね。色々とばたばたしてたから仕方ないところはあるけどさ」
「はぁい。ごめんなさい……」
こっちに向かってきた沙恵に、湊さんは軽い注意をした。
「で、これからどうするの? もうたぶん九刻半(19時ごろ)は回っているはずだけど」
話を替えて、湊さんは今後の方針を沙恵に聞く。
「流石に帰らないとまずいよね。サヤカの家族も心配するだろうし、私も疲れたし」
ということで今回はここでお開きになりそうなんだけど……。
「えっと、じゃあ……」
私は一抹の不安を口にする。
「私はまたあの道を帰らなきゃいけないの……?」
そう、私がこの世界に降り立った場所は、うっそうとした木々に囲まれた緑地で、その道中を遡るとなると人込みを抜け、建物を抜け、そして藪を抜けなければいけないのだ。
「あぁなるほど……。ここから更にかかるんだね……」
私の不安を感じ取った湊さんは、頭をかいて悩んでしまう。
「じゃあ、今日はもう帰れないってことなんですか……?」
家族を心配させてしまうが、今の私に死を選ぶ理由がないので、大人しく留まることを決めようとした。
「えっ? そんなことないよ」
と突然、私達の不安を払しょくするかの様に、あか抜けた声で沙恵が会話へと割り込んできた。
次の話数でこの章は終わります。




