11.儀式へ
準備が整ったので、陣の真ん中に身体を持って行く。
(うぅ……、我慢我慢……)
いくら沙恵と湊さんだけとはいえ、やはり恥ずかしいものは恥ずかしい。
恥ずかしさは抜けないので、胸と下の部分は手で押さえているのだけど……。
(さっきから、沙恵の視線が気になる)
沙恵は陣の外側に立って、いつでも儀式を開始できるようにしているけど、脱いでいる間も私を凝視していたんだよね。
合図はこっちから出すけど、何となく出したくない……。
そう思っていると……。
「やっぱり、良い身体しているね……。ちょっとうらやましい……」
本人はボソッと言ったつもりだろうけど、耳にしっかりばっちり届いた。
なので……。
「えっ? ちょっとサヤカ! 何で近づいてきて……、あっ待って、何か恐い!!」
何も言わず速足で、沙恵の元へと詰め寄り……。
「ヒッ!」
お洒落なピンクの和服の胸倉を思いっ切り引っ掴んで……。
「ああああああああああああああ!!! やめてええええええええええ!!!」
力いっぱい前後左右に沙恵を揺さぶった。
「サヤカ止めて! 吐いちゃう!! 頭もぐるぐるしちゃう!!!」
「だっっったら、変な目で見てこなきゃいいだけでしょ、この変態皇女!!!!」
「分かった、分かったからああああああああああ!! うぷっ……! ちょっ、ほんと……!! 待って……!!! っぷ、はぁはぁっ……」
一通り自分の怒りが収まった(疲れたのもある)ところで、とりあえず沙恵を放す。沙恵はそのまま尻餅を着いた。
「だって、だってぇ……。サヤカはこれから大きくなりそうな感じがして、羨ましいんだもん……」
涙目で言い訳をする沙恵に少々呆れつつ、ちょっとだけ心苦しくなった。
「はぁ、沙恵。私とそう変わらない年齢なんでしょ? だったら、まだこれからじゃないの?」
一応、状況を落ち着かせるつもりで沙恵にかけたんだけど……。
「ほ、本当……? サヤカはそう思う?」
すがるようにこっちを見てきた。
「う、うん。だから、儀式に集中してね?」
そう言うと未来に希望が湧いたのか、沙恵の眼が澄んだ水のようにキラキラしていく。
「よし、分かった! 私、頑張って儀式を成功させるね!!」
一体何が分かったのか知らないけど、とりあえず落ち着かせることには成功したみたい。
「じゃあ、サヤカは元の位置に戻ってね!」
元気を取り戻した沙恵は勢いよく立ち上がり、意気揚々と儀式の準備を行う。
私もこれ以上長引かせないように、陣の中心に戻った。
それから大きく深呼吸をして気持ちを落ち着ける。
「沙恵ー、準備できたよー!」
気持ちも整ったところで、沙恵に合図を送った。
「分かった~! それじゃあ、詠唱を始めるね」
そして一瞬の静寂が辺りを取り巻く中、一つ大きく息を吐いた沙恵が自身の胸の前で両手を合わせ、目をすこしだけ開き、口を動かし始めた。
『汝の見えざる力よ 我が下にその姿を現し その者に力を与えよ』
夢で唱えた言葉を沙恵は復唱する。それに応じるかのように、陣が淡く黄色に光りはじめた。
(また、あんなことにならないよね……?)
あの時の気持ちを思い出し身構える。
けれど、夢の中の一気に爆発する感覚はなかった。
(なんか、身体から溢れてくるみたい……)
代わりに穏やかで暖かな空気が、身体の中を循環している感覚がよく分かる。
そして一通り身体の中に力が回ると、今度はこの身体からすり抜けていく。
「力の解放はできたから次に移るね」
沙恵は私の身体の変化を感じ取り、もう一度息を吐いてから、詠唱を始めた。
『封じる印を教えよ 汝を護り支える印を 描けば力を与える印を その身に刻め』
私を取り巻く黄色の光が一層強く、眩しく包む。
「!!」
そして光に包まれたと思ったら、私の左手に何かが集まってきた。
目を向けると手の甲に文字が浮かび上がる。
痛みはないけど、筆でなぞられる感覚はあった。
それと同時に、光に変化が生まれる。
私の右斜め前に合った円が青く輝き始めたのだ。
青い光は他の光を押しのけ、陣を沿う様に私を覆っていく。
(ま、眩しい!!)
あまりの強さに思わず目を瞑り、私はこの後の行く末を占うしかなかった。
弱まってきたと思い再び目を開けると、眩い光は消えていた。けどその代わりに……。
「あっ!!」
左手には文字が薄い黒色で書かれてあった。そしてその文字は、私が見たことのある力の文字。
「”水”! 私、湊さんと同じ力を持っていたんだ!!」
裸であることも忘れてはしゃいでいる。
「そっか、彩夏ちゃんも水属水種だったんだ……」
ホッとした表情で湊さんがこっちに歩いてきた。
「運命なのか何なのか。まぁそこは考えても仕方ないか……」
それから私の目の前で止まり右手を差し出す。
「おめでとう、とは違うけど、魔人の世界へようこそ」
それは、私の聞いたことのない新しい種族の名。
「ま、まびと……?」
「そう。私達はそう呼ばれ、自らをそう呼んでいるわ」
その手を私は躊躇せず握り返した。
「魔人……。なかなか強そうな名前ですね」
「別に強くはないよ。ただの呼称だからね」
苦笑する湊さんにつられ、私の頬も緩む。
こうしてこの日、私は新たな運命の道を、”魔人”として踏み出すことになった。
「魔人」と書いて『まびと』と呼びます。
また、種族の所の水属水種の"属"の字に関してですが、ここでは合っているので大丈夫です。




