9.神殿へ
晴れて沙恵の護衛任務に就くことになったサヤカ。
これからのことについて話していく、その前に……。
2020/08/12更新
「さてじゃあ、善は急げだね! サヤカの力を解き放たないと」
「力?」
一体何のことやらと思ったけど、あの時の夢で引き出されたものだと分かった。
「あぁ、あの力。あの力……。うぅ……」
分かった途端、その時得た感情も思い出してしまい、胸が苦しくなった。
「沙恵、今度は、大丈夫だよね……?」
よぎるのは、支配欲に蹂躙された自分の心。
そして、全てを破壊せんとする抑えきれない衝動。
甘美でもあり辛苦でもあるその記憶が、私にストップをかけた。
「あっ、そうだよね……。心配になるよね……」
沙恵も思い出したのか、私から視線を逸らす。
「で、でも大丈夫! 私は今回生身だし、対処できる人はいるからさ!」
そう言って視線を送る方向は、当然ながら……。
「そこも私だよりかい?」
湊さんが渋い顔になる。
「だ、駄目ですか……?」
沙恵が手を合わせてチワワのような目でお願いしている。
「うーん……」
腕組みをして思案する湊さんに私はドキドキしてしまう。
「時間はかからないね?」
「半刻(1時間)は絶対に掛からないよ」
「じゃあ、そこまで引き受けようかね」
ということで、湊さんも儀式についてくることとなった。
湊さんって、考える時は考えるけど、割とあっさりOKすることが多い気がする……。
沙恵の部屋を出て5分後。
1階に降りて外へ行き、中庭の芝を縫うようにして敷かれた石畳を歩く。
先頭は松明を持った沙恵が、次に私、しんがりを湊さんの順で行く。
その先にコンビニ大の石造りの神殿があった。
見た瞬間に――。
(まさにファンタジー!!)
と心の中ではしゃぐ、無邪気な無邪気な私がとても恥ずかしい……。
中へと入ると、足元も見えない程の暗闇が広がっていた。
「えっ沙恵、こんな暗い中でやるの……?」
「そんな訳ないよ。今明かりを点けるね」
そう言うと、沙恵は持っていた松明で室内の他の松明へと火を付けていく、と……。
「うわ~!」
照らされたのは円の集合体。
大まかに言えば、一つの大きな円の円周上に中心を置いた6つの円が、円周で接するよう等間隔に描かれている。
その6つの円には色々な模様や文字が描かれてあったけど、そこは細かすぎるので一旦置いておくね。
「これは操力陣って言ってね」
沙恵が点け回っている間、湊さんがこの模様の説明をする。
「王族が特殊な儀式をする時に用いる紋様なの。と言っても、基本的にはこうやって物操力を授ける時ぐらいにしか使ってないけど」
「へぇ~!!」
物語に出てくる魔法陣と同じような感じで、どちらかというと力を増幅させる効果があるんだって。
「彩夏ちゃんの世界には、こういった陣は無いのかい?」
私の反応が新鮮だったのか、湊さんが不思議そうに聞いてきた。
「ありはしますけど、今は本とかでしか見ないですし、地面に描いてあるのは珍しいですね」
「そっちの世界が気になって来ちゃうわね……」
湊さんが何とも少女のような可愛らしい感想を述べる。
ナスカの地上絵とかあるけど、まぁ日本じゃそうそうお目にかからないしね。
「よし!」
点け終わった沙恵がこっちへと戻ってきた。
「後はサヤカの準備が終われば、儀式へ移れるよ」
と、呑気にさらりとそんなことを言ってくる。
「準備って、何も用意してないんだけど……?」
儀式って言ったら、思いつくのはきれいな服に身を包むとか、身を清めるために沐浴するとか、必要なものを用意するとか。
本で読んだ知識はそんなところで、他に思いつくものはなかった。
「大丈夫大丈夫! 別に必要なものはないからね!」
弾んだ声で楽しそうに沙恵は話すけど……。
「とりあえずサヤカ、裸になって!」
一体こいつは何を言い出すのかと思った。
描かれてあった魔法陣を正式に「操力陣」と命名しました。




