8.沙恵の反論
湊さんからの条件提示に憤りを覚えた沙恵は何を言うのか?
「そこまで見くびられているとは、思わなかったよ……!」
強く、激しい激情に身を任せる様に、沙恵は湊さんの言葉を否定した。
「サヤカの人生を変えるようなことをやっているんだよ! 絶対に私に責任がかかってくるのは間違いないじゃん!」
眉間にしわを寄せ、今まで見たことない形相で、沙恵は湊さんに食って掛かる。
「だったら、その責任は私が丸ごと背負うよ! 当たり前だけど、そこまで考え方は子供じゃない! サヤカが私のことを信じてくれているなら、私はその信頼を裏切りたくない!!」
投げつけるような言葉の数々に、私は驚きを隠せなかった。
一方の湊さんは無表情のまま、黙ってその意見を聞いている。
肩で息をしている沙恵は、相当に怒っているようだった。
すると不意にこちらへ向かってきて、私の手を取る。
「へぁっ!? さ、沙恵、急にどうしたの!!??」
「サヤカ、私を信じてくれてありがとう。サヤカがここに来るまで、正直に言うと怖かったの。本当に来るかどうかなんて分からなかったから……」
突然手を握られて真っ赤になる私をよそに、沙恵の眼と言葉は真剣に語って来る。
「でも、私が絶対に約束する。何があってもサヤカの味方でい続ける。都合のいいことを言っているかもしれないけど、私の偽らない、紛れもない、本当の本音だから」
「沙恵……!」
欲しい言葉をかけてもらった。
単純かもしれないけど、普通の言葉かもしれないけど、私にとってはかけがえのない約束だ。
「信じてきて良かった……」
途端、視界が霞む。
「あれ、何でだろう……? 嬉しいのに、何で……?」
目の前にいるはずの沙恵の顔はしっかりとぼやけ、輪郭が分かるかどうかすら怪しい。
右手で涙を拭うと、沙恵が優しく微笑んで、私に語り掛ける。
「サヤカ。私は頑張るよ。夢の中でも言った通り、私にはサヤカが必要なの。誰でもよくない。サヤカじゃなきゃいやだ」
最後の言葉に思いの全てが乗っている気がした。
皇女らしくない、喜怒哀楽の激しい女の子だけど、芯の強さと真の強さを持った彼女の心にすっかり虜となった。
私も何とか笑顔を作って応える。
「大丈夫だよ沙恵。私も頑張る。沙恵を守れるように、頑張って強くなるね。だから……」
言葉を切り、落ち着けるように深呼吸をし、気持ちを整えて、この言葉を使う。
「これからよろしくね、沙恵」
約束なんて今更ながらしたことがなかったことに気付いた。
できる友達なんていないし、親とはそんな関係でもなかったしね。
だからこそなのかもしれない。沙恵のことを誰よりも信頼して約束できるのは。
右も左も分からないような小娘なのに。
他にも絶対に色々いたはずなのに。
それでも、私を選んでくれた。
そして約束してくれた。
それだけで十分だった。
「こちらこそ、よろしくサヤカ」
互いにもう一度両手を重ね、強く握り返す。
もう迷うこともない。
導いてくれた沙恵のために、私は共に進もう。
二人で絆を共有していると、沈黙していた湊さんが咳払いをした。
「はぁ、全く。勝手に二人だけで決めちゃって……。どうするつもり何だかねぇ……」
(あっ、そうだった……。まだ湊さんに許してもらってない……)
不安が胸に騒めく。沙恵も同じなのか、固唾を飲んで湊さんの言葉を待った
「でも、沙恵の覚悟は分かったよ。あんたがそこまで気持ちを固めていたのなら、私は否定する立場にいないからね」
「「!!」」
諦めた笑顔でそう語る湊さんの声音は、ふわふわしていてとても優しい。
「後は、国王をしっかり説得しなさいね」
「湊おばさん、ありがとう!」
沙恵が満面の笑みで湊さんにお礼を言った。
「湊さん、ありがとうございます!」
私も続いて湊さんへお礼を伝える。
私と沙恵はこの日、主従関係を……。
ううん、違う。
"親友"の関係を結んだ。




