7.湊の回答
湊の言葉を受けてもなお、ここで任される仕事を請け負いたいサヤカ。
その熱意に湊は……?
頭を下げ続ける間、湊さんは話すどころか動くこともない。
その表情を見たら凍りつくと思って、私は顔を上げられなかった。
「……はぁ、若いって怖いものねぇ」
ようやく錠がはまっていた口から、言葉が紡がれる。
「彩夏ちゃん、良いかいよく聞いて」
あっ、やっぱりだめだったかな……? と思って頭を上げたら、右手を私に向け人差し指を一本立ててきた。
「は、はい」
「まず、何かあったら私に知らせること。あなたはこっちの世界を知らないんだから、絶対に一人で抱え込まないで」
続いて親指を開いた。
「で、命の危険を感じたら逃げること。この世界で死んだら絶対にダメだからね」
その2本の指を開いたまま私に差し出し、厳しかった視線が和らいだ。
「この二つをしっかり守ってくれるのなら、私は反対しない。応援することを約束するよ」
「!」
まさか、そんな言葉が聞けるとは夢にも思わなかった。
「湊おばさん……、本当に良いの……?」
沙恵も同じ気持ちのようで、湊さんへと目線を移したまま動けないでいる。
「あくまでも、私の提案したことを守れるならの話ね。守れないようであったら、私は反対し続けるから。そこは忘れないで」
念を押して私達に言い聞かせる。
「み、湊さん……!」
条件はあるけど承諾への障害にはならない。
何より、応援してくれることがとても嬉しかった。
胸が熱くなる。
全身に力がみなぎってくる感じがする!
でも、一旦落ち着けて姿勢を正し、背筋を伸ばす。
「ありが……」
「おばざんありがどー!!」
「ちょっ!?」
と、感極まった沙恵が、あらゆる水を顔にまとわりつかせて、湊さんの胸へと飛び込む。
湊さんはその前に沙恵の頭を抑え込み、近づけさせないようにした。
「その顔で飛びついてくるんじゃない! あと、納得している訳じゃないからね! 沙恵、そこに座りなさい!!」
鬱陶しい沙恵をとりあえず遠ざけて、服を直しながら沙恵の方を向く。
沙恵はぐしゃぐしゃになった顔を拭いて、言われた通りにする。
「良い? 私はあくまでも、彩夏ちゃんの熱意を感じて折れただけで、あんたの行動は許しちゃいない。安易に力を使って、異世界から呼び出したんだから、それは叱って当然。分かった?」
「うっ、はい……、反省します……」
しょぼくれている沙恵から小動物感が出てきた。
脊髄で動いているのかもしれないこのアホ皇女、と思ったのはこの頃ぐらいだろうね……。
「それと、あんたにはもう一つ」
そうしてまた、湊さんは人差し指を立てて条件を付ける。
「あんたも、彩夏ちゃんのことを守ること」
「……え?」
私は突然の発言に目が点になった。
「あんたがここまで彩夏ちゃんを連れてきたのなら、カンゲン国にいる権利はあんたが保証すること。守られるのは沙恵だけじゃない。彩夏ちゃんだって守らなきゃいけない存在だってことを、しっかり肝に銘じなさいね」
今にして思えばその通り。
自分の行動に責任を取らせるよう、湊さんは沙恵に言い聞かせていた。
空気からは、断れば私の加入を許さない。そのはっきりとした意志を感じた。
「おばさん……」
沙恵は顔を俯き、肩を震わせている。
(やっぱり、駄目なのかなぁ……)
ここで一瞬、沙恵が情けなく感じた。結局はノリで来たために、責任を取らされるとは思わなかったのだろう。
そう思い私も落胆しそうになった。
「そこまで見くびられているとは、思わなかったよ……!」
この言葉を聞くまでは。




