9.二人の思いは
途中で語り手が変わります。
話題が切り替わり、私は湊さんの話に耳を傾ける。
「そう。何せ今のあなたは『住所不定の少女』だから、ちょっとでっちあげる必要があるの」
確かにその通り。
見てくれは何とかこの世界と一緒だけど、中身は未だに「得体の知れない少女」だ。
「でも、どうすればいいんですか……? 私この世界のこと、何にも知らないんですけど……」
「そりゃ不安だよねぇ。それで、どうやって誤魔化すか考えていたんだけど……」
それから湊さんはこの後の流れを詳らかに話す。
「えっ!? そ、そんな感じで良いんですか!!?」
大人しく聞いていたけど、思わず声を出してしまった。
「大丈夫大丈夫! 別にそこまで門衛たちも気にしないだろうしね」
「で、でも、私は緊張しいで、ボロが出てしまうことも……」
「心配し過ぎ。確かに色々と不安なことはあるけどさ」
すると湊さんが、私の方へと近寄って来た。
自然と隣に座られ、私を見つめる。
「皇女様に会いたくはない?」
その一言は、私に勇気の火を灯した。
「沙恵に……、会いたいです」
「そうだよね。だったら、緊張することもないんじゃないかな? 会いたい気持ちはそれだけ強いんだから」
小さな頭を撫でられる。優しさの湯に包まれているような感じがした。
「難しいかもしれないけど、私の言った事を信じてくれたら嬉しいな」
「……はい」
私はそのまま馬車の揺れもあり、湊さんに身体を預け、その意識を手放した。
眠りについたことを確認し、サヤカちゃんの頭を自分の腿に乗せる。
(疲れたね。まずはゆっくりお休みよ……)
初めはびっくりした。
どう考えても常識を知らず、ありとあらゆることに興味を持ち、あまつさえ、自分は別の世界から来たというのだ。
でも、彼女からは力の一つも感じない。封力印も見当たらない。見慣れない衣装を着ている。
信じられる要素の方が多くあり過ぎるのだ。
(ちょっと甘いのかねぇ。こんな簡単に信用してしまうなんて……)
「寝たのか?」
旦那が馬を操りながら聞いてくる。
「うん。この子もまだまだ疲れが抜けてなかったんだろうね」
また頭を撫でる。何とも小さな身体に、私はその苦労を思う。
「まるで、母ちゃんが来たときみたいだな」
「えっ?」
「何も知らないままで急に放り出されて、一般常識なんてものを持ってなくてさ、苦労してたもんなぁ」
「……もう昔のことは忘れたよ」
そんなことはない。はっきりと覚えている。
ただ、同時に悲しい記憶も同居してしまっているから、あまり思い出したくはない。
「ははっ。まぁ、母ちゃんが話したくなければいいさ」
旦那はなんだかんだ言って、深い傷をえぐることはない。
根はお人好しだから、嫌がることは本人が嫌だろうな、とはいつも感じている。
「しかし、とんでもないことに巻き込まれていないよな……」
「と言うと?」
旦那が声を少しひそめて、話題を変える。
「聞けば沙恵皇女のお客様だろ? 皇女の行動はいつも突拍子もないが、今回は異世界人を連れてきているんだ。警戒してしまうのは……」
「まぁ……、ね」
言わんとすることは分かる。
何故私達の元に来たかはさておき、関わるはずのない世界から連れてきたのだ。
何を企んでいるのか、全然分からない。
「でも、今は信じよう」
ただ、分からないからと言って、弱く健気なこの子を放っておくことはできない。
「彩夏ちゃんをとにかく皇女に合わせることを考えて、今は進むしかいない」
「だな」
「それに、人間の感情に敏感だから、まずは私達が信じてあげないと、この子がこの子自身を信用できなくなる。それはダメだからね」
私達は改めてこの子を守ることを決意し、夕景が彩る街並みをゆったりと進んでいった。




