6.感じ考え思いの行く先
鎌足夫妻のことが何となくわかってきたサヤカ。
そして、夫妻が何故サヤカを受け入れられたのか? 答えが明かされます。
そんな友彦さんを横目に、湊さんが再びこちらへと顔を向ける。
「まぁ、どんな感想を持ったかはさて置き、私達があなたの言葉を受け入れたのは結構単純明快でね」
話を疑問点に戻して、湊さんは疑問にしっかりと答えることにした。
「私達二人とも昔話が好きでね。特に異世界から人が来た話はとても大好きなの」
聞いていくと、何とも本当に単純だった。
この国では昔から、別世界から来た人たちの話がちらほらとあって、それを書き記した書物も多くはないもののあるらしい。
お伽噺化したり、史実に近い状態で残したり、はたまた口伝を元に書いたもの等々。
しかし、それを信じるのは子供の頃までで、大人になるとその幻想は真っ白に塗られ、ありえない話へと昇華されてしまうそうだ。
「でもね。中にはその幻想を捨てきれないまま、大人になってしまう奴もいるのよ。ここにいる夫婦はどっちもそんな感じね」
そう言って、湊さんは自分と友彦さんを交互に指さす。
「もちろん、強く信じていたわけじゃないけど、会えたらなぁ程度だね。それでも、心の底では信じていた。だから、彩夏ちゃんから話を聞いてもあまり驚かないわけよ」
それが根拠だと表情には真剣に出ていた。
「で、でも、もし、私が嘘をついていたら、どうするんですか……?」
湊さんの言葉を何故か鵜呑みにしたくない私は、あえて挑戦的に噛みつく。
「だ・か・ら、さっきも言った通り、確信に至る理由は2つあったでしょ? そして、それを裏付けるかのように彩夏ちゃんが話したので、ほとんど確定!」
真っ向から噛みついた私を振り払って、湊さんは目を据わらせた。
「これ以上は恐らくどんな反論も返り討ちにできる。何なら、あなたが王城に行けなくなるまで付き合ってあげても良いよ?」
「うっ! それは……」
議論の無駄、の文字が私と湊さんの間に挟まる。
「じゃ、じゃあ、信じて、くれるんですか……?」
恐々と伺い見るように湊さんに問う。
「そういうことだね。全く、疑り深い娘だこと」
二人とも柔らかい笑顔で私を見つめた。
そうか。
人はこんなにも温かいものだったんだと、私は初めてこの時感じた。
いや違う。
忘れていたのかもしれない。
暗く湿った重い土の中で、隠されてしまった気持ちが、眠りから覚めるようだった。
「ほら、手拭」
そうして湊さんが一枚のきれいな布を私に差し出す。
「えっ?」
「零れたものは拭かないと、ね」
言われて目元へと手を伸ばす。指先に何か湿ったものが触れた。
しかも、まだ流れてくる。
「な、何で、こんなに……?」
止まらない。止まってくれない。止めることもできない。
手拭を受け取り覆っても、奥から溢れ出して抑えられなくなっていた。
「うぅっ……、うわぁ、うあああ……」
その雫の意味に気付いた時、私は嗚咽を漏らすしかなかった。
「おいおい、どうしたんだい嬢ちゃん!?」
友彦さんが駆け寄って来るけど、留まることを知らない涙のせいで顔を上げることができない。
途端――。
「……!?」
柔らかな胸が肩に当たった。そのまま、抱き寄せられる。
思わず左目の端でその人物を捉える。
「湊……さん……?」
私の頭を撫でながら、右肩を抱き寄せて見つめていた。
そして口元がゆるりと動いた。
「泣きなさい」
耳元で囁かれた、たった5文字の短い言葉。
胸の堰を全て崩壊させるのに十分な爆弾であった。
人の温かい心が、狭い監獄で穢れた心を、全て洗い流してくれる。
「泣くのは弱いことじゃない。泣いたからこそ、また前を向けるんだよ。彩夏ちゃんはさ、今まで我慢してきたんだろうね。だけど、駄目だよ我慢しちゃ」
それからもう一度頭をさすり、もっと胸元へと私を引き寄せる。
「もう大丈夫。私達がついているからね」
私は初めて自分の意志で、この現実世界で、獣の咆哮の様に泣き喚くのであった。
更新が遅くなり申し訳ありません!
木曜日はしっかり休みを取りますので、次はその時までに!!




