2.今いる現実へ
少年の言葉が心に引っかかったまま終わってしまった、不思議な夢。
残された気持ちを持て余したまま、サヤカは目を覚ます。
眩いオレンジが顔全体を覆う。
あまりにも強い光に瞳は驚き、私の意識を闇の底から引き上げた。
先程まで見ていた夢は、悪夢なのか、それとも良い夢なのか?
まだ定かではないけど、見つけるまで纏わりつきそうな夢ではあった。
(不思議なことが多すぎるよ……)
しかしそんな夢以上に、頭はこの3日で押し寄せてきた強弱のついた出来事で既にパンクしそうだ。
そしてクラッシュの最後の引き金は間違いなく、先ほどのバトルであろうことは容易に分かる。
(何だったのあれ……?)
人の手から水、火、風、雷……。情報量の多さはこの3日の中で最多であろう。
そりゃ、前情報もなしに繰り広げられたら気絶するよね。
(何だかファンタジー世界に迷い込んだみたい……って思うの、何度目だろう……)
この世界に来てから何度も経験しているはずだけど、全く慣れない。
寧ろ、不思議の樹海にどんどんと迷い込んでいる気がする。
しかも、既に深いところまで潜り込んだようだ。
抜けるのはいつになるんだろう……?
(そういえば、ここはどこ……?)
ちょっと物思いにふけっていたから、とりあえず瞼を持ち上げる。
目の前に飛び込んできたのは天井。梁に木の板が渡っているシンプルな造りだ。照明器具もなければランプもない、ただただ一面を梁と木の板を渡してあるだけだった。
右に少し顔を向けると障子を張った戸があり、少し開いたその隙間から日差しが差し込んでいる。
その奥に見えるのは庭だろうか? 大きな石が置いてあり、その向こう側では光が揺らめきながら反射し、真上にある大きめの樹木に映っていた。残念ながら手前の廊下に遮られ地面は見えなかったけど、蝶が飛んでいたので、何かしら植わっているのは分かった。
今度は反対方向に顔を向ける。
初めに木製の戸があることに気付いたけど、その横の風景にすぐ気を取られた。
(壁が土でできてる?)
目に映ったものは歴史資料館ぐらいでしか見たことのない土壁。少しだけひび割れが目立っていたけど、しっかりと塗られていた。
そして上を見て少しぎょっとする。
(びっくりした……)
上には竜がいた。
とは言ったものの、木の板に彫ってある竜(確か欄間っていったっけな?)で、私を見下ろしているだけだ。
けど、表情は鬼気迫るものがある。
これからの私の行く末を案じているのか、それともこの世界に迷い込んだ私をせせら笑っているのか……。
(作りものだから、そんなこと考えても仕方ないんだけど……)
右腕を覆いにして再び目を閉じる。
一旦考える事を止め、しばし静寂と戯れることにした。
普通に生きていたら、出会うはずのない出来事からの脳の回復。
普通に生きてきたら、遭遇するはずがない世界からの心の回避。
そのために私は、さっきまでとは違う闇の中へと再び舞い戻る。
暫くすると、左から戸の開く音が聞こえた。
「おっ? 目が覚めたかい?」
聞き覚えのある女性の声だ。
腕を少しずらし、薄眼で確認する。
「湊さん……」
心細かったため、蚊の鳴くような声で呼びかける。
「はいよ」
お盆を持って入ってきた湊さんは、なんてことないような感じで優しく声を掛けてくる。
それから静かな足取りで私の横へと歩いてきた。
「よっぽど疲れていたのかねぇ? もう随分と寝ていたよ」
持っていたお盆をそっと私の枕の横に置き、綺麗な所作で座る
「えっと……。今何時ですか?」
恐らく聞いても分からないんだけど、とりあえず尋ねるだけ尋ねてみる。
「それは……」
しかし、湊さんは少し唸って、考えながら答えを述べた。
「それは、こっちの世界の時刻で言って良いのかい?」
私はさっきまでの微睡みを忘れて、思わず飛び起きた。




