9.怒りの開戦
湊さんの言葉に、憤りを隠せない男たち。
両者の睨み合いも、限界に近くなってきた。
憤るリーダーを他所に、湊さんは悩まし気に頭をかく。
「雑魚とまでは言ってないけど、弱いと思っているのなら、鍛えればいいのにとは思っているよ?」
そして、更に煽った。
丁寧な疑問符をつけて、間違いなく男たちの怒りを焚き付けた。
「お、おばさん……、ちょっと待って……」
「何だい?」
チラッと私を見やる。
「いや、これはまずいのでは……」
「お嬢ちゃん優しいね。あんたは人の痛みを分かる良い子だよ」
そう褒めてくれるが、顔は真逆だ。
「だけどね、今回の件についてはいくら何でも度が過ぎているんだよ。だから、お嬢ちゃんが恐怖で怒ることができない代わりに、私が怒るのさ……」
その言葉には力があり、とても反論はできなかった。
「お嬢ちゃんはもう少し後ろにいなさい。ここは巻き込む可能性があるから」
静かな、しかし覇気のある声は、私をその場から離れさせるのに十分だった。
素直に後ろへと下がる。それでも、おばさんと男たちの会話が聞こえた。
「さて、力を発揮できる環境は整ったけど、どうするか決めたかい?」
「うるせぇよ、ババァが……」
「あ?」
どうやら、犯人たちは相当腹に据えかねているようだ。
「婆の望む通り、全員で一篇に襲ってやるよ!」
その合図で6人が一斉に、おばさんへと飛び掛かった!
「おばさん、危ない!」
私は逃げるしかないと分かっていながらも、精一杯叫んだ。
「あぁあ、本当に一気に来るとはね……」
聞こえた声は、やけに冷静だった。
ゆっくりと手をクロスさせ、手のひらを外側へ向ける。
[抗うものへ水の怒りを、水突!]
何かを言い放ちながら、クロスさせた手を一気に開いた。すると――。
男たちに向かって水の柱が放たれる!
その勢いは噴水のそれより、間欠泉に近かった。
「のわっ!?」
「な、何だ!?」
「だじげで……!」
各々の叫喚と絶望した声がこだまする。
私は訳が分からないままその様子を見ていると、攻撃を避けた奴が一人いた。
私に猫撫で声を使ってきたリーダー格の奴だ!
「俺はこいつらと違うって教えてやる、クソババア!!」
そして三度、湊さんをババア呼ばわりした。
「……」
無言の湊さんの後ろ姿しか見ることができないけど、どう考えても……。
(ぶちぎれてないかなぁ……?)
冷静に立ってはいるけど、背中に私の怒りとババア呼ばわりされた怒りが映っている。
「そこまでして、私に半殺しにされたいのかい……?」
口から追出た言葉は、死刑宣告に等しかった。
「うるせぇんだよ! どうせ、足止めぐらいしかできねぇくせに!!」
猫撫で声野郎は言うや否や小刀を振りかざし――。
[確かな一撃を、雷穿!]
横に凪いだ瞬間、いつの間に溜めたのか分からない雷撃が、湊さんに向かう!
私は思わず目の前を手の平で覆った。
「ぎゃあっ!」
(?)
しかし、聞こえたのは女性の悲鳴ではなく、男の物であった。
慌てて開くと、湊さんは相変わらず平然と立っている。
攻撃をした奴は悔しそうな顔で湊さんを睨みつけている。
目線を下に落とすと、倒れている人影が一つ増えていた。
ピクリとも動かないところを見るに、私は察する。
「大きな攻撃には注意しないと、こうやって避けられたら仲間に当たっちゃうでしょ?」
やはり、湊さんは攻撃をきっちりといなし、寧ろその攻撃を別の輩に当てたのだ。
「くそっ……!」
仕留めたと思っただけに、相手の精神的ダメージも大きいようである。
同時に、男たちの攻撃の手が止まった。
どう攻めればいいのか迷っているようだ。
「どうしたの? 攻めるんじゃなかったのかい?」
相手の勢いを再び焚き付けるが、今度はその言葉に従わない。
少しの間、互いの行動を注視するように睨み合うが、先に動いたのは湊さんだった。
「じゃあ、来ないのであれば、今度はこちらから行かせてもらうからね」
その一言を発した瞬間、左足で思い切り飛んだ。
「ひっ……!!」
直後、一番右にいた男が胸倉を掴まれる。
「ボーっとしている暇はないんだよ! そのぐらいあんたらは、私の怒りを買っているということと、覚悟を持って攻撃しているということだからね!!」
そのまま近くにいたもう一人の男に向かって突進したかと思うと――。
[我が怒りを水の強さに、強水突!]
先程より強い水の柱が左手から放たれ、掴んでいた男の鳩尾にゼロ射程で当たる!
その勢いのままもう一人に、捕まれていた男が飛んでいき、避けることもできず当たると、そのまま壁に二人まとめて激突させた。
二人はそこでピクリとも動くことなく、意識を失う。
「私が受けるとでも思ったのかい? それはあまりにも浅はかすぎるよ」
飛んでった二人にそう吐き捨てた。




