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3.差し出されるやさしさと厳しさ

 おじさんを追い返してくれた彼女は、太陽のような温かさを持っていた。

 おじさんが馬車に戻っていくのに合わせ、周囲の野次馬も散開していく。私への注目の目はほとんどなくなっていた。

 その姿を見送って安堵していると、襟首から握りしめる感触が消えた。そして、おばさんがこちらを睨むようにして向いた。

「あ、あの……えっと……」

 私はつい緊張で口ごもる。


 お礼を言わないと……。

 キチンと言わないと……。


 喉につかえを感じていたが、ようやく空気の塊を押し出す。

「た、助けていただいて、ありが……あうっ!」

 しかし、感謝の言葉はチョップにより中断させられた。痛くはないけど、何でチョップされたのか分からない。

「な、何するんですか……?」

 ちょっとだけ文句を言うが、おばさんは少し怒った顔で私の目を見つめる。

「彼にはあぁ言ったけど、お嬢ちゃんも急な飛び出しは本当に気を付けてね。あと一歩遅かったら、見たくないものを見ざるを得なかったんだから……」

「ご、ごめんなさい……」

 思わず目を逸らしてしまう。

 そう言われるとは思わなかったが、顔と裏腹にその声音からは優しさが滲み出ていたのは分かった。

「でもまぁ、無事でよかったよ。あなたの命が一つ助けられたってだけで、今日は良かったと思うしね」

 彼女は首を傾げ笑顔になる。緊張の糸がするするとほどけていくのが、見えなくても感じられた。

 おばさんの太陽のような温かい笑顔のおかげか雰囲気も温かさに包まれて、私は改めて自分の口を動かす。

「助けていただいて、ありがとうございます」

 今度ははっきりとした言葉にして返すことができた。

「うんうん、お礼を言えるいい子だね」

 嬉しそうにおばさんはほほを持ち上げ笑顔を深める。それに引っ張られるようにして、私も少し笑顔になった。

「それで、」

 前置きをされた瞬間、おばさんは少しだけ笑顔を崩し真顔になった。

「あなたは一体どこへ行くの?」

 私はドキッとする。

「えっと……」

 ちょっと恐かったけど、何とか目を見つめ。

「あっち」

 そう言って、私は行き先を真っ直ぐに指差す。

 目線を指す方向へおばさんは目を向けてくれた。しかし、何か怪訝そうに眉をひそめ、少し思案してから尋ねられる。

「王城……ね?」

 その言葉に素直に首を縦に振る。

「でも、こんな時期に何で王城へ?」

 そんなに変だっただろうか? と思うのも無理はないので、当然私は逆に疑問符を頭に浮かべ、首を傾げた。

 その表情を見て、ますます深いしわが眉に寄せられる。明らかに疑われているのが分かって、私は内心(ばれたら何かされるのかなぁ……)と不安に駆られた。

「まぁ、詮索しても仕方ないし、子供にそんなこと聞くのも酷ってもんよね」

 一瞬のうちにおばさんは表情を一気に崩し、全く興味がないようにあっけらかんと、皺なんてなかったような顔で言い放った。

 私は逆に困惑したが、ここで意味深長な雰囲気で尋ねると離れてくれた意識をこっちに戻しそうだったので。

「……」

 無言を貫くことにした。

「フフッ、なに大丈夫よ。別にこれ以上あなたに関して聞くことはないからね」

 おばさんはさっきと同じような笑顔を私に向けてくれる。

 心の中は見透かされていたようであるが、とりあえず深く詮索されることはなくなったので一安心。

 その代わりに手の平が頭の上に優しく乗り、くしゅくしゅと撫でられる。その手は少しごつごつしていたけど、優しく温かい。

 そして頭から手を放すとよいしょっと立ち上がり、左手を腰に当て、右手を差し出してくる。

「さて、じゃあ行きましょうか。途中までになるかもしれないけど、それまで一緒におばちゃんが行ってあげようではないか。人通りの多い時間だし、親も見当たらないなら大変でしょう?」

「……え?」

 彼女が矢継ぎ早に紡いだ言葉の意味を咀嚼する。

(行ってあげるってことは、お世話になるってことだから……)

 理解した私は罪悪感を覚える。差し出された手にも躊躇してしまった。

「い、良いんですか? め、迷惑なんじゃ……」

「何? じゃあ、ここに置いて行ってもらいたいの?」

 ネガティブなことを言った私に、少し目を細めくぐもった声で女性が尋ねる。

 一瞬、息が止まった気がしたが、何とか吐き出し……。

「で、では……、お願い……いたします……」

 こんな見知らぬところに置いていかれたら、恐怖で足腰が立たなくなるため、当然お願いするに他なかった……。

「そうそう、素直に人の親切は受け取ることよ。分かった?」

「は、はい!」

 はっきりと私は返事をした。その返事に納得がいったのかまた眦が下がり優しい顔へと変化した。

「うんうん、良い返事だ」

 そして、女性はもう一度右手の平を差し出す。

「じゃ、行こうかね。今度はどうかな?」

 まるで挑発するような、だけど確信を持った表情と声で私に問いかける。

 私はその答えを返すように、躊躇うことなく彼女の手を掴んだ。

 そして、引っ張る力に合わせて脚に力を込め、勢いよく立ち上がった。

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