1.目に見えた目標物
ようやく3章に突入……。
沙恵に導かれて行く先は、天国か地獄か……。サヤカの運命はいかに?
気が付けば私は、見渡す限りの森の真ん中に立っていた。
ただし、うっそうとした感じではなく、空が見えるくらいには木々同士に隙間があり、辺りは木漏れ日よりも強い光に包まれていた。
空気から察するに夏間近のようで、風は少し暑さを感じる。
(こ、ここは……?)
ようやくどういう状況か理解し、頭の中が少し晴れる。
(つ、着いたってことで……、良いの……かな?)
疑いは晴れないが、疑っても仕方ないのも分かっている。
なのでとりあえず向かう方向を決めようとするが……。
(どっち行っても、汚れちゃうんだ……)
さっきも言った通り”見渡す限りの森の真ん中”に立っている。
ということは、必然的に周りは藪のため、どうあがいても汚れるしかないのだ。
(白い服着てくるんじゃなかった……)
まぁしょうがないと、思って私は太陽の昇っている方向へ進むことにした。
歩き続けて30分くらいだろうか?
服はすっかり木の葉とその他の汚れで、真っ白から茶の斑に変化していた。
段々と視界も開けていき、少し小高い丘に出ることができた。
「んっ?」
(何か見える?)
少し目を細めて遠くの方を注視する。
そのシルエットが段々と脳にインプットされていくと、私は次第に心の昂りを感じていく。そして、誰もいないことを確認して……。
「……ぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!?」
女の子らしくない声を出してしまった……。はしたないったらありゃしない……。
それもそのはず。
今このおっさん少女の目の先には、ドイツやフランスで見かけるような、石造りの壁が取り囲んでおり、その中央付近に高い塔のようなものがある、旅行雑誌でよく見かける建物――西洋城があったからだ。
(ヨーロッパ見たいだぁっ!)
前にも話した通り、私は昔っからファンタジー系の読み物が好きである(成長した今もそう)。当然、出てくる建物は西洋系の建物ばかりで、西洋城は特に憧れであった。
だから、欧州の城は本に出てくるとくまなく見ていたし、テレビに出ようものなら心の中で静かにはしゃいでいた。
こんな感じだから、本物の西洋城を目の当たりにして思わず叫んでしまったという訳。
興奮冷めやらぬ中、私はその城に一刻も早く足を踏み入れたいと思い、一直線に駆けだした。
「うわぁっ!!」
そして、その先が下りになっていることをすっかり忘れてしまったため、ある意味一気に近づく形で転がっていく。
「きゃああああああああああああああああああああ!」
かなり長くゴロゴロと転がっている気がしたが……。
「きゅぅ……」
ある程度平らになった地点でようやく止まった。
「痛たたた……」
地面をローリングしたため、ますます茶色が支配する服となってしまう。というよりも既に、白の領域は何処へ? 状態だ。
(あぁ、どろどろになっちゃった……。お母さんに怒られるだろうな……)
そんなことを思いつつ。
(もう! 沙恵に会って色々と聞かなきゃ!!)
沙恵に会う方が優先順位の一番上となっていた。
このファンタジー脳はどうしようもないのか……。
あっ、私だ……。
「はぁっ、はぁっ、はっ、はぁ……」
歩く速度はさっき以上に遅々としており、早まることがない。
いかんせん平原に出たと思ったらまた森の連続で、その中は出発点とは違い木々の天蓋が太陽を遮り、足元を目隠しするかのように藪のベッドが敷き詰められていたからだ。
(さっきよりも歩きにくいんだけど……。こっちで本当にあってるのかな……?)
既にボロボロの服は尚更汚れ、所々ほつれていくばかりであった。しかし、そんなことはお構いなしに、暗がりをひたすら私は進んでいく。
すると……。
「!」
少し遠くの方、横一線に途切れることのない、光が続いている場所ができていた。
(あっ、もしかしてあれって……!)
更にその光の中を行き来する影も目に映ってきた。
気力が奥底から湧き上がる。
足早とはいえずとも、着実にその光に向かって足を運ぶ。
そして何とか、森を抜けて道っぽいところに出た。
道っぽい、というのも、舗装もされておらず、ただ土がむき出しで踏み固められているだけだったから。
人の往来がちらほらとあることから「道っぽい」と思ったという訳。
そして何より私が感動したのは……。
(みんな、和服着てる!)
明らかに現代ではなかなかお目にかかることのできない、艶やか……ではないが沢山の和服を着た老若男女がいたからだ。
(でも、何で和服なんだろう?)
お前はもうちょいこの状況で考える事があるだろに……、とは言っても仕方がない。
(あっ、そうだ! 城はどこ?)
ここまで藪続きで視界を大きく防がれていたためか、肝心の目標を見失っていないかと焦る。
(確か、山を下りていく方向だから……)
道は明らかに右側に下っている。そっちの方向に進むのが自然というものだ。歩く間も珍妙な目で見られるが、気にせず突き進む。
逸る脚が止められない。
気持ちに背中を押されている気がする。
心臓は早鐘を打ち、急かすように息を切らせる。
顔は口元が綻んでいるのだろう。頬が上がっているのが分かる。
「あっ!」
そして願った通り、少し行った先に丘で見た城は見えた。
(まだ歩かなきゃいけないの……?)
しかし、予想しているよりも存在は遥か遠い。その距離をまざまざと見せつけられた。
(でも、沙恵に会いたい……!)
目で確かめるまでは。
手で触れるまでは。
耳が聞き取るまでは。
声を届けられるまでは。
その思いをしっかりと胸に手繰り寄せ、私は歩みを進める。その歩き方には迷いなど微塵も感じなかった。




